第29話 また設定が狂っています
ライトとカゲロウと共に街に来た私。
ここでまた下町娘として好き勝手したいところだけれど……
「………」
うん、ライトが怖いので適度に偵察します。
と言っても、サンチェス国の特産は食べ物であり食材を売っている店がメインで、私の立案した系の店は無いに等しいんだけどね……
被服はテイラー国や他の国から、商人が持ち込んで露店で販売、が主体。
だからもしランドルフ国がテイラー国と同盟を結べたら、サンチェス国も同盟国経由で店を出して貰えないか交渉できるんだけど。
………うん、これもラファエルに頼んでみようかな……
ラファエルの負担がない時にでも。
さすがに今のラファエルに負担を増やす非情なことは出来ない。
サンチェス国での甘味販売・テイラー国への機械販売・糸の研究・更にテイラー国へ新たな機械開発。
全てラファエル主導で責任者。
率先して全ての事に手を出しているラファエルに仕事を増やせば……
「………流石にラファエルが倒れる」
ラファエルだって一人の人間だ。
疲れが溜まれば寝込んでしまうだろう。
疲れているのに私の布団で寝るのはどうかと思うけど……
恥ずかしいのもあるけど、もっと自分を大事にして欲しい。
考えた事は私が全て書面にして、最終的にラファエルに指揮してもらおう。
最後の確認と実行だけになれば、負担も軽くなるだろうし。
ホントは新規機械開発にも私を入れて欲しいんだけど……
日本の知識が役に立つかもしれないし。
でも、ラファエルから言われないことには言い出せないし……
むぅ……
厄介な性格をしているよね、ラファエルって…
………そ、そこも好きになってる私も、相当な趣味だよね……
って!
し、思考が別方向に行ってる!
も、戻して戻して!
「………姫、挙動不審な行動はお止め下さい」
「ぐっ……」
一人あわあわしている私に冷静に突っ込んでくるライト。
いいよねライトは!
いつも冷静で!!
「ねぇねぇ姫様」
「なに?」
「………あれ。バカ令嬢がいるよ」
「ば……」
カゲロウが前方を指さして私を見上げてくる。
バカ令嬢って誰のことよ…
見ると、思わず“ぁぁ……”っと納得してしまった…
………って違うわ!!
「カゲロウ、仮にも令嬢にバカを付けるんじゃありません」
「………そこ、どうでも良いです姫」
「良くないでしょ。大事な所よ!」
「いえ、それより、あのバカ令嬢の行動をどうにかすることが先かと」
「………」
ライトもバカ令嬢と言う……
………言いたくなるのは分かるけど……
視線の先には、男共に囲まれている一人の令嬢が。
「………う~ん……ローズに聞いてはいたけれど……まさか街でもとは…」
アマリリス・エイブラム男爵令嬢が視線の先にいた。
男達に囲まれ、そして男達が喧嘩し、アマリリスを取り合っている。
………これ、デジャブなんですけど……
学園でこんなのなかったっけ…?
さらにアマリリスは………まぁ、よくある“私のために喧嘩しないで”とか言ってるのが聞こえる。
………その顔で言われてもねぇ……
彼女は頬を染め、笑顔で言っている。
………“笑顔で”、言ってるのだ。
大事なことなので二度言ってみました。
「………やりたい放題、ねぇ……」
ローズの手紙の言葉を思い出す。
………あれ、社交パーティの時もだろうか……?
………だよね?
でないと令嬢が困ることにはならないし……
さらにさらに……困ったことに……
「………元バカ王子がいますね」
「バカ王子~」
二人が言う通り、レオナルドもいましたよ。
………あんた、フラれたんでしょうが……
諦められないって言うの?
………彼女の今の表情を見ても?
笑顔なんですけどね?
私から見たら人を手玉に取る……
えっと……日本のゲームで言うところの悪役令嬢? 的な悪い顔をしている女にしか見えないんですよ……
周りの男達には、可愛い笑顔にしか見えないんだろうけど……
私は顔を手で覆った。
………貴女仮にもこのゲーム世界の中でのヒロインポジションでしょうが……
段々この世界の設定が私の中で狂ってきているんですが……
ラファエルの性格設定しかり
レオポルドの性格設定しかり
アマリリスの今の行動しかり
………あれ?
もしかして私が関わると性格……というか設定が変わって行くんだろうか……
バグ的な……?
………嬉しくない!!
むしろすみません!?
モブがメインキャラみたいに動くなって事!?
――って、この世界ED後だから、関係ないよね!?
私のせいじゃないし!!
私は一人の人間ですから!!
………………………はぁ……
………一人脳内突っ込みに疲れた……
取りあえず話戻そう……
「………二人とも……取りあえず“バカ”を付けるの止めましょうか……」
「バカはバカです」
「バカ~」
「………」
どいつもこいつも……
あの光景もだけど、私の影も相当よね……
これはやはり……
「………飼い主に似るんだろうか……」
「何の話ですか」
「………何でも無い。それよりも……」
私はまた視線を彼らに向けた。
「………私は今は下町少女です。何も見なかった」
「視線釘付けでよく言いますね」
「仕方ないじゃない。だって私の服装見て誰が王女だと思うのよ。あんた達が姫って言うからすれ違っていく人に二度見されてるでしょうが」
「失礼しました姫」
………止める気なし。
ライトはまぁ、バレないうちに早く戻れって意味で使ってるんだろうなぁ。
カゲロウは呼び分けられないから諦めてるけど。
「………とにかく彼女の現状はこの目で確認したわ。王女仕様の格好じゃないからここでは何も出来ない。咎めることも、解散させることもね。ということで、ライト」
「はい」
「レオナルドの行動をレオポルド王子の影が常に見張っているから、その影からアマリリスの状況聞いてきて。どうせいつもレオナルドはアマリリスに接触しているでしょ」
「………」
途端にライトの表情が歪む。
「はい、嫌そうな顔しない。今から私はカゲロウに王宮へ連れて帰ってもらうから」
「………本当でしょうね」
「帰ると言って帰らなかったことはないでしょう」
「………ええ。行くのは絶対に止めてくれませんけどね」
ライトの言葉は聞かなかったことにする。
「情報を聞いてパーティで接触した際に咎める材料にしたい。出来るだけ詳しく」
「………自分の不利なことは返事をしない。誰に似たのでしょうか」
「父でしょ」
即答すると、ライトが諦めたようなため息をついた。
「真っ直ぐ帰られますよう」
「分かってる」
「カゲロウ、頼む」
「は~い」
ライトと別れ、カゲロウと共に街から去った。
「………さぁてと…」
本当はサンチェス国の人間の問題に首を突っ込む余裕もないのだけれど。
まだ私はサンチェス国民。
放っておくことは出来ない。
更にあの時彼らを咎め、退出させたのは私だ。
彼らの現状は私が作り出したようなもの。
それに…
「大事な友がなんとかしたいと私を頼ってくれたのだから、なんとかしないとね」
ローズのためにも。
私は街外れからカゲロウに担がれて王宮を目指す。
ここにいるからにはランドルフ国の問題よりサンチェス国の問題優先だ。
サンチェス国王女として。
ランドルフ国の問題はラファエルに数日任せておいても問題ない。
信頼できる人だから。
私はソッとこれからの問題解決のための策を、カゲロウに運ばれながら考えていた。




