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第245話 騎士の絶対的忠誠心 ―N side―




「なぁ…ちょっと聞きたいんだけど…」

「なに」


アマリリスの傍に今までついていたが、ちょっと休憩しろと言われて休憩室にやってきた。

休憩室とは、騎士が休憩するときに休む部屋だと、王女がラファエルに言って用意させた部屋。

本来ならそんなものは騎士の宿舎で各々取っていたのだが、王宮と宿舎の距離が離れすぎているし、戻ってくる距離は訓練にはなるだろうが効率的ではない、と王女が言ったためだ。

ラファエルも確かに、と頷き王宮の一室を騎士の休憩室として設けられた。

侍女は侍女である。

騎士用、侍女用、男女兼用用として3室作られている。

そして贅沢なことに、軽食や水分補給出来るようにと食堂と隣接し、それぞれ壁をぶち抜いてカウンターを作り、調理場を中心に十字に区分けされていた。

………あの王女、どんだけこの国も王宮の構造も変える気だよ…

と、突っ込みたくなる。

そして先に休憩室にいたヒューバートの正面に、俺は飲み物を持って座った。

ヒューバートは本を読んでいて、チラッと見えた内容は俺には分からなかった。

そもそも俺には教養がないから読めないのだが…

学園には当然平民も通えるが、俺の親がそんなところに行かせてくれるはずもなく…


「………何だよ」


ヒューバートに見られ、ハッとする。

そうだった。

俺が話しかけてたんだった。

ヒューバートは一緒に行動していたときのような口調に戻っている。

ソフィー殿が絡んだときのあのダメダメ感は感じない。

鋭い視線に射抜かれ、息を飲む。


「………そ、ソフィア様……あれから…」

「何にも言ってねぇよ」


キッパリ言われ、あまつさえ睨まれてしまう。

………俺がソフィア様に暴言を吐いてから、半日過ぎていた。


「………お前、アレはないわ」

「………ぁぁ」

「お前の主でなくても、お前の命の恩人だろ。嗜めることはあっても、アレはソフィア様全否定の言葉だったろ」

「………すまない」

「俺に謝ってどうすんだよ」

「………すまん」


ソフィア様は何も言ってなかった…か。


「ソフィア様に変化はない。普通にしておけ」

「………ん」


でも、たぶん…傷ついていないわけじゃない…

表に出さないだけで。

地下に監禁していたとき、平民のような口調で…

ラファエルといるときは、普通の女で…

けれど容赦しないときは、鋭い視線で、強い口調で、王族の立ち振る舞いで…

どれが本当のソフィア様なのか分からない。

でも…


「………ヒューバート」

「なに」

「………普段のソフィア様ってさ、どういう感じなんだ…?」

「お前も知っているとおりだよ。普通の令嬢だったり王女らしかったり、平民のような時もある」

「………」

「それにお前、人の評価は他人に聞いていいもんじゃないだろ」


パタンとヒューバートは本を閉じた。


「え……」


他人に聞いてはいけないのか?

だってソフィア様は聞いてきただろう。


「自分から見て相手の評価が固まっており、だがそれだけでは判断してはいけない者が他人に、相手の評価を聞くことを許される」

「………!!」

「ソフィア様とお前の立場は違う。それにお前は他人の意見を聞いて、判断を変えられるような器用な人間か?」

「………」

「そもそも俺達騎士は、主への絶対的な忠誠の元動く。主のためならば命を落とす覚悟で毎日過ごしている。そして主が道を踏み外したら、例え首を落とされようとも窘める事が出来る覚悟がいる。お前、あの時自分の主であるラファエル様の事が頭に残っていたか? そのラファエル様の将来の伴侶に対して、あの言葉の数々が相応しいと思っていたか?」

「っ…」


あの時の俺の頭にあったことは――


「ソフィア様に噛みつく覚悟、ラファエル様に切り捨てられる覚悟、それをお前はあの時に持っていたか?」

「………」


グッと拳を握る。

あの時の俺は、騎士じゃなかった。

ただ、ソフィア様の命を奪おうとしたときのように、自分のことしか考えてなかった。

アマリリスと自分を重ね、俺自身が物のように扱われたように感じて…


「あの時のお前に、ラファエル様の騎士を名乗る資格はねぇよ」

「………ぁぁ」

「ソフィア様の目に映ることもおこがましい。………暫く俺も顔を見るのも遠慮したい」

「っ……」

「お前の教育係に選ばれ、教えた。そして俺はソフィア様護衛に任命され、お前とは接点があまりなくなった。お前はもう教育係がついていない、一人前の騎士じゃなかったのか? 俺の主を侮辱する騎士など、視界に入れたくない」


ガタッとヒューバートは立ち上がり、俺に背を向けた。


「………休憩終わりだし、ジェラルドと護衛を交代してジェラルドには、毒混入犯人を捜してもらわなきゃいけない。お前に構っている暇ねぇよ。こっちは大事な主に毒を盛られそうになったんだ。膳に毒を入れられないように出来なかったお前に対して、ソフィア様は咎めることはなかった。なのにお前はソフィア様の優しさに対してあの暴言だ。許せるはずないだろう」

「………」

「………お前には感謝していた。ソフィー殿と婚約できたのはお前のおかげでもある、と。だが――今はその感謝の気持ちも抱けねぇよ」


俺はヒューバートの言葉に返す言葉がなかった。

遠ざかっていく背中を、ただ見ていることしか出来なかった。

主に対しての絶対的な忠誠…

………ああいうのが、本物の騎士というものなのだろう…

かつての王や王子についていた騎士とは全く違う。

金に目がくらむような奴らとは違う。

そして、俺とも…

俺はヒューバートの背中に、そっと頭を下げた。

………俺は…少しずつ積み上げてきた…信頼、信用、評価を自らの手で失ってしまったことを知った……


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