第282話 蚊帳の外にされてます
コツコツと靴音が鳴る。
久しぶりに通る廊下はもはや初めてのようにも感じてしまう。
「すっかりご無沙汰ですわね」
「ローズとも久しぶりだけどね」
「ええ。ソフィアったらラファエル様ばかりですもの」
現在、私とラファエルは学園に来ていた。
ようやくラファエルの仕事が一段落し、2人で学園に戻ってきた。
ローズとも共に登校してきた。
まだ早い時間で、生徒はまばらだけれど、私達を見た生徒はヒソヒソと話している。
気にせず教室に向かっていく。
「そういうローズは?」
「え?」
「婚約者。会ってたんでしょ?」
「まぁ、ね」
「そろそろ私に教えてくれたっていいと思うのだけれど?」
「う~ん」
ローズが悩むような顔をすると、クスリと笑う声が上から聞こえてくる。
………むむ?
「ラファエルは知ってるのね!?」
「う~ん、まぁ…こっちにも通達来るしねぇ…」
「じゃあ私も知っていいんじゃない? ローズのことだもの!」
「「………う~ん…」」
何故に悩む!!
そんなに言いづらい人なの!?
「わたくしと相手は政略結婚ですから、ソフィアが面白がることはありませんよ」
「嘘だ」
教室に着き、扉を開けながら私はキッパリと言った。
「………即答ですの…」
「だって、ローズが政略結婚と割り切っているなら、もっと早くうち明けてくれてるはずだもの」
「………」
「そして渋っているから、相手のことが好きになっているって事でしょう? だから言いたくない」
「そんな事ありませんわ」
ローズはニッコリ笑う。
あ、これ誤魔化そうとしている。
………あ、そう。
「………分かった」
「ソフィア?」
「もういい」
私は自分の席に荷物を置き、片付ける。
私だけ、蚊帳の外か。
前にもあったな。
マーガレットが私にだけ隠し事をしていた。
私にだけ、伝えてくれない事がいっぱいあるな…
「ソフィア、あの――」
<ソフィア・サンチェス様。御登校されておられましたら、事務室までお願い致します>
ローズに話しかけられている途中で、校内放送が流れた。
………まだ生徒が登校しきってない時間に、何の用なのだろうか。
「ちょっと行ってくる」
「一緒に」
「1人で行けるよ」
ラファエルがついてこようとするが、私は断って教室を出た。
タイミングよく放送が流れてよかった。
ザワつく校内。
学生の人数が増えたようだ。
「なぁ、あれ……」
「サンチェス国王女…」
「学園に来たのか」
「確か侯爵令嬢に精霊で傷つけられたって……」
「私は瀕死の重傷だって聞いたけれど…」
「無事だったって事かな?」
「まさか、影武者って事はないわよね…?」
なんか色々噂になってる…
影武者って…
学園に影武者行かせてどうするの…
ヒソヒソ話を右から左へ聞き流しながら、私は事務室に向かった。
忙しそうにしている事務員達の1人に声をかける。
「すみません。お呼び出しを受けましたソフィア・サンチェスです」
「お待ちしておりました。ソフィア様、こちらを」
事務員に差し出されたのは、サンチェス国紋が彫られた書類ケースだった。
………何故に学園に…
王宮に送ったらいいじゃないか…
「ありがとうございます」
受け取って事務室から離れる。
取りあえず中を確認しようと空き教室に入る。
一応施錠も忘れずに。
封が開けられていないかどうかを確認。
四方に封と印字された紙が貼られており、4枚とも破られていない。
封を切って中を見る。
「え……」
中に入っていた書類を読み、私は少しの間その場から動けなくなってしまったのだった。




