第248話 上手くいかない現実 ―? side―
役割を与えた影が戻ってこない。
これは、失敗したと思っていいだろう。
王太子の訃報が聞こえてこない。
王女の訃報が聞こえてこない。
「次はお前だ」
スッと小瓶を差し出すと、目の前の男が手に取った。
「………お言葉ですが、もう、お止めになった方が宜しいかと」
後ろから落ち着いた声が聞こえ、私は視線を向けた。
「ラファエル様もサンチェス国王女も、この国を大切にしております。それは改国の状況を見ればお分かりになられるでしょう」
「だから、私の大切な者を奪っていいとでも?」
「………」
「彼女は私の大切な人だった。彼女さえいれば良かったんだ。なのに、王族以外の精霊所持は今後禁止だと言われ無理矢理奪われた!」
ダンッと机を拳で叩く。
「………精霊で実際に王族を亡き者にしようとした侯爵のせいでしょう。ラファエル様は今後同様な事件を起こさせないために…」
「精霊に選ばれなかった自分のせいだろう! 王女を守れなかったのは王太子自身の問題で、私達には関係のない話だ!」
ガタリと椅子から立ち上がる。
王太子、いや王族の精霊など見たことも聞いたこともない。
精霊は優秀な人間を選ぶと聞く。
私は精霊に選ばれた。
私は王族より優れた人間だったということだ。
「私は王族より優秀だから精霊に選ばれた。だったら私がこの国を統べるのが1番だろう!」
「お待ち下さい!」
「私が王族になれば精霊と契約して問題ないのだろう? 無能な王族に代わり、私がこの国を導く! まぁ、改国の状況を見れば王女は使えるのだろう。だったら王太子だけ排除し、王女は私の伴侶としてもいいかもな」
我ながらいいアイデアだ。
使える人間はちゃんと残さないと。
「に、2重の簒奪をするおつもりですか!? ラファエル様と王女は愛し合っていると聞きます! ラファエル様を殺めたとしても、貴方のモノになるはずもないです!」
「王族に相手を選ぶ権利などないだろう」
「っ……」
「すぐに私に従うさ。さぁ、王太子を始末してこい」
突っ立っていた影に言うと、姿を消した。
「この事が公になれば、貴方は終わりです…」
「彼女がいなくなった時点で、私は終わっている。彼女を取り戻す。ソレが私の望みだ」
「………」
王族だからと、人の大事な者を奪っていいはずがない。
ならば、私は王太子から大事な者を奪ってやる。
王太子と王女が愛し合っているだと?
今も王宮でイチャついているのかもしれない。
人の大事な者を奪っておいて自分たちは幸せか。
はっ。
バカにするな。
王太子が間違っていることを私が思い知らせてやる。
誰もが従うと思うな。
机に乗っている書類を見る。
そこには王太子…いや、王女がやっている改国情報が全てある。
王女が奇抜なアイデアを出していて、ソレが国の経済を安定させつつある。
これらを見れば王女を利用できるだろう。
私の伴侶にすることに何の問題もない。
私の彼女は伴侶とすることも叶わない存在。
だが、傍にいてくれさえすれば良かった。
それだけで、良かったんだ。
王女を伴侶とすることで彼女が悲しむかもしれないが、王女を私に繋ぎとめ改国のアイデアを出し続けさせねばならない。
でも私の愛は彼女のモノだ。
王女などただの形だけの愛妾だと思ってくれるだろう。
彼女は寛大だから。
「ああ、早く抱きしめてやりたいな」
もう少し待っていてくれ。




