第263話 お出かけ! …いえ、視察です…②
例の如く火精霊で移動し、私達はガルシア公爵領にやってきた。
まずはお忍びといえどガルシア公爵に挨拶をとガルシア公爵邸に向かう。
すでにラファエルが知らせを出していたため、ガルシア公爵は屋敷の外で私達を待っていた。
姿を見つけ、公爵は丁寧に頭を下げた。
そしてその後ろにはマーガレットとスティーヴンも待機しており、共に頭を下げている。
………今会う予定じゃなかったんだけどなぁ…
ちらりとヒューバートを見るけれど、ヒューバートは瞼を伏せ無関係を装っている。
もう自分とは関係ない、という態度はこれからも変わらないんだろうなぁ…
「おはようガルシア公爵」
「おはようございますラファエル様、ソフィア様、そしてレオポルド様、お待ちしておりました」
「うん。早速で悪いんだけど、ミルンクとコッコの飼育地域に案内してくれるかな?」
「はい。私と、それとマーガレットとスティーヴンも同行させて頂いても宜しいでしょうか?」
「………」
ラファエルがチラリと私を見た気配がする。
でも私は目を閉じて、ラファエルの判断に委ねる。
「いいよ。おいで」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますラファエル様!」
「ありがとうございます!」
マーガレットとスティーヴンが元気よく言った。
久しぶりに聞く彼らの声は、最早懐かしく思える。
「街の方には行きませんので、わたくしが用意した馬車で行きますか?」
「………そうだね、任せるよ」
ラファエルが少し考え、そう返答した。
「では、屋敷の中でお待ち下さい」
「いや、ここでいいよ。馬車を頼む」
「畏まりました」
ガルシア公爵が屋敷に向かい、私達は屋敷の門内で待機した。
「ねぇラファエル殿? 火精霊で行っても良かったんじゃない?」
「どの辺りで考えるかは公爵に任せているからね。その公爵が馬車で行くと判断したから委ねただけだよ」
「ラファエル殿は公爵を信頼してるんだねぇ」
「信頼と信用は違うでしょ。俺は公爵を仕事面では信用しているけれど、人としての信頼はまだしてないかな」
………あのぉ…
お2人さん?
マーガレットとスティーヴンはまだここにいるんだけど…
言葉を選んでくれないかな…
まぁ、そこが2人なんだろうけど…
「へぇ?」
「俺はまだガルシア公爵と少ししか仕事はしてないけれど、その仕事の速さと正確さを知っているからね」
「ふぅん。大事だよね。自分の基準値に達する仕事が出来る人間って。話も仕事が出来ない人間に合わせる事の辛さと来たら…」
「ああ、そうだな。その点に関しては俺はソフィアとルイス、そしてレオポルド殿しか対等の話が出来ないな」
「俺は国に数人いるが、ラファエル殿は苦労するなぁ。もっと仕事が出来る人間が出てくることを祈るよ」
「気長にやるよ」
ラファエルが肩を竦ませる。
「こればかりは俺は手伝えないからねぇ。自分の目で見て、確かめて、付き合って、初めて理解し信頼出来るからね」
お兄様が私を見る。
「ラファエル殿が、ソフィアの心を掴んだみたいにね」
ニッコリとお兄様が笑う。
それにムッとする。
「まぁ! お兄様、それは間違いよ!」
「何処が?」
「心を掴まれたのは、ラファエルの方よ!」
私が言うと、キョトンとラファエルとお兄様が私を見た。
そして2人は顔を見合わせ……
「あははっ! そうだったね!」
「確かに俺の方がソフィアに囚われたね。でも、今はソフィアも俺に囚われてるでしょ?」
ラファエルに腰を抱かれ、私はぷいっと顔を背けた。
顔が熱くなったのは気にしない方向で!
「ラファエル様、レオポルド様、ソフィア様をからかうのはその辺で」
少し呆れ顔のオーフェスが、2人に注意する。
「そうだね」
「ごめんね」
「もぉ…」
私達の会話に、何処か居心地悪そうなマーガレットとスティーヴンが視界に入ったけれど、私はそんな彼らに話しかける勇気はまだ出来なかった。
予想外の再会でもあったし、2人の王太子との会話のせいで、王女の顔を作れなかった自分のせいでもあるのだけれど。
「お待たせしました」
ガルシア公爵が急ぎ足で戻ってきて、私達は用意された馬車に乗り込んだのだった。




