第255話 内に秘めることは秘めましょう
ラファエルが出てくる前に、私の騎士が全て戻ってきた。
そしてラファエルが部屋に戻らないよう、私の寝室の向こう側――ラファエルの部屋側に騎士2人。
私の部屋に騎士2人。
私の部屋の扉の向こう、通路に騎士2人。
計6名のラファエルの騎士配置が整えられた。
ラファエル専属騎士は全部で20人。
それぞれローテーションで見張ってくれるそうだ。
「ソフィア様」
「何?」
配置についた騎士達とは別の顔だった。
その手に箱を持っている。
ちょっと警戒してしまったけれど、見覚えある顔だったし精霊も反応してないから大丈夫だろうと判断。
「医者から解毒剤を受け取ってきました。どちらに置いておきましょうか?」
「ありがとう。ベッド脇の机にお願いできるかしら」
「はい」
足取りも騎士そのもので違和感はない。
………ダメだな。
疑うのが当たり前になってしまっている。
慎重なのは良いことだろうが、必要以上の警戒心は良くない。
けれど一応…
『水精霊、あの中の液体が、本物の解毒剤かどうか確認することは出来る?』
『可能です』
『宜しく』
『はい』
騎士が置いてこちらを振り返る。
「こちら、医者からの解毒剤を飲むに当たっての注意点を書き記したもののようです。お受け取り下さい」
「ありがとう。下がっていいわ」
「失礼致します」
騎士が出て行って二つ折りの紙を開いた。
解毒剤は毎食後を目安に1日3度服用すること。
身体の中に残っている毒は徐々に薄れ、顔色に変化がなくなれば服用をしなくていい1つの目安になること。
少しでも違和感がある場合はすぐに医者を呼ぶこと。
これぐらいの注意点だった。
………訪問診察はしないんだ…
ルイスに邪魔するなとでも言われたのかしら…
こっちとしては様子を見に来てくれた方が安心するんだけど…
はぁっとため息をつく。
逆にラファエルがちゃんと休めるように配慮してくれたのかも知れないし…
気にしない方が良さそうだ。
「ソフィー、昼食の準備をしてくれる?」
「フィーアが既に」
………ホント、優秀な侍女で助かる。
会議中に小さく鳴っていたお腹は、コルセットの締め付けから解放されて大きく空腹だと主張している。
ソフィーに聞こえてないか心配だ。
「アマリリスは?」
「まだ目覚めてはいないようです。アレでも男爵令嬢でしたので、鍛えておりません。多少痛みに強い民といえどもおそらく寝込むでしょうし。騎士とも違います」
「………そうね」
早く目覚めてくれれば良い。
そう願う。
せっかく考えを改め、働いてくれているのだ。
こんな事になって申し訳ない気持ちもある。
ナルサスを庇い、自分が負傷し、それでも私を守ろうと動いてくれた彼女を、どうして気にせずにいられようか。
彼女を巻き込んだ以上、きちんと謝罪とお礼を言うべきだろう。
………お菓子でも食べさせてあげようか。
侍女は主人が許可しない限り、娯楽と呼べる甘味を食すことは出来ないし。
勿論、休暇中に自分の給金で食べるのは有りだけれど、アマリリスの給金が出るのはずっと先だし…
侍女や見習いはそうそう王宮から出ることはない。
ちょっとぐらいご褒美で与えてもいいかもしれない。
………ラファエルに言葉だけでいいと言ったのは、決してアマリリスに物品を“ラファエルから”贈られるのを阻止したかったからじゃない。
そう!
あれは王太子から侍女見習いに贈るのは非常識だと!!
ラファエルに自重してもらおうと!!
私だって滅多にラファエルから物貰うことないんだし!!
物欲がないのと、他の女にラファエルが物を贈るのを黙って見ていることとは、別問題だと思うんだよね!
それでアマリリスがラファエルをまた狙ったら嫌だし!
も、勿論アマリリスがもう表だって狙うとは思ってないんだよ?
で、でもでも内に秘めて想うだけでも…ってなっちゃったら嫌だし!
ラファエルの魅力は私だけ知ってたらいいんだし!
外見も内面も見て知ってラファエルを理解できるのは私だけだと思うし!
アマリリスが物貰ったぐらいで揺らぐような安い女だとは思いたくないけれども!
万が一があったらダメだしね!
慎重なのはいい事よ!
危機は回避しなきゃ!
そう!
あれは正当な意見だったのよ!
決して私情をはさんでな――
「………」
「………」
じぃっとソフィーに見られていました。
こ、これは心を読まれたのだろうか……?
い、いやでも、ソフィーはむやみに読まないと言っていたし、大丈夫だ、うん。
「姫様」
「なに?」
「………心の内の声はどうぞ、心に留めておいてください」
「………」
ソフィーの言葉に、私は何気なく部屋の方に視線を向けた。
………妙に温かい目で騎士達に見られていました。
………またやっちゃった!?
かぁっと顔の体温が上がっていく。
これは真っ赤だろう、と何処か他人事に思った。
ど、どこから漏れていたのだろうか…
や、やってしまったものは仕方がない!!
ラファエルに知られなきゃそれで問題な――
「そうか。あれは嫉妬からも来てたのか…」
いつの間にか入浴を終えていらっしゃる!!
視界に入ってなかった私の部屋のソファーに、ラファエルがグッタリと座っており、風精霊の眷属の風の精霊に髪を乾かしてもらっていた。
出たなら出たで言ってよね!!
「嬉しいこと言ってくれるねソフィア」
満面の笑みを向けられ、私はベッドにダイブして布団の中に隠れたくなったのだった。




