第271話 今度こそ念願の!!
「じゃあ、親父からたっぷり資金ぶんどって来るよ」
アレから数日後。
満面の笑みで大声で言うことじゃない言葉を発しながら、お兄様が王宮を後にしていった。
滞在日数より早く帰ってくれて助かった…
「さて…ソフィア、明日の予定は?」
「え? 私に予定なんてないけど…」
いつも予定なんてない。
日課をして、日がな1日刺繍したり読書したりしかない。
「じゃあ、明日デートしようか」
………ん?
今、なんて……
「デート!?」
「何でそこで驚くの」
王宮の入り口で固まる私と苦笑するラファエル。
異様な光景だろう。
「デート!? デートって言ったの!? 聞き間違い!?」
「何度も確認しなくても、聞き間違いでもないよ。やっと仕事が一段落したし、ソフィアのアイデアも技術者に伝えたし、レオポルド殿にサンチェス国王から資金を出してもらうよう交渉してもらって、着手できるようになるまで俺の仕事はないよ」
「ホントにホントね!? 明日急に行けなくなったとか言わないわよね!?」
「明日のことは分からないけれど、ソフィアを優先するよ」
ぱぁっと私は笑顔になる。
「それでお姫様? デートして頂けますか?」
わざとらしくラファエルは右手を胸に当て、少し身体を下げて私を見上げる。
「する!! ラファエルとデートする!!」
嬉しさのあまり、私は身体を起こしたラファエルに抱きついてしまった。
ハッと気付いたときにはラファエルに抱きしめ返されていた。
「あ、ご、ごめんなさいラファエル…」
「何でそこで謝るかなぁ…」
正気に戻ったとき、自分の行動に羞恥心が…
今更感は強いんだけど、どうしても自分からしてしまったと冷静になってしまうと、恥ずかしくなってしまう。
悪いことじゃないとは思うんだけど…
本当にどうしても、ね…
「やっとソフィア用に作ったお忍び服を使えそうだ」
………え!?
私のお忍び服!?
………あ、そういえばサンチェス国で言ってたっけ…
いつの間に…
「ソフィーに出してもらってね。見つからないように隠してもらってたから」
「………何故隠す必要が…」
「だって、ソフィアをビックリさせて、喜んで欲しかったから」
ビックリと喜びって…
矛盾してない…?
「………ラファエルのお忍び服は…?」
「それは昔から使ってたやつを使うけど?」
………むぅ…
思わず頬を膨らませてしまった。
「………ソフィア?」
「それなら私がラファエルの服作りたかった…」
「え? 作れるの?」
「刺繍より簡単なんですけど?」
刺繍で凝った物を作るより、断然縫うだけの服の方が簡単だ。
それなら綺麗に作る自信がある。
「そうなんだ。じゃあ次のお忍び用の服はソフィアに作ってもらおうかな」
「いいの!?」
「むしろ作って欲しいな」
ニッコリ笑うラファエルに、私も笑い返す。
「じゃあ針子さんに採寸表もらってこなきゃ!」
「伝えて持ってこさせるよ」
「色は何が良い?」
「ソフィアに任せるよ。その方が楽しみだ」
「頑張る!」
笑い合いながら会話している私達。
「………それは宜しいですが、そろそろ部屋へ戻ってはいただけませんかお2方」
「「………ぁ」」
王宮の入り口で抱き合って笑い合っていた私達。
一向に終わらない会話に、ルイスが少し頬をヒクつかせながら割り込んできた。
両方の壁にラファエルと私の騎士が並んでおり、全員が視線を少し反らしていた。
「………すいませんでした」
「………すまん」
私達は気まずくなり、そっとお互いが静かに身体を離した。
「それに、お出かけは宜しいですが、こんな所でそんな会話をなさらないでください。誰かに聞かれて狙われたらどうします」
「………ああ、気をつける」
「………仰るとおりです…」
フイッと背を向けて歩き出すルイスを見て、お互いに顔を見合わせて苦笑した。
そっと手を繋いで、私達は部屋へと戻ったのだった。




