第285話 デートではありません
ラファエルと共に街へとやってきた。
手っ取り早く国境から近い城下街へ。
比較的、簡単だと思っていた。
だって、人が入り込めないところでも精霊なら探せるから。
けれど、未だに精霊からレオナルドが見つかったという連絡が無かった。
「………すぐ見つかると思ってたんだけど…」
「全精霊が探してくれてるんだよね…?」
「うん…」
究極精霊が協力してくれているから。
城下街もいつも通りで、騒ぎが起きてたりはしない。
「……貴族の屋敷に引き込まれてる可能性はないかな…?」
「………ここならアンドリュー公爵の管理地だけど、アンドリュー公爵はそういう手は使わないだろうね」
道の端に立ち、腕を組みながらラファエルは小声で言う。
周りに聞こえないように。
「アンドリュー公爵って、旧国派だよね?」
「旧国派と言っても考え方がってだけで、旧国派一派とは違うんだよね」
「………え?」
旧国派なのに旧国派じゃない…?
「旧国派をまとめていたのは、処分した侯爵。アンドリュー公爵は、表向きは中立派に見せてる。思考が旧国派に近いってだけだよ。まぁ、見せているとは言っても、俺や他の公爵達の目には旧国派に見えるけど。侯爵以下には中立に見えるだろうね」
「………??」
私が首を傾げると、ラファエルは考える。
ライト達からの情報と違う…
アンドリュー公爵は旧国派って聞いたのに…
「急激な変化を嫌い、女は引っ込んでいろ、っていう人」
「………ぁぁ…」
男尊女卑ってやつね…
「典型的な昔の頭が固い大人、って思ってたらいいよ。だから新商品が次々と出て当たっても、長続きはしないだろうと観察している時間が長い。重い腰を上げさせるには相当な時間がかかるんだよ」
「そう…」
「だから、レオナルドを利用しようと考えて引き込もうとする事はないよ。自分がよく知る人物じゃないと懐には入れない」
「じゃあ、ここにいる可能性は低い…?」
「アンドリュー公爵家にはいないだろうけど、城下街にいないとは限らないから、調べた方がいいと思う」
私は頷き、歩く人達を眺める。
目に見える人達の中にレオナルドがいないか観察しながら、精霊の報告を待つ。
「………それにしても…」
「ん?」
「せっかく制服着て城下街へ来てるのに」
「………」
あ、なんか嫌な予感…
「ねぇソフィア」
いい笑顔でラファエルに見られた。
「………何?」
次に出る言葉が分かって、私は苦笑する。
「捜索は精霊に任せてデートしない?」
想像していたとおりの言葉が来ました。
「レオナルド探さなきゃ」
「でも、ここでジッと人混みを観察しているよりかは時間を無駄にしないと思うよ」
学生デートを希望するラファエルに困ってしまう。
早くレオナルドを見つけた方が良いのに…
けれど、こんな時でもなければ“放課後デート”など出来ないだろう。
私は悩む。
「それにどうせレオナルドは血を理由に取り入っても、利用する側が不利益を被るだけだよ」
「え……」
「だって、サンチェス国王の血が流れていようが、地位剥奪された男だよ。サンチェス国に交渉をしようが俺に交渉しようが、地位剥奪された罪人に何の義理もないし」
「………」
「それにレオナルドが何かしでかして困るのはサンチェス国王族であって、俺じゃない」
「いや、私には関係あるよね…」
もしそれでラファエルの婚約者に相応しくないと言われた時点で、私は国に帰されてしまう…
「え?」
「え…」
「………そうだった……ソフィアとまだ籍入れられてないから…ソフィアはサンチェス国王族だ…」
………もう婚姻したつもりでいたの…?
「チャンスなのにぃぃ!!」
「はは…」
本気で悔しがっているラファエルに、私は乾いた声で笑うしかない。
「今度ラファエルに急ぎの仕事が無かったときにしよ?」
「いいの!?」
「いいもなにも、私はラファエルとお出かけするのが1番嬉しいって言ったよね?」
「ソフィア!」
「ひぃや!?」
いきなり抱きしめられ、変な声出てしまった!!
それにカァッと赤くなってしまう。
「そうと決まればさっさとバカを探しだそう!!」
「………バカ……」
とうとうラファエルもレオナルドの事をバカと称するように…
取りあえず、立ち止まってても怪しまれるからと、ラファエルに手を繋がれ歩き出した。
レオナルド捜索なのだけれど、結果的にデートっぽくなっていない?
と思ったけれども、ギラつく鋭い視線で周りを注意深く観察するラファエルには伝えなかった。
2人で歩きながら行き交う人の中を探していった。




