第256話 王太子は容赦しない
恥ずかしい思いはしたけれど、私は漸く昼食にありつけた。
ご機嫌で食事をしていると、ラファエルがふと顔を上げて私を見た。
「………?」
フォークを咥えたまま、私は首を傾げる。
「いつ見てもソフィアは可愛いね」
「んぐっ!!」
危うく喉に詰まりそうになった…
不意打ち止めて欲しい…
「い、いきなり何…」
「え? ちゃんと思ったことを口に出してるだけだよ?」
………それもそうか…
ラファエルはこんな人だった…
「………そういえばラファエル…どうして私を会議に連れて行ったの?」
「彼らに説明したとおりだよ」
「………他に意図はないの…?」
「ん~…意図と言えば意図なのかな? 取りあえず様子見ようと思って」
「様子?」
「そ。ソフィアを連れて行って、反応する者、しない者の判別を」
話を区切ってラファエルは食事を口にし、噛んで飲み込む。
「中立派、新国派、旧国派って区切ってはいても、人それぞれで許せる範囲とそうでないものが違うからね。新国派でも女に口出しして欲しくない、とか」
「………ぁぁ…」
「旧国派でも、ここまでの範囲は許せる、とか。色々な思想はあって当然だしね。まぁ、俺にとってはどの派閥にいようがどうでもいいんだけど」
「え……」
ラファエルから重要な言葉が出なかった…?
「ん?」
「どうでもいいって…」
「………ああ。俺にとってはどれも貴族は同じように思ってるからね。“使えそう”と思えるのは今のところガルシア公爵だけ。他の者はルイスから聞いた話だけで、実際の仕事ぶりを俺は知らない。だから仕事が出来る出来ない、信頼出来る出来ない、の判断を俺は出来ないんだ」
「あ……」
「実際に仕事を振ってみて、その出来次第で俺自身が判断し、正しい地位を与えていこうと思っているんだ」
ラファエルは言い終わり、カップに口を付けた。
今の言い方だと、おそらく現在全ての貴族に仕事を振っているのだろう。
「………ま、今日の会議の報告であらかた評価が出つつあったんだけど、俺達が精霊契約者だと当主達は知ったからね。次の会議まで様子見するつもりなんだ」
「そっか…」
貴族の中にも精霊に敬意をはらっている人物もいるだろう。
精霊契約者と知り、今後の行動を変えるかもしれない。
………そんな事がなくても真面目に仕事して欲しいけれどね。
民のために。
「………って、それならそうと言っておいてくれない!? 内心冷や汗だらけだったよ!!」
「ごめんね」
………あ…良い笑顔で謝られました。
………これはあれだ…
ある意味お仕置きだったのかもしれない。
私が王女らしくなかったから…
王女らしくここ最近振る舞えてなかったから…
ちゃんと王女としてやれるのかどうか見られてた…
「あ、アダム・エイデンの処遇、あれでよかったの…? 公爵の意見を取り入れるなんて…」
「ん~…?」
プスッとラファエルは野菜にフォークを突き刺した。
「耐えられるわけないでしょ」
「………ぇ…」
「あの男が耐えられるわけないと思うよ。使用人以下の使いっ走りなんて」
「………じゃぁ、なんで…」
「手っ取り早く苦しめて始末したかったから」
スッと無表情で見られ、私は息を飲んだ。
「………ソフィアの膳にまで毒盛った奴を、ソフィアを奪って妾にしようとしてた奴を、俺が生かすと思った?」
「………」
「そりゃ、極刑や牢生活でも同じだろうけど、屈辱的な立場に追いやり、手助けする者もいない状況にし、絶望のままに死んでいくのを望んでる」
ラファエルは胸の内の中で怒っていたんだ。
その怒りが、大きくなっていたんだ。
あれ以来、私にも察しさせないようにして。
「公爵家の名前だけで偉くなったつもりでいる奴を、許すわけないよ。貴族の名は飾りじゃない。民のことを顧みず、自分の欲望だけで動く奴は民以下。だから民以下の使いっ走りをさせる」
「そう、だね」
言っていることは正しい。
私も同意する。
けれど冷たいラファエルの声に、しどろもどろになってしまった。
「………何? ソフィアは生かしたかったの?」
そのせいでラファエルに誤解を与えてしまったようだ。
「ち、違うよ。ラファエルの言うとおりだと思う」
「………」
「精霊を、例え一方通行の想いだったとしても、それを理由に王家の人間を狙ったのは許されないことだもの。異論があれば、言葉で伝えようとするのが筋だもの」
「ん」
私の言葉にラファエルは笑って、食事を再開した。
………王太子の時のラファエルは冷静で、冷たくて…
そんなラファエルの隣にちゃんと立てるようにしないと、と私は思った。




