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第235話 思いもしていなかったこと




「ソフィア」

「何?」


ベッドでゴロゴロしていたラファエルが、刺繍をしている私に話しかけてくる。

さっきまで仮眠室は沈黙に包まれていた。

そして、新たな事実が判明。

ソフィーは私以上に不器用だった。

家事とかは上手いのに、何故か刺繍に苦戦するという…

針で指を刺すわ、固定しているのに布を重ね縫いしてしまうわ…

見てるこっちがハラハラする…

ヒューバートは頼んでしまった手前、何も言えないが顔色が悪くなっており、もはやソフィーしか視界に入っていない。

………オーフェスかアルバートを呼び戻そうかと思うぐらいに、護衛の仕事が出来ていない。

刺繍に誘った手前、私も何も言えなかった。

布と睨めっこしているソフィーは、可愛かった。

何故顔は同じなのにここまでの違いが出るのか。

………わからん…

………まさかあれか?

性格のせいか!?

………いや、この事は考えないようにしよう、うん。


「毒が落ち着いて動けるようになったら2人で出掛けようか…」

「………………え!?」

「何でそこで驚くの…」


ラファエルが呆れた顔で私を見る。

枕にしていたクッションを立てかけて、そこに上半身を預けながら。


「い、いや……元通りになったら真っ先に仕事するのかと…」


暇だから仕事したいって言ってたぐらいだし…


「急ぎの仕事は終わらせてるよ。サンチェス国から帰ってきた時に。精霊の件は、民がどう判断するかによるし、沈静化するのもまだ先だと思う。王家の判断は民に伝えたんだ。貴族は貴族で話し、民達もここまで意見を上げるのは民同士で話し合ってから。そこから領地を統括している貴族に話が行き、貴族が纏めて朝議議題で上がる。まだ先だよ。逆に今こっちが動くのは得策じゃないね」

「大元の事は通達しているものね。更に説得するための言葉は今は逆効果だし」

「うん。だから、俺じゃなくていい仕事はルイスに任せて、俺はソフィアを可愛がる」

「………」


何故私を可愛がるに繋がるのかが分からないけれど…


「ルイスに任せられるなら、最初から大人しく寝てて欲しいんだけど」

「気になったものは全部片付けないと、気になって俺がゆっくりソフィアを愛でられないから」

「………」


私は執務室の状態を思い出す。

………あの仕事終わらせるのに一体何日かかるのだろうか…

私が遠い目になった時、扉がノックされた。


「はい」

「入るよ~」


入室許可が出てないうちに入室してきたのはお兄様だった。

温泉街から戻ってきたらしい。


「おお、ホントに寝てる」


お兄様の影から今のラファエルの状態が耳に入ったらしい。

扉を閉めてお兄様がベッドに近づいてくる。


「執務室の書類、俺が片付けるからゆっくりしてていいよ」

「ありがとう」


………ん?


「ちょっとお兄様!! ランドルフ国の国政書類を何見ようとしてるの!? 機密事項でしょ!? ラファエルも何すんなり受け入れてるの!?」

「え? 今更だよね?」

「今更だよね」

「は!?」

「だってラファエル殿に俺の仕事手伝ってもらってたし。サンチェス国で」

「んな!?」


そんな時間、いつの間に!?

………

………あ、すみません。

私が王宮から頻繁に姿を消していた時ですね、はい…


「って、可笑しいでしょ!? なんでお兄様もサンチェス国の書類見せてるの!?」

「だって、ねぇ?」

「うん」


いや、2人して2人にしか分からない受け答えをしないで…


「いいかいソフィア。情報の開示はある意味同盟をより長い期間維持できるんだぞ」

「互いの国がどのようなことをやっているか実際に把握することによって、継続とかより良い提案とか色々出来るんだよ」

「隠すことがない分、信頼になるだろう?」

「………ぁ…」


そうか。

同盟国同士だから、っていうこともあるのか…


「国同士が互いに秘する事も確かにあるだろうけど。サンチェス国でもその類いの書類は俺は見てないし、こっちのもルイスが分類して別場所で保管してくれる。そもそもそういう物は最重要されるから最初に対応してしまって、後は見られても問題ない資金運営とか街の動きとか国にとって類似点がある書類ばかりだよ。他国のを見て処理するのも自分の経験になるしね」

「そうそう。どこどこの道が塞がれている、とか。国境の関税が、とか。同盟国なら国境の関税は共通だし、同盟だからこそ入国審査を他国より甘くして問題ないか、とかね」


な、成る程…

まぁ問題ないならいいとしよう…


「あ、ソフィア。考えるの放棄したね」


ギクリと肩が揺れてしまった。

ふっふ~ん、と鼻歌で誤魔化そうとしたけれど、誤魔化せなかった。


「まぁ、俺も書類を見て問題ないだろうという物と、ラファエル殿の判断がいる物の分類するだけだし。問題ないだろうと判断した物はルイス殿に確認しつつ、意見を言ったりだな。流石にサインとかはしないし、より良い提案できないかどうか、それをルイス殿に伝えてルイス殿が処理する。全部が全部ルイス殿がするより早いだろうし負担は少なくなる」

「成る程ね」

「実際あれだけの量、異常すぎるしね。本来なら臣下達が厳選してラファエル殿の元に募るのはあの100分の1ぐらいだ」

「………」


それは、まぁ……分かるけれども…

お兄様の執務室を訪ねたときも、大体ちょこんと書類の山が執務机の上に2・3積み上げられているだけだったし…

………そうか。

ラファエルは、ルイスは、信頼に値する臣下もいないんだ。


「じゃあ、俺は行くよ。手伝うと言いに来ただけだしね」

「ありがとうレオポルド殿」


お兄様が出て行き、ラファエルは笑って私を見る。


「仕事これで無くなったよ」

「………うん」


臣下のいない現状を突きつけられた私は、複雑だった。

けれど、ラファエルが気にしてないように笑うから、私もそれに合わせて笑ったのだった。


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