第273話 お出かけ!②
ガルシア公爵領の街に着いた。
ラファエルにエスコートされて馬車を降りた。
勿論人気がないところで。
人目につくところでだと、私はラファエルにエスコートされちゃマズいもの。
地に足を付けたところで、後方にもう1台馬車が止まって、ヒューバートとソフィーが降りてくる。
うん、ちゃんとついてきてくれてたみたい。
「じゃあ、Wデートに行きましょうか」
「………え!? 姫様達と離れてじゃ…」
「そんなの面白くないじゃない。せっかく4人だけで出かけてるのに」
「ですが…」
チラッとソフィーがラファエルを見る。
ラファエルはキョトンとしていたけれど。
「ソフィア、Wデートって?」
「恋人同士の2組が一緒にデートすること」
「へぇ? 面白そうだけど滅多に出来ないソフィアとデートだからなぁ…」
「うん、だから暫く一緒に行って、後で別行動するの。どちらも滅多に出来ないことだから」
「ああ、それはいいね。じゃあ暫く一緒に歩こうか」
私とラファエルは笑い、ソフィーとヒューバートは困惑顔。
あの顔は、いいのかな…という顔だ。
そんな2人の感情は無視して、私達は歩き出し、慌てて2人が追ってくる。
「あ、ほらソフィー、ヒューバートの腕に手を」
「え!?」
私は自然とラファエルの腕に手を絡ませたけれど、チラッとソフィーを見て2人の距離が微妙に開いていることに気付く。
顔を真っ赤にするソフィーとヒューバート。
いい加減慣れさせないと。
いつまで経っても2人の進展がないように思う…
婚約者同士がそれでいいのか、とさえ思ってしまう。
………人のこと言えないけど!!
「そうだよヒューバート。ちゃんとエスコートして」
あ、ラファエルも便乗した。
ニヤつく口元を隠そうともしない。
完全に面白がっている…
王太子の前では拒絶できるはずもなく、2人は怖ず怖ずとぎごちなく腕を組んだ。
2人とも茹で蛸みたいになっている。
申し訳ないけれど、いつも生暖かい目で見ている人達の気持ちが分かる。
これはニヤニヤしてしまうよね。
他人事だとこんなに楽しい。
2人には悪いけれど。
そして強制的に私達と並ぶように言う。
2人は畏れ多いと首を振ったけれど、今の私とラファエルは一民としてここにいる。
敬うなと、民にバレる、と有無を言わせず並ばせ、漸く馬車から離れられたのだった。
「そういえばソフィーをガルシア公爵に紹介しなくていいの?」
「ひぇ!?」
………あ、ソフィーが普段出さないような声を出させてしまった。
これはあれだな…私の言い方が移ってしまった感じ?
少し治まってきたと思っていたソフィーの顔の赤みがまた増したように見えた。
「必要ありませんよ」
「まぁ、ヒューバートは一応縁切りしてるしね…」
「でも、ガルシア公爵には一応面通ししておかなくていいの?」
「面通しって…」
ラファエルに苦笑された。
私はちょっと納得がいってないのよね…
「跡を継がないってだけで、血縁関係は切っても切れないんだし…書類上も息子に変わりないし、何処かに養子に入ってファミリーネームが変わってるわけでもない。今後接点がなくても事実上、書類上義理の娘になるのよ? マーガレット嬢も義理の姉が出来るって事知っておきたいと思うけれど…」
書類上も縁切りされているのなら、ヒューバートにファミリーネームはない。
けれど、騎士リストのヒューバートの名前の欄には、ちゃんとヒューバート・ガルシアと今も記載されている。
それにマーガレットは、密かに私にヒューバートの事を聞いてきたぐらいだもの。
知らされてなかったと後から悲しむかもしれない。
「そう、ですね…」
あの時、ヒューバートもその場にいた。
会話を聞かれないように小声だったけれど、マーガレットの視線から自分のことを話されているのだろうとは気付いていたはず。
「マーガレットには手紙で知らせるようにします。………父には一応書面にして報告はしてありますが…婚約届にも婚姻届に記入欄がありますから」
この世界の届けにも保証人欄はある。
後見人とも言えるけれど。
ガルシア公爵もソフィーの顔を先日見ていたはず。
けれど、正式な面会はしていないから改めて挨拶した方がいいと思う。
………今後のためにも。
「マーガレット嬢なら手紙を読んだ瞬間に面会希望出してきそうだな」
ははっとラファエルが笑った。
ああ、あり得そう…と私も笑う。
おそらく公爵はマーガレットに伝えていないだろうし。
伝えていたら、この間詰め寄られていたはずだから。
「マーガレット嬢は令嬢の中の令嬢、って聞いてたんだけど、学園で接して、ソフィアに対する態度を見て、普通の女の子と変わらないと思ったなぁ」
「………申し訳ございません。あれは人目があると繕って、公爵令嬢らしくしようという紛い物令嬢なのです…」
「いいじゃないか。俺もソフィアも紛い物王族だ。本当の自分を隠し、立場を貫く。でもプライベートの時まで繕う必要はないよ。疲れるしね」
「有り難いお言葉です」
言い方はちょっとどうかと思うけど、事実なだけに私は苦笑する。
「今度ガルシア公爵が主道の件で王宮に来る事になっている。その後時間を取るから2人で会うといい」
「ありがとうございます」
「お手数、おかけ致します…」
ソフィーの顔はまだ赤かった。
ぎこちなくラファエルに返す。
大丈夫かな…と思いながらも、私達は街へと入ったのだった。




