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第231話 思いとは裏腹に⑫




「………ソフィア」

「………」

「………ちょっと、離れて欲しいんだけど……」

「………ヤダ…」


私はギュウッとラファエルに抱きついたまま、離れなかった。

ラファエルの足を跨いで、正面から抱きついているのははしたないと思うんだけど、まだ離れたくなかった。


「………お茶、冷めるよ?」

「………いい」


ラファエルが天を仰いだのが分かった。

困らせてるのは分かってるけど、離れてた時間が長すぎたんだもん…

もうちょっとラファエルの時間ちょうだい…

どうせ休憩らしい休憩取ってなかっただろうし、ちょっとでも休めればラファエルの顔色も少しは良くなるだろう。


「………ソフィア……俺にも下心というものが……」

「………口づけても、いいよ?」


顔だけを上げて言うと、ラファエルが真っ赤になった。

………いつもラファエルからしてきてたくせに…

………いつ以来だろう。

ラファエルが私にキスしてこなくなったのは…


「………ダメ」


ラファエルが私の唇を手で覆い、少し押してくる。


「………なんで?」

「………今日はダメ」

「じゃあ、明日ならしてくれるの?」

「っ………ソフィア、いつからそんなに積極的になったの……」

「ラファエルが放っておくから」

「………」


ラファエルだけのせいじゃないけれど…

私も結果的にサンチェス国でラファエルを放っておいてしまったのだけれど…

何で今日はダメなのだろう。

自分で言うのもなんだけれど、今いい雰囲気じゃないのかな…

ラファエルの顔を伺っていると、ラファエルはチラチラと執務机を見ていた。

最初は書類が気になっているのかと思った。

………でも、なんか違う…?

仕事なら仕事ってハッキリ言うラファエルだから…

別の理由?

でも、執務机には書類以外……ん?

私は執務机の上に書類以外の物が乗っているのがチラリと見え、素早くラファエルから離れてそちらへ向かった。


「あ、こらソフィア!」


ラファエルの制止も聞かずに、私は見えた物を手に取った。

それはサンチェス国でも見た覚えがある小瓶。

キュポッと蓋を開けて匂いを嗅ぐ。


「ソフィア!」


ラファエルが慌てて小瓶を私から離し、遠ざける。

一瞬嗅いだだけでも分かった。


「………まさか…」


私は青ざめてラファエルを見上げた。


「ラファエル毒飲んだ!?」

「………」

「それ、解毒剤!!」


私も王族だ。

毒に慣らす訓練は受けさせられた。

よく似た臭いの解毒剤を飲まされていたから気付いた。

私はラファエルの胸元を掴む。


「自分で飲んだの!? 飲まされたの!?」

「………」


さっきライトがお茶を持ってきたのは何故?

何故侍女が運んで来なかった?

そして先程のライトの言葉…“こんな状態ですから”

それをふまえて考えると……ラファエルの暗殺未遂が起こっていた……!?

私が呑気にしている間に!?


「飲まされたのね!? どのぐらい口にしたの!? 寝てなきゃダメでしょ!? 何仕事してるの!?」

「………ちょっと、落ち着こうかソフィア」

「落ち着けるわけないでしょう!? ラファエル死んじゃったら私どうしたらいいの!?」

「ちゃんと解毒剤飲んでるし、立ってるでしょ? 死んだりしないよ」


私はラファエルの手を取って、ぐいぐいと隣の部屋の方向に手を引っ張る。

構造からいって仮眠室のはずだ。


「ちょ、ソフィア」

「寝てなきゃダメ!! 口にしてから何日目!? 医者の許可が出るまで仕事禁止!! そんなものルイスにでも押しつけなさい!!」

「………ソフィア、ルイスに酷くないか? それに仕事をそんなものって……」

「ラファエルが倒れてまでする仕事なんてないよ!!」

「………」

「ラファエルがちゃんと回復してからした方が絶対はかどるし! サンチェス国に来てくれてて仕事が溜まってるのは分かるけど、緊急性がある案件は今はない!!」

「………!」


ラファエルが私をまじまじと見てくる。


「………なんでそんな事知ってるの」

「ラファエルもルイスも緊迫した雰囲気出してないから」

「………凄いねソフィア」


私は仮眠室の扉を開け、そこにベッドがあるのを確認してラファエルを仮眠室に押し込む。


「ちょ……ソフィア強くなったね……」

「ラファエルは強気で行かなきゃ私の気持ちを疑うと学習したので」


私の言葉にラファエルは苦笑し、諦めたようにベッドに腰掛けた。

そして小瓶に口を付け、解毒剤を全て飲み干す。


「そのまま、出かける時は一言言うことを学習してくれたら、嬉しいんだけどね」

「う……ごめんなさい」

「いいよ。それ程気にしてない。俺もあっちで仕事しててソフィアと一緒にいてあげられなかったから。俺ばかり要求してごめんね」

「ラファエルは悪くないよ! ラファエルはちゃんと私に伝えてくれてたし。今度は私が伝える番だもの!」

「無理しなくていいからね」

「むしろ今まで通りにして。ラファエルの束縛、好きなの。…愛されてるって、分かるから」


私の言葉にラファエルは一瞬キョトンとして、苦笑した。

そんなラファエルの表情に、私はキュンとしてしまった。

ああああああ!!

可愛い!!

格好いい!!

もっと見たい!

これからは間違えないようにしないと!

ラファエルのどんな表情も見逃さないようにしたい。

だって、勿体ないから。

ちゃんと、愛し愛されたいから。

私は自然にラファエルに近づいて、気付いたらラファエルに口づけていた。


「………!!? ちょ、ソフィア!!」


一瞬の間の後、慌ててラファエルに引き離されてしまったけれど。


「何してるの! ソフィアまで毒が回ったらどうするの!!」


………ぁ……

そういう事だったんだ。

ラファエルが今日はダメって言ったのは…

………って、私今何したのー!?

じ、自分からラファエルにキスしてしまった!!

かぁっと頬が熱くなっていく。


「ちょ、大丈夫!? 毒回っちゃった!? 今解毒剤持ってこさせるから!」

「だ、大丈夫だよ!! 口についてたとしても微量だし!!」

「でも、顔が真っ赤だよ! 熱出て――」

「じ、自分から口づけちゃったことに恥ずかしくなっただけだから!!」


私が叫んだ言葉に、一拍おいて今度はラファエルが顔を真っ赤にした。

そして叫んで再認識したことで、私は羞恥心で頭がクラクラする。


「そ、そう」

「う、うん」


2人してどうしたらいいか分からなくなって、暫く互いが見られなかった。


「………そろそろいいですか」

「「!!」」


いきなり聞こえてきた声に、ビクッとして扉を方を見た。

そこにはルイスとライトが立っていた。


「ああ、ルイス…丁度良かった。ソフィアに仕事禁止令出されちゃって。今から休むところだったんだ」

「………貴方は………私が進言しても仕事を止めて下さらなかったのに、ソフィア様の言葉には従うんですか」

「うん。だってソフィアから言われちゃったら従うでしょ? 無視したらソフィアに嫌われるじゃないか」

「………散々ネガティブ発言してたラファエル様は何処にいったんですか」

「ん? ソフィアが愛してると言ってくれたから何処か行った」

「………」


な、何の話をしているのだろうか…

内容が分からなかったけれど、火照った顔は治まりそうにない。


「ソフィア、添い寝してくれる?」


ドキリと心臓が跳ねる。

久々に一緒に寝られる!

で、でも、私が喜んでいることまだ知られるのは恥ずかしい。


「………それで、ちゃんと休んでくれる?」

「うん。それにソフィアも俺がちゃんと寝てること確認できるでしょ?」

「ん。じゃあ、一緒に寝る」


ラファエルに近づいてラファエルの袖口を握る。

ラファエルと一緒にいる時間が増えることが、嬉しい。


「………はぁ。ちゃんと一線は守って下さいよ?」

「失礼だなルイス。俺は婚前交渉などしない」

「威張ることじゃないですからね。婚姻前に一緒に寝ることは、世間一般的にふしだらな部類に入りますからね!」

「世間など知らない」

「都合のいい時だけそういう風に言うの止めてもらえますか!」


ラファエルとルイスの会話を聞くのも久しぶりだな…

懐かしくて眺めていると、ライトが近づいてきて何かを差し出した。


「………ぇ、これ…」

「解毒剤です。万が一のことも考えて、持っていてください」


ライトがラファエルが飲んだ解毒剤と同一の物を用意してくれたらしい。


「………反対しないんだ」

「姫がいいならいいですよ。私はそれに従うだけです」

「………明日雨が降る」

「………反対しますよ」

「ごめんなさい!!」


ライトが半目になり、私は慌てて謝る。

そしてライトは天井へと姿を消し、ルイスはラファエルの仕事の続きをするということで出て行った。


「おいで、ソフィア」


久しぶりにラファエルにベッドへ誘われ、私はそれに従った。


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