第26話 ラファエルVS王になりました…
王宮に着くと、すぐに謁見の間へ兵士に案内された。
………いや、別に挨拶とかいいんだけど…
謁見の間の扉が開かれると、既に王と王妃が上座に座っており、そしてその傍に一人青年が立っていた。
王は相変わらず彫りが深く、50代の武道が出来る男っていう感じの威厳がある顔。
王妃は私が深くため息をつきたくなる相変わらず綺麗な顔で、金色のゆるふわウエーブの髪で羨ましい。
そして青年は、金色短髪で王妃に顔つきが似た爽やかイケメン。
声をかけたかったが、まずは王に挨拶だ。
「ソフィア・サンチェス、ただいま戻りました」
「うむ」
「ラファエル・ランドルフです。お久しぶりでございます。この度の支援の件、大変助かりました。ありがとうございます。支援して下さった物資の費用は、必ず返済させて頂きます」
「………」
う……
王が無言……
「はぁ……ランドルフ国の経済は一体どうなっている。同盟を結んでからの経済は安定しているとの報告を受けていたが?」
「………申し訳ございません」
「影に探らせたところ、ランドルフの王族のしでかしている事に呆れかえったぞ」
「………弁解しようもございません」
「そんな国にサンチェス国第一王女を寄越せとは、度胸があるな」
「ありがとうございます」
………い、嫌みにお礼を言うなんて……
ヒクッと王の頬が引きつってるから!!
ラファエル、大丈夫なのー!?
「………一年だ」
「………は?」
「一年で借金完済の目処が立たなければ第一王女を返してもらう」
「「………!!」」
ラファエルだけでなく、私も目を見開いた。
い、一年って……
「お、お父様、せめて婚約期間の間の期間に…」
「ならぬ。お前が18になる半年前までだ。それ以降は此方で婚約者捜しだ」
「で、ですが……」
「分かりました」
「ラファエル様!?」
ギョッとしてラファエルを見ると、口元に笑顔を浮かべていた。
「それまでに“目処”をつけられれば良いんですね?」
「………そうだ」
「では、それまでソフィア様宛の手紙に婚約解消云々の類いの言葉、またそれに準ずるような言葉は一切書かないで頂けますか」
「………」
すぅっと王の目が細められた。
うぅ……
こ、怖い……
「………良かろう」
「ありがとうございます」
渋い顔の王に対して、ラファエルは満面の笑みになった。
………そんなに嫌か、あの一言が……
まぁ、私もやめて欲しいと思ってたけど…
ラファエルが良い笑顔で黒いオーラ出すから…
本当に勘弁して欲しかったけど…
それを止めさせる為に条件を呑むとか……
………正直、どっちも大人げない、と思ってしまった……
気を取り直して……
というか、睨み合っている二人は放っておいてっと…
「お母様、そしてお兄様。お久しぶりです」
「ええ。元気そうでよかったわソフィア」
「久しぶりだね。ソフィア」
青年は、私の兄。
レオナルドじゃないよ?
レオポルド・サンチェス。
パーティの時、他国へ行っていたサンチェス国第一王子だ。
ちなみに、レオポルドはラファエルの次に人気だったサブキャラだ。
こちらも攻略対象ではない。
………どうなってるんだろうね?
この乙女ゲームのキャラ設定……
「レオナルドの暴走をソフィアが止めてくれたんだって? ありがとう。ごめんね?」
「いえ、お兄様は大事な国務で出ていらしたんですもの。謝罪は不要ですわ」
「おかげで同盟国が増えそうだよ」
ニコッと笑うレオポルド。
ぐっ……
い、イケメン笑顔…
破壊力半端ない……
どうして王妃は私には顔の遺伝子をくれなかったの……
なんてことは言えないし顔にも出せない……
「それはようございました。レオナルドお兄様の件はローズ嬢のお手紙でお聞きしたのですが、本当なのでしょうか? 除名された、と」
「うん。王家から除名で、今は平民だよ。位も何もない。これ以上何かしないように常に影に見張ってもらってる。ギュンター嬢には本当にすまないことをしたと思っているよ。お詫びと言ってはなんだけど、今彼女にとって最良の相手を探しているんだ」
「そうですか」
ホッとする。
レオポルドが相手を探しているのなら、間違いはないだろう、と。
「ソフィア、疲れたでしょう? ソフィアの部屋を掃除させてるからゆっくり休んで? 明日改めてお茶しましょ?」
「はい。あ、ローズ嬢もお誘いしても宜しいでしょうか?」
「ええ。レオポルド、貴方もどう?」
「是非。ラファエル殿ともお話ししたいですし。カサブランカも呼びますか?」
「カサブランカは身重中で、体調悪いでしょう? お茶も控えるように言われているでしょうに」
「あ、そうでした…」
カサブランカはレオポルドの奥方だ。
ローズの姉でもある。
公爵令嬢だからというだけの理由で、長女を第一王子と、次女を第二王子と婚約させたということで……
ローズの運が悪かった……
ってか、設定がいい加減だったのだ……
「ラファエル殿のお部屋は客間を用意したわ。侍女に案内させるから、ソフィアは自室にお戻りなさい」
「あ、はい」
チラッとラファエルを見てみる。
………まだ王と睨み合いしていました。
思わず王妃と第一王子を見ると、苦笑される。
………ああ、あの顔は手紙の件を…内容を知っているとみた…
「レオポルド、貴方も退室なさい。ソフィアを部屋まで送ってあげるのよ」
「はい」
「え、大丈夫ですよ?」
わざわざ送ってもらわずとも自室の場所は覚えている。
「いいんだよ。退室理由になるから」
第一王子が流れるように歩いてきて、私の耳元で囁いた。
私は苦笑して第一王子と謁見の間を出た。
「………いつもあれ?」
「………いつもあれ」
途端に口調が崩れる私達。
お互い猫をかぶっているのは知っている。
小声で一言それだけ言い、足早に私の部屋に向かった。
扉を開けると一面ピンクの壁紙に、部屋の真ん中にソファー。
ソファーはレースたっぷり。
絨毯もピンクで、机はガラス製。
ベッドも一式ピンク。
………突っ込むなかれ。
全部王妃の趣味だから!!
私の趣味じゃないから!!
ぶふっとレオポルドが小さく吹き出す。
いつも私の部屋を見て吹き出すの止めて欲しい。
変えてって言えないんだもん!!
王妃が泣くから!!
侍女がお茶を用意し、一礼して出て行く。
レオポルドと対面でソファーに座って一息つく。
「はぁ、親父も過保護だよなぁ」
話し出したのは向こうが先。
「毎回手紙にラファエル様が怒るのよね…止めて欲しい」
「まぁ、仕方ないんじゃない? 親父はずっとソフィアの婚約話蹴ってたし」
「………ん?」
………蹴ってた?
え?
私の婚約話を蹴ってたって言った!?
「あれ? あ、これ秘密だった…ま、いっか。もうソフィア婚約してるし」
「ちょ、どういう事!?」
思わず立ち上がる。
「結構良いところからも話が出てたんだぜ? 何件も」
「何件も!?」
「でも全部親父がまだ早いって言って、蹴ってた。んでソフィアには婚約話が一切来ないっつって」
「~~~~~あんの親父!!」
思わず叫んでしまう。
「ソフィア、流石にお前が“親父”って言うな。一応王女だろ」
「一応って何!?」
「じゃあお転婆王女」
「じゃあって何!?」
「まぁ、お前って本性お転婆だし、自国の貴族と結婚できないわな? 王家の恥さらしで」
「お兄様に言われたくないわ!! 腹黒王子!!」
設定になかったわよこんなの!!
ラファエルもだけど!!
「ランドルフ国で恥をさらす前に解消した方が良くね?」
「ラファエル様はもう知ってるわよ!!」
「え? お前の猫かぶりもうばれてんの? やっぱお前には無理だったんだな」
「これが好きだって言ってくれてるもの!!」
………叫んで後悔した。
ハッと気づけばニヤニヤしているレオポルド。
………やってしまった……
真っ赤になった顔を両手で隠して、ラファエルが走って私の部屋に来るまで、レオポルドに笑われていた。




