第286話 ちょっと待って欲しい
「いないか…」
「………」
城下街を日が沈む前まで探していた私達。
ラファエルの言葉に相づちをうつ余裕もなく、私は息を吐いた。
普通に歩く分には何の問題も無いと思っていたのだけれど…
つ、疲れた…
足がぷるぷる震えているし、絶対に明日は筋肉痛になっているだろう…
ちゃんとお風呂でマッサージしなきゃ…
「精霊からの報告は?」
「………な、い…」
「ソフィア?」
ラファエルが私を見てくる。
「あ、ごめん。途中から気遣うことを忘れてた…」
「だ、だいじょう、ぶ…」
「大丈夫じゃないでしょ。帰ろう」
心配そうな顔をしてラファエルは私を抱えた。
久しぶりのお姫様抱っこだ…
………って!!
わ、私、体重増えてないかな!?
ラファエルの腕にかかる負荷が大きくなってないかな!?
「眠りたかったら寝ていいからね」
いえ、心配事が多すぎて眠れませんよ!?
「あ、あの…ラファエル…歩けるから…」
「だめ。これはお詫びも兼ねてるから。早く見つけてソフィアとデートしたいと思って夢中になって…肝心なソフィアの事を蔑ろにしちゃったから」
「私も早く、見つけた…かったから、気にしなくて……いいよ……」
ラファエルは私を抱えたままスタスタ歩いて行く。
道行く人は私達を二度見したり、冷やかしの眼差しだったり、羨ましそうに見たりと様々だった。
ああ、恥ずかしい!!
私はラファエルの胸元に顔を埋めて視線から逃れる。
それにしても案外気付かれないよね…
ラファエルの事…
民はこんな所に王太子がいるだなんて、想像してないからだとは思うけど…
さすがに店の人は例の件でラファエルの顔を知ってるけれど、知らないふりしているし…
「どうしたの?」
「え、ううん…なんでもない…」
というか、さっきまで恥ずかしくて眠れないからと思ったけれど…
思ったよりラファエルの腕の中が心地よくて…
そして振動が丁度よくて、疲れた身体も心も癒やしになっているようで…
凄く眠い…
って、いやいや!
ここで寝ちゃダメでしょ!!
「くすっ…」
「え……」
「百面相してるよソフィア」
「へ!?」
「ついたら起こしてあげるから、ホントに寝ていいよ?」
かぁっと顔が赤くなっているだろう。
眠そうな所見られちゃったんだ!
そして眠気と戦っているところも…
私はラファエルの服を握る。
「やだ…」
「ソフィア…」
恥ずかしいのもあるけど…
「………せっかくラファエルと2人なのに…」
多分影は近くにいるだろう。
見えないだけで。
でも、こんな気軽にラファエルと2人になれる時なんて滅多にないのだから、勿体ない。
「最近は嬉しいことばっかり言ってくれるよねソフィア」
ラファエルの頬でスリッと頭を撫でられた。
「そうやってずっと俺を好いていてね」
「………多分、嫌いになることはないよ…」
「“多分”はいらないなぁ…」
苦笑するラファエルに、私は笑う。
だって、今まで本気で嫌いって思ったことないから。
不満があったって、嫌いとは思わなかったし。
だから、ないと思う。
「帰ってルイスにも報告しなきゃな。面倒ごとになる前に探し出さないといけない」
「ん…」
「………ねぇ、ソフィア」
「何?」
「………アマリリス、使う作戦は有り? 無し?」
………アマリリス…?
彼女を使うって…
ハッとしてラファエルを見ると、少し困ったように私を見ていた。
「………囮に?」
「あのバカ、アマリリスにご執心なんでしょ? 彼女に街を歩いてもらったら、釣れるかもしれない」
「………」
「彼女を傷つける事はしないだろう」
それは……分からない…
すでにサンチェス国で、ストーカー行為に近い行動をとっていたレオナルド。
行為がエスカレートすれば、嫌がらせに転じてしまうかもしれない。
それが、彼女の心を傷つけてしまうかもしれない…
「………アマリリスと、話をさせて欲しい。命令は、待って欲しい…」
「………分かった」
私はラファエルに抱き上げられたまま、王宮へと戻った。




