第262話 お出かけ! …いえ、視察です…①
「温泉はまだまだ入り足りない。また来る」
「ありがとうございます。お待ちしております」
「また来るわねソフィア。それまで身体に気をつけてね?」
「はい。お父様、お母様、道中お気を付けて」
ラファエルと共に、お父様とお母様を見送った。
サンチェス国の馬車が見えなくなって、隣に視線を向ける。
「………お兄様はまだ帰られないのですか」
「何故嫌そうに見るの。俺の滞在日数はまだあるよ」
隣でニコニコ笑っているサンチェス国王太子。
………仕事しろ。
お父様も何故連れ帰らなかったのだろう…
「ラファエル殿、親父達も帰ったし、ラファエル殿も復活したし、明日行くんだろう?」
「………お見通しか」
ラファエルが苦笑する。
「行くよ。ガルシア公爵領へ」
「もちろん、俺も一緒に行くぞ。ミルンクとコッコの飼育場所の視察。環境とか実際に知りたいし。サンチェス国の契約食材の量にも関係してくるしな」
………なんだか取って付けたような理由なんだけど…
「分かったよ。一緒に行こうか」
「さすがラファエル殿。話が早いね」
お兄様は満面の笑み。
ラファエルは苦笑いのまま。
………温度差…
「どうせならランドルフ国学園にも…」
「それはやめて」
「何でだよ。ラファエル殿もサンチェス国学園に留学していたじゃないか」
「年齢を考えなさいよ」
「それを言ったらラファエル殿も学園卒業してるはずでしょ」
………ああ言えばこう言う…!!
「辛うじてラファエルはまだ10代よ!!」
「………辛うじて…」
あ、ごめん……
間接的にラファエルを傷つけてしまった…
「お兄様はもう22でしょ!」
「心は10代だよ」
………何でだろう。
イラッとした。
まさか永遠の10代とか言い出さないでしょうね。
何処の厨二びょ……ごほんっ…
「俺は永遠の――」
「あ~はいはい」
「ソフィアが冷たい!!」
「そんな事より」
「無視!?」
お兄様は置いておいて、と。
「ラファエル、お兄様も連れて行くなら民にお忍びバレない?」
「バレないんじゃない? ソフィアが火精霊に頼んでくれたら」
………ああ、そっか。
こっちでもサンチェス国の視察みたいに火精霊で行けたらいいのか。
『火精霊、行ける?』
『………最近…我は乗り物化してないか?』
『………否定は出来ないわね…』
『まだ火の力使って湯沸かしの方が傷つかないだろうと思うのは、悲しいものがあるな…』
『………ごめんなさい…』
『………まぁ、いいが…』
少ししんみりしてしまった…
気を取り直してっと…
「火精霊は大丈夫だって」
「良かったよ。俺もレッドに協力お願いしてるから」
「ありがと。じゃあ、準備しなきゃね」
「うん。レオポルド殿も」
「分かった。じゃあ俺今から温泉街行ってくるから! 親父達が帰ったし、これでゆっくり出来るな」
上機嫌でお兄様は去って行った。
油断して出遅れた影達が慌てて追いかけるものだから、姿を隠せていなかった。
「………一番楽しそうだなレオポルド殿…」
「………多分あれ、今までのストレスが爆発したんだと思うよ…」
「………まぁ、王太子の大変さは分かるけど、さ…」
2人で顔を見合わせて、ため息をついた。




