第276話 お出かけ!⑤
楽しそうに笑って走るラファエル。
そのラファエルに腕を引っ張られ、私は転ばないように走る。
「ちょ、ラファエル…」
流石に全力で走らないとラファエルの足についていけず…
息も絶え絶えにラファエルを呼ぶ。
「あ、ごめん」
ハッとしたラファエルは足を止める。
私は膝に手を置いて息を整える。
「ごめんねソフィア。楽しくて」
「だ、だいじょ、ぶ…」
暫く休めば息は整った。
ゆっくりと上体を起こし、改めてラファエルを見上げる。
「楽しそうだね、ラファエル」
「楽しいよ。だって久々の自由の時間だし。ソフィアとデート出来るし」
「ふふっ」
本当に楽しそうにするラファエルを見ていたら、こっちまで楽しくなってくる。
「喉渇いたね。何か買おうか」
「うん。何か珍しいのないかなぁ?」
「珍しいものって…サンチェス国産の飲み物しか販売してないよ。ギュウニュウもまだ売り出してないし」
「そうだった…」
取りあえず店で飲み物を頼み、飲みながら歩く。
これ、懐かしいね。
この世界で歩き飲みなんてしたことがない。
日本はよく飲みながら移動してたなぁ。
「そういえば、この世界に祭りがないなぁ…」
「あるでしょ。鎮魂祭」
死者の魂の安らぎを願う祭りを鎮魂祭という。
丁度年が変わる時、日本で言えば12月31日から1月1日の2日間。
一切外出せず、家で祈るだけ。
………それをお祭りと言えるか!!
「そうじゃなくて、楽しむ祭り」
「………楽しむ祭り?」
「花火とか上がって食べ物や遊びの屋台が並んで賑やかな祭り」
「ハナビ…遊ぶ?」
首を傾げられる。
「えっと、花火とは……」
………どう説明しよう!?
火薬ってこの世界にあるの…?
うぅぅん…
私は頭を悩ませる。
そうだ!
火精霊と闇精霊に頼めば実際に見られるんじゃないかな!?
「帰ったらの説明でいい?」
見てもらった方が早い。
「いいよ。楽しみだ」
本当にラファエルは楽しそうね。
お祭りがもし出来たら、お祭り用の浴衣も作れば売れるかも!
何だかんだ言っても私も楽しかった。
リンゴ飴にわたあめに焼きそば、イカ焼き。
金魚すくいに射的、くじにお面。
あー!!
リンゴ飴食べたい!!
リンゴってこの世界にあったっけ?
なかったら最悪木苺飴だ!
「ソフィア?」
「え?」
「どうしたの? 意識飛んでなかった?」
「大丈夫」
………ヤバい、欲求が大きすぎてトリップしたみたいだ。
「ならいいけど…」
ラファエルに心配をかけてしまった。
今日はデートだ。
楽しもう。
「見たい店があったら言ってね」
「はぁい」
微笑まれ、頷いた。
「ラファエルは見たいところないの?」
「あると言えばあるし、ないと言えばないよ」
「え、どっち?」
「両方。ガルシア公爵領の街全体を見たい。だから見たい品はないね」
ぁぁ、なるほど……と頷き、私はラファエルの手を引いて、人混みに紛れたのだった。




