第265話 お出かけ! …いえ、視察です…④
取りあえず、座ることにした。
スッと手を動かし、座ることを促すと2人は静かに椅子に座った。
用意されたお茶に口を付ける。
………どうしよう。
話題がない。
私が話しかけなければ、2人は話せないのに…
ダメだな私は…
………何かないかな…
ふと顔を上げると、遠くに楽しそうな顔で話すラファエルとお兄様が見えた。
………いいなぁ…
「………ラファエル様は、仕事の時でもいい顔をするわ」
「そうですね。楽しそうにお仕事をなさっております」
応える声に気付いて、私は無意識に声に出していたのだと気付く。
これはチャンスかもしれない。
「………学園はどうですか。精霊学が廃止されたと思いますが」
「最初は動揺がありましたが、契約されてない方が殆どでしたので、どこか他人事ですぐに学園の混乱は収まったかに思えます」
「それに例の事件がありましたから、どことなく廃止に賛成の声も時折聞こえましたよ」
「………そうですか」
目の色を変えて色々するのは大人と精霊契約者ぐらいか。
なら、大丈夫かな。
………2人には…聞かない方がいいのかもしれない。
何度か見た彼女たちと精霊は仲がいいように見えた。
恨んでないのだろうか。
………聞けない。
彼女達が精霊との契約を切ることになった原因は、私だ。
私が精霊に攻撃を受けたのが始まり。
私に何の責任もない、なんて言えない。
実際に彼女と彼の後ろには、見知った精霊が見守るように漂っている。
………究極精霊の契約者だからとはいえ、全ての精霊が姿を見せないようにしているのに見えるというのは、今の状況では凄く辛い。
これからも彼らは、2人を陰から見守り続けるのだろう。
私は何も彼らに言えない。
謝ることも出来ない。
ここで謝ってしまえば、私自身の罪悪感は消えるだろう。
けれど、それと同時にラファエルの国政に異を唱えたことになってしまう。
王女として、謝ることなど出来ない。
私は瞬き一つし、この件に関しての思考を止めた。
私は王女だし、ラファエルの将来の伴侶だ。
ラファエルの言葉が正しいと判断したら、私はそちらを優先する。
それが王女としての私の務めだと思っている。
「お2人は温泉街が開放されたら、来て下さいますか?」
「絶対に行かせて頂きますわ!」
うわっ!?
マーガレットが身を乗り出してきた。
「マーガレット」
「あ、も、申し訳ございません!」
すぐにスティーヴンが諫め、元の位置に戻ってくれる。
………ビックリした…
「花が浮かんだお風呂に興味がありますの」
「そうですか。いい香りですから楽しんでもらいたいですわ」
「はい!」
笑顔で頷くマーガレットには、憂い一つ見えない。
………良かった。
「………あの、ソフィア様…無礼を承知で、お聞かせ願えませんでしょうか…」
「………構いませんわ。何ですか?」
「兄は………ヒューバート・ガルシアは、ソフィア様のお役に立てているのでしょうか」
一瞬キョトンとしてしまった。
精霊の件だと思ったから。
けれど、マーガレットは兄の件を口にした。
「――ええ」
「そうですか。いえ、影から兄がソフィア様専属の騎士になったとお聞きして……その……わたくしが知っている兄は、腕は普通だと思っていたものですから…」
「そうなのですか? ヒューバートは騎士の順位決めの時に、腕の立つ5人のうちの1人に入っておりました。サンチェス国から来てくれた兵士達に混じってですから、凄く腕がいいですわ」
「それを聞いてホッと致しました。父も喜ぶでしょう」
縁を切ったとはいえ、やはり血を分けた兄妹。
兄の心配は当然だろう。
ヒューバートのように割り切れないのも、やはり女だからだろうか。
「申し訳ございませんソフィア様。縁切りした手前、兄と直接のやり取りはやはり憚られますので…」
「大丈夫ですわ。わたくしは別に気しておりませんから。そちらの家の都合もございますでしょうから」
「ありがとうございます」
話が一段落したところに、ラファエル達がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
これで少し緊張から解放されるかも、とホッとしてしまった。




