第277話 お出かけ!⑥ ―H side―
俺は唖然とお2人を見送ってしまった。
………ってダメだろ!!
っていうか、何護衛振り切って姿消してんだ!!
1番それをやっちゃいけない立場だろラファエル様ー!!
俺の主人を何連れ出してくれてんだ!!
これは後でルイス様に説教してもらわなければ!!
サンチェス国ではソフィア様。
そしてランドルフ国でアンタがやるんかい!!
自由にしていい立場じゃないことを自覚しろ!!
「………ホント、そうですよねぇ…」
「………ぇ」
低い声が隣から聞こえ、俺は隣を見た。
ソフィー殿が、綺麗な笑顔で笑って――
いや、これは……!
っていうか、俺口に出してた…!?
「………何姫様攫って姿消してるの…? ここは姫様の庭じゃないし、サンチェス国より断然危険度が高いランドルフ国で、何自分勝手な行動してるわけ…?」
「そ、ソフィー、殿…?」
「命を狙われている自覚ないわけ? もう一度毒盛ってやろうか」
ソフィー殿がキレてる!!
もう一度って、ソフィー殿は先日の毒殺未遂に関わってないよな!?
毒盛ってもう一度動かなくしてやる、って意味でいいよな…?
「行きますよヒューバート殿。あのバ……主人達連れ戻さないと」
………今、ラファエル様をバカって言いそうになってなかったか…?
「は、はい…」
「何グズグズしてるんですか!!」
ソフィー殿が何の躊躇もなく俺の手を握って走り出した。
引っ張られるまま俺は走る。
………やはりソフィー殿はソフィア様が絡むと、ソフィア様の事で頭がいっぱいになるんだな…
俺はまだまだソフィー殿の1番ではないようだ。
いや、いいんだ。
俺の1番もソフィア様なのだから。
主のために命を投げ出す騎士である俺は、主以外の人を1番に置くことは許されない。
もし崖からソフィア様とソフィー殿が落ちそうになっていて、どちらかしか助けられないとなれば、迷わずソフィア様を助けなければならない。
それが騎士だ。
だから、俺はソフィー殿を1番に決して出来ない。
ソフィー殿も同じだろう。
走っていると、お2人の背中を見つけた。
そのまま突入しようとするソフィー殿を俺は止めた。
ガクンッと体勢を崩したソフィー殿は、驚いて俺を見上げる。
「ヒューバート殿…?」
「もう見つけたのだから、このまま後をつけるだけでいいと思う」
「何故? 説教しなくては…」
「それは王宮でたっぷりルイス様からしてもらえばいい」
「ルイス様…」
ソフィー殿は考え、1つ頷いた。
「その方がいいですね」
ニコッと笑うソフィー殿の笑顔が黒かった…
………そういう所もそっくりなんだな…
冷静になってくれてよかった。
あのままじゃ、ラファエル様を抹殺するんじゃないかと思ってしまう程、キレてたから…
その時ふと、ソフィー殿の髪に購入した髪飾りがまだ付けられている事に気付き、緊張すると共に嬉しくなった。
ソフィー殿にやっと贈り物を贈れた。
安物だけれど。
いつか貴族が買うような贅沢品も買ってあげたい。
折角俺と婚約してくれたんだ。
婚約してよかったといつか言って欲しい。
その為には、もっとちゃんと話せるようになりたい。
「ぁぁ……姫様……歩き飲みは淑女としてはしたないです…」
………言って、くれるだろうか…
ソフィー殿はソフィア様から視線を外さない。
俺は苦笑し、どさくさに紛れてまだ繋がれている手にそっと力を入れた。
こんな状態はおそらくこれから先、当分ないだろうから。
そう思っていたとき、ソフィー殿の手にも力が入った。
ハッとしてソフィー殿を見ると、顔を真っ赤にしつつ、けれど少し上目遣いで俺をチラチラと見ていた。
………え、何この可愛い人。
「あ、あの……」
「は、はい…?」
「マ…い、妹さんの贈り物……い、いつ……買いに、行かれますか……?」
………え?
これは、誘われているのだろうか…?
「こ、こんな庶民の装飾品とかは好まれませんよね! や、やっぱり温泉街に置いてある姫様が考えた装飾品とか、貴族が贔屓にしているお店とかで見た方がいいと思いますし! そ、その…妹さんの誕生日が近ければ、ま、間に合わないかと……思い……まして…」
顔を真っ赤にしたまま、捲し立てられていたけれど、最後は声が小さくなっていった。
そして恥ずかしさがピークになったのか、俺と目が合わなくなった。
ソフィア様の背中から視線が外れない。
それに思わず気が緩み、ふっと笑ってしまった。
「大丈夫です。妹の誕生日はもう過ぎてますから」
「………え!?」
ソフィー殿が驚き、俺を見上げた。
「す、すみません! わたくしがお時間取れなかったせいですよね…」
「いいえ…ソフィー殿と2人で出かける口実に妹を使わせてもらっただけですから」
「え……」
………あれ?
俺、普通に喋れてる…
相変わらず心臓が飛び出してきそうな程緊張しているのに。
………いや、気にしないでおこう。
気にしたら前までの俺に戻ってしまう。
「すみません。最初にお話ししたときに、もう妹の誕生日は過ぎていたんです」
「そ、そう…だったんですか…」
安心したような、けれど残念そうでもある、複雑な顔をさせてしまった。
「………あの、ですから…口実ではないお出かけに、誘ってもいいですか…?」
「ぁ……」
俺の言葉にソフィー殿はハッとし、恥ずかしそうにしながらもコクンと頷いてくれた。
心の中で喜び、俺はソフィー殿と手を繋いだまま、ソフィア様とラファエル様の後をつけたのだった。




