第23話 新たな噂が恥ずかしいです
私はラファエルに全ての知っている甘味を書き出してもらった。
そして何個か作ってもらい、ライトにサンチェス国に行ってもらった。
王と王妃に試食してもらうために。
サンチェス国で販売できるように交渉する為、先に食してもらった方が良い。
そして小出しにするのだ。
一気に出してしまうと、全部ひっくるめてレシピ寄越せとか言われそうだし。
王は国益になりそうな事に関しての食いつきは良いから、サンチェス国で作るって言いそうだしね。
そうなると、利益の何割かだけランドルフ国に渡される。
売値もあっちで決めることになるし…。
レシピ…材料費を知られると困るしね……
ギリギリまで売価を引き上げることが出来なくなるし。
庶民用と貴族用。
どっちもランドルフ国の人間が作れば、元値が知られる心配が無い。
だからあっちで店を出しても、ランドルフ国民が従業員。
サンチェス国民を雇うことはしない。
などなど、ラファエルと話して、王と交渉できないか手紙と現物をライトに持って行ってもらっている。
………カゲロウは食べ物渡すと、あの足の速さでグチャグチャになるんだよね…
しっかりしている性格のライトが適任だ。
………そしてその間の私といえば……
「………」
目の前の新作ケーキをどうしようか考えていた。
対面には、仕事の休憩中のラファエル。
机に肘をついて、手に顎を乗せて、ニコニコと私を見ている彼も、どうしようって感じなんだけど……
「………あ、の…ラファエル様?」
「ん?」
………満面の笑みを向けて来ないで下さい。
「………見られると、食べにくいのですが…」
「気にしないで」
………気にするから言ったのですよ…
もう何言っても仕事くれないから仕事するのは諦めて、毎日ラファエルお手製のケーキを大人しく食べてるんだけど…
………私、太る……
材料は決して私が太る事はない物なんだけど……心情的に…
………そして…
「………ぅぅ…」
好きな人に見つめ続けられると、恥ずかしいんです…
顔が赤くなってないか心配…
「ソフィアは相変わらず可愛いね」
やめて!!
部屋でならともかく、ここには技術者達もいるんです!!
皆聞こえてないふりして仕事してるから!!
イチャつくならどっか行けオーラが出てる気がするから!!
ってか、ラファエル……せっかく遊び人評価が撤回されつつある反面、今度は婚約者を溺愛説生まれつつあるから!!
あ……いや……す、好きでいてくれることは分かってるんだけど……
その……何処でも可愛いとか言ってくるから……
他の人の前で顔を赤くして照れたくないのよ…
で、溺愛……って噂出てきてるから、ラファエルが他の人に言い寄られる心配は無いかなぁ……とは思うけど……
「俺、心配だよ」
「………ぇ?」
「ソフィアが可愛すぎるから、誰かに言い寄られないかって」
………
………………
………………………ないから!!!!!!
「ありえません!!」
数秒の間、何を言われたか分からなかったじゃない!!
どの顔が言うの!?
私の顔は普通!!
普通なの!!
イケメン王子に言われると惨めになる!!!!
ラファエルだけに可愛いと言われてるからね!?
もう可愛いって言われるのは慣れ…てないけど!!
もう諦め入ってるけど!!
「ありえるよ。何度も可愛いって言ってるじゃないか。ちゃんと男を警戒してくれないと、心配で一人にしておけない」
「ぅぅ……」
真剣な顔で言わないで!
………だって、本当に普通なんだもん。
サンチェス国の貴族令嬢って可愛いことか美人とかいっぱいいるし。
ちゃんと可愛く出来るように化粧とか(侍女が)頑張ったけど……なんていうか……頑張ってる感? 背伸びしてる感? が否めなかった…
きちんと客観的に見て、だ。
知ってるもん。
美人だったローズの隣でいた私を、影でクスクス笑ってた令嬢達を。
ローズの引き立て役にしかなってなかった私は、影で蔑まれていた事を。
でも王女だから、直接は言ってこない。
………直接なら言い返せたものを……
って話が逸れてる。
そんな私を可愛いと言ってくれるラファエル以外に、目が行くわけないのに……
「………大丈夫ですよ」
「だから…」
「私が格好いいと思っている人は、一人ですから…」
ちょ、ちょっとぐらい……言っても、いい、よね?
視線を反らし、ティーカップを唇に付けながらラファエルだけに聞こえるように小声で言う。
「………」
「………」
「………」
え!?
なんで沈黙!?
き、聞こえなかったのだろうか…?
不安になって、そっと視線だけをラファエルに向ける。
………あ、れ?
手の甲を唇に付けて、顔を真っ赤にして横を向いているラファエルがいました。
う、わ……
こっちまで顔を赤くしてしまった。
あ、あんなので照れる、の…?
あんなのって言っても結構勇気が要るんだけど…
ど、どうしよう…
あの台詞が出会った頃のラファエルの表情を引き出すなんて、思ってもいなかった。
………そう、か…
最近ラファエルは昔の性格――口調? になってたから、気も強くなっていたのだろう。
でも、ああいう事は言われた事ないから、照れちゃうのかな…?
なんだかラファエルの弱点を見つけた気になって、私は照れたまま微笑んだ。
それによってラファエルは、顔を赤くしたままムッとしてしまったけれど。
――後になってこれが失敗だったことに気づく。
当然あの場は技術研究室。
技術者達が当然いて……
溺愛はラファエルだけじゃなくサンチェス国王女もだった。
二人は他人が入り込めないくらいに互いを溺愛している。
………という噂が広まり……
私は暫く部屋に閉じ籠もってしまったのだった…