第284話 忘れた頃にやってくる
うへぇ…と言って机に倒れ込みたい。
今日1日の授業で、ついていけないものばかりだった。
ローズと話があるからと誤魔化しながら、2人きりで休み時間別室でローズに勉強を教えてもらったけれど、追いつくはずがない。
これはこっそり教科書を持ち帰りたいかも…
無理だけれども…
学園に泊まり込みもマズいしね…
はぁ……
「ソフィア、ちょっといい?」
「何でしょう?」
「あの、今朝の話なのですけれど…」
………今朝?
何だったっけ…
キョトンとしていると、ローズは苦笑し首を横に振った。
「何でもありませんわ」
よかった。
私が覚えていないと勘違いしてくれたらしい。
話を蒸し返したくなかった。
だって、蚊帳の外なのは違いないから。
それより私はサンチェス国から来た書類と、授業のことで頭がいっぱいだし。
その他のことは、どうでも良くはないけれど、緊急性はない。
後回しにしていいこと。
「帰りましょう?」
「あ、ごめんなさい。このあと少し予定がありますから、先に行ってもらってもよろしいかしら?」
「そう…わたくしがついていてはいけないことなのですね?」
「ごめんなさい」
「謝らないで下さいませ。わたくしは先に戻りますね」
「はい」
ローズが背を向けて、教室を後にした。
「ソフィア、私は一緒にいていい?」
「………それは…」
ラファエルに聞かれるけれど、私は即答できなかった。
アレはサンチェス国の問題で、ラファエルを巻き込んでいいのか分からなかったから。
「………ここで待っているのはいい?」
「ぁ、えっと……学園じゃなくて……ちょっと街に…」
「何しに行くの?」
「………」
ぁぁ、言えない…
言ったら最後、絶対にラファエルが動かなくてはいけなくなる。
………いや、ある意味ラファエルにも関係があること……
正確にはラファエルというよりランドルフ国に、だ。
私はラファエルの視線から逃げることは出来ないだろうと思い、教室に誰もいないことを確認。
「闇精霊」
持ってもらっていたサンチェス国の書類ケースを出してもらう。
「これは……」
「サンチェス国から学園に届けられていたの」
「何故学園に?」
「………王宮に届けば、検閲の為に人の目に触れるからでしょうね」
ケースの蓋を開けて、書類をラファエルに渡す。
「読んでいいの?」
「………心の準備はしてね」
「え……」
ドンヨリした顔をしていたのだろう。
若干ラファエルの頬が引きつった。
けれど、気を取り直してラファエルは書類に目を通していく。
「………………………ん?」
読み終えたのか、ラファエルは首を傾げた。
1度では理解できなかったのかもしれない。
もう1度読み直している。
「………あのさ、ソフィア」
「………はい」
「………これ、ヤバくない?」
「………はい」
ラファエルは手で顔を覆い、それはそれは深いため息をついた。
書類の内容を要約すれば、
1.国境の改装費はサンチェス国が半分負担する。勿論、カード作成等にかかる費用も。
2.サンチェス国民がランドルフ国の温泉街に行く際に、定期的に馬車の送迎を出すのはどうか。勿論有料で。乗合馬車の国境越えルート便。国境で審査があるから、国境までのルートを両国の乗合馬車を時間を合わせて待機させる。
3.サンチェス国と懇意にしている国にも温泉街と国境の件を伝え、我が国にも国境の設備設置して欲しいとの要望有り。これは向こうが全面費用負担。
ここまでは普通の報告と要望で、特に変わった事でもなく、王宮に届けていい物だと思った。
けれどこの後の事が原因で、王宮ではなく学園経由になったのだ。
書かれている内容をそのまま読み上げると…
『ごめ~んソフィア。見張らせていたレオナルドが、アマリリスがサンチェス国にいないと知っちゃったらしくて、ランドルフ国に行っちゃったらしいんだぁ。あはは。俺がランドルフ国で“視察”してる間に連絡が入れ違っちゃってたんだぁ。ゴメンね☆』
………軽い!!
言い方が軽すぎる!!
そして文章は大変なことを書いていた。
お兄様、仕事サボるから!!
視察じゃなかったからね!?
そして☆マーク要らないから!!
力抜けるから!!
大事な事を軽く書くな!!
………まぁ、自分の失態に焦ってるのを隠したいんだろうけれども!
そんな強がり、すぐわかるから!
今、影を総動員して、ランドルフ国を捜索させる部隊を作っているだろう。
………それによく私が学園に戻るタイミング分かったわね…
って、それは今どうでもいい。
まだあの元バカ王子はアマリリスにご執心らしい!!
精霊で操られただけの恋心ではなかったらしい。
ランドルフ国でアマリリスを探しているだろう。
勝手なことしてランドルフ国でも問題起こされても困る!!
ローズにも出来るだけ知られたくないし、アマリリスに至っては会う確率はかなり低いだろう。
もしレオナルドが協力者を見つけて、それが旧国派の人間で、更にサンチェス国王の血をひいていると知れたら…
悪巧みされてサンチェス国に迷惑かかるかも知れない!!
もう精霊に協力してもらって国中を探してもらっている。
けれど見つけても私がいなきゃ存分に力を発揮できない。
だから私が行って、私がいる街や村付近でしか捕らえられないという致命的なことに…
前のアダム・エイデンの影は王宮内だったから拘束できたんだけれど…
………はぁ…
ため息をつくと、ラファエルが苦笑して頭を撫でてくれる。
「俺も一緒に行くよ」
「………でも…」
「ランドルフ国としても放っておけないから」
「………ごめんなさい…」
ホント、勘弁してよね…!!




