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第288話 どうしようもない人 ―L side―




扉をノックする音が聞こえ、読んでいた本から顔を上げる。


「はい」


返事をすると、扉が開いた。


「………ルイス?」

「ちょっといいか?」

「どうぞ」


私の部屋に入ってきたルイスを招き入れ、向かい側のソファーに促す。

ルイスが座り、手にしていた書類を目の前の机に伏せる。

………大事な書類なら持って歩かなければいいのに…


「単刀直入に言う。レオナルド元王子が姿を消したらしい」

「………はい?」

「そしてランドルフ国に来ている可能性があるそうだ」


ルイスの言葉に首を傾げる。


「王族でも貴族でも平民でも、国境通過許可を出すには王宮に確認が必要なのでは?」

「ああ。だが、レオナルドの名前はなかったはずだ」

「では通過できないと思いますが…ランドルフ国に入国していないでしょう?」

「アマリリスの件がある。名前を偽ることは出来る。罪人しか絵姿は作成されていないからな」


………ぁぁ…

罪人と言っても強盗や殺人などの凶悪な罪人の事であり、社交界から追い出された貴族の絵姿は作成されない。

貴族が凶悪罪人であれば話は別だけれど、貴族がそんな大した犯罪は出来ないだろうとの判断で。

貴族なら人を使って当たり前で、よっぽどの事でなければ刃物など持たないだろうと。

………って思っているから、こういう事になると思うのだけれど。

社交界から追い出された貴族なども絵姿を作るべきだと思う。

そうやって甘やかしているから、つけ上がるものも出てきてしまう。

まぁ、国境も兵士や騎士が交代で担当しているから、王族や貴族の顔は覚えているだろうと、絵姿作成の手間を減らしているのもまた事実だけれど。

なにか勝手がいいアイデアはないかしら?

ソフィアに言えば、何か出してくれるかもしれないわね。


「ローズ、何を考えている」

「ソフィアなら、何かいいアイデアを出してくれるかもしれないと。罪人の絵姿を、罪の大小に関わらず簡易的に作成できるように」

「なるほど」


ルイスがメモも残す。

付き合ってからすぐに気付いたけれど、ルイスはすぐにメモを取るわよね。

仕事が多すぎて、覚えていられないのかもしれないけれど。


「サンチェス国側の国境兵士は、レオナルドの顔を知っているはずだけれど…」

「だから可笑しい。ソフィア様が精霊に願って下さったようで、ランドルフ国の精霊が協力して探してくれているらしい」

「精霊はレオナルドの顔を知っているの?」

「ソフィア様の記憶にある顔を見せていただいたらしい」

「成る程…」


つくづく精霊って凄いのね。

私は見たことないけれど、能力を聞いているだけでも凄い。


「で、アマリリスが囮になるらしい」

「ああ、レオナルドがご執心だったものね…」


もはや遠い出来事のように思える。

まだ1年も経っていないのに。

けれど、アマリリスが邪魔してくれたおかげで今、ルイスと婚約できているのよね。

改めて巡り合わせって不思議だと思うわ。

レオナルドの時は、どうしようもない彼を私が引っ張らないといけないと、常に気を張っていたし。

けれど今は、ルイスの傍にいて安らいでいる自分がいる。

彼がかなり年上、というのもあるだろうけれど。

ある意味アマリリスに感謝している。

けれどレオナルドはフラれたんですものね。

ご愁傷様、とは思うけれど。


「精霊が未だ見つけられないことを考えると、この国にいる可能性は低いのではないの?」

「低いだけで、ないわけではない。だから、明日から学園終了後、アマリリスを囮にラファエル様とソフィア様も捜索される」

「ではわたくしもご一緒しますわ」

「いや、ローズは真っ直ぐ王宮へ」

「何故です?」

「レオナルドはローズを見れば姿を消してしまう可能性があるからだ。ローズはレオナルドに公衆の面前で婚約破棄をされたのだろう?」


尤もな言葉に、私は言葉を返せなかった。

けれど、ソフィアも行くのに…

………また私は蚊帳の外になるの…?


「………わたくしはソフィアの支えになるために、ランドルフ国に滞在できるようにご協力をお願いしましたのに……これではわたくしのいる意味がありませんわ…」

「ローズ」

「……学園ではソフィアに勉学以外では、余所余所しくされましたし…」

「………何があった」

「貴方との関係を言い出せませんでしたの。伝えるかどうか悩んでしまいまして……それでソフィアは“もういい”とおっしゃって……それ以降、プライベートな話は出来ませんでした……」

「それはそうだろう」

「え……」


即答され、私はルイスを見る。


「ローズの事を伝えず、ソフィア様の事ばかり聞き出しておいて、それでずっとソフィア様がローズにご自分のお心をお伝えしてくれるとでも? それを本気で思っているのなら、これからはソフィア様はローズに何も仰ってはくれなくなるだろう」

「………ぁ」


………そう、だった。

私もまだまだね……

そんなこと、サンチェス国で嫌というほど知っていたのに……


「ソフィアはわたくしの話を聞いてくれるかしら…今度はきちんとお話ししたいわ…」

「ソフィア様なら聞いて下さるだろう」

「そうね。ありがとうルイス」

「いや。それよりも、ちゃんと明日からもまっすぐ帰ってくるんだぞ」


ルイスが腰を上げ、部屋を出て行こうとした。

それを見送ろうとルイスの背を見たけれど、気になったことがまだある。


「………ルイス……すぐに帰って来いと仰るなら、何故わたくしにレオナルドの事を話したのです。前回のように全て終わった後にわたくしに事後報告にしなかったのは何故です」

「ラファエル様とソフィア様のご命令だ。ローズにも関係があることだと」

「え……」

「元婚約者の事を気にしているかもしれない。だから蚊帳の外にはしておくのはどうか、と。俺的には言わなくていいことだと思ったが。お前は過去を引きずるような女ではないからな」


そう言ってルイスは出て行った。

………まったく…2人共お節介ね。

ルイスの言葉通り、レオナルドの事など別に気にしてはいなかったけれど…

2人に感謝する。

そして、ソフィアに対しての罪悪感も出てきた。

………蚊帳の外…

あの時のソフィアもそう感じていたのかもしれない。

ラファエル様は知っていて、ソフィアだけ知らないのだから。

………本当に、レオナルドだけでなく、私も勝手な人間なのかもしれない。

自分は恥ずかしがって言わないくせに、ソフィアの話ばかり聞き出して…

何やってるの私…

今度会ったらちゃんと話そう。

私はそう思い、読みかけの本を手に取った。

………さて、どうやってレオナルド捜索の一員に加えてもらおうかしらね。


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