第228話 思いとは裏腹に⑨
お兄様のテンションが高い。
お父様とお母様と共に温泉街へ来た。
お兄様が意気揚々と2人に説明している。
おかげで私のやることはない。
店はだいぶ形になっていた。
所々試験的に開けている店がある。
………これも、ラファエルの指示なのだろう。
お父様とお母様が来ているから…
………大丈夫かな…
ラファエル、顔色悪かったし。
無理、させてしまっているんだろうな…
私のせいで、ラファエルがランドルフ国から離れていた期間は12日と長かった…
もし、ラファエルがその間ランドルフ国に留まっていれば、もっとこの温泉街は完成していて…
「姫、遅れていますよ」
ハッとライトの言葉に顔を上げると、お父様達からだいぶ離されていた。
いつの間にか足を止めていたようだ。
「………ありがとう」
「………」
再び歩き出すとライトも付いてくる。
ライトに、聞いても良いかな…
ラファエルの事…
ダメかな…?
ライトはラファエルに怒ってたし…
あ、でも昨日ライトはラファエルを名前で呼んでた。
………私の知らないところで話してたのかな。
………いいな……
ライトは自由にラファエルと話せて…
「………ライト」
「はい」
「………ラファエルは……」
「………」
………ダメだ。
言葉が続かない。
何から聞いたらいいか分からない。
聞きたいこと沢山ありすぎて…
「ソフィアー!」
「ぁ…」
お兄様が呼んでる。
私は駆け寄った。
………ぁぁ、ラファエルの様子が知りたいのに…
ライトに聞くのが怖い。
「俺達は温泉入ってくるよ」
「あ、うん」
「だから、ソフィアは好きにしてていいよ」
ニッコリ笑ってお兄様が言う。
「………好きに…?」
「うん。好きに。店視察するのも良し。城下へ行くのも良し」
「………それ…以外は…」
私が行きたいところの選択肢がなかった。
だから、つい口から言葉が無意識に出た。
「いいよ」
「………!」
「帰りたいんだろう? ラファエル殿の元に」
お兄様の言葉を聞いた瞬間、私の視界が歪んだ。
「ソフィア」
「っ……お、父様……」
「あんな顔で外に出るな。お前は王女なのだぞ」
「………ご、めんなさい…」
「王女なら感情を表に出すな。そう教育されているはずだ」
「………は、い……」
お父様の言葉が痛い…
「………だが今は、お前は婚約者に休暇を取らされているだろう」
「………ぇ……」
「なら、“好きなところに出かけて”も何も言われないだろう」
「………!!」
その言葉に私は目を見開く。
………お父様も……気付いていた……?
私とラファエルの関係に溝が出来ていることを。
「それに、“休暇中に何を言っても”お前は“ただのソフィア”なのだから、咎める権利は誰にもないな」
「ぁ……」
屁理屈をお父様の口から聞くことになるとは思わなかった。
けれど、私はそれに勇気をもらった気がした。
「お父様お母様申し訳ありません! 私は帰ります!」
「おい、俺は?」
お兄様が自分を指差す。
それを無視して頭を下げ、私は王宮へと駆け出した。
「転ぶなよー!」
「はーい!」
お兄様のからかう言葉に、私は振り向かず返事をしながら走った。
ライトが素早くついてくる。
「姫っ! お待ち下さい!」
「やだ!」
「は!?」
「ライトばっかりラファエルと会って、話して、私はダメなんて嫌だもの!」
「いえ、そうではなくっ!」
「ラファエルとライトが何か隠してても関係ないもん!!」
「っ!?」
走る速度は落とさないものの、ライトが息を飲んだ。
それは図星ととっていい。
「ラファエルの邪魔だろうが何だろうが、私はラファエルと今すぐ話したいの!」
「今すぐは無理です!」
「どうして!?」
お父様達の視界に入らないところまで走りきり、私は止まってライトを見た。
私は息切れ寸前なのに、ライトは涼しい顔のまま。
く、悔しくなんてないから!
男と女の体力の差だもの!
嫉妬なんてしないから!
「今ラファエル様は大事なお仕事の最中です! 機密情報もあります!」
「執務室の扉越しに話したら私は書類を見なくて済むわ! 見ないんだから知れるはずないでしょ!」
「そういう問題ではございません! 王宮の執務室の扉越しに話す王族が何処にいるんです!」
「ここにいるわよ!」
「………あ~もう!」
ライトが思い切り首を振る。
「とにかく! 姫は今日1日温泉街を楽しむのです! それが――」
「ラファエルの望みでも私の望みじゃない!!」
「っ……」
ライトを涙目で睨みつけると、ライトが言葉に詰まった。
「私の望みはラファエルと一緒にいることだもん! 抱きしめてもらうことだもの! ラファエルがいない所じゃ意味ない!!」
「………サンチェス国で散々姿を消していた人の言葉とは思えませんね」
「そ、それは……悪かったと思ってる…」
私は地面に視線を落とした。
「ラファエルの束縛が重いって思ったことは1度や2度じゃない。でも、いざその束縛から解放されて分かったの…」
「………」
「私は重いって感じてても、本気で嫌だったことは1度もない…って……ラファエルから見向きもされないことがこんなに辛いなんて思ってなかった……自分の気持ちをラファエルに伝えてなかったことがどんなにラファエルを傷つけたか分からない。でもそんな私をずっと好きでいてくれてたラファエルに、これからもずっと傍にいて欲しい。その為にはラファエルと話す必要があるの!」
「………姫…」
「ちゃんと謝れてないまま…このままなぁなぁにして終わらせたくないの! ラファエルの時間がまた取れるようになってからじゃ遅いと思うの。このままじゃラファエルは私から離れてく…」
「それは……」
昨日ラファエルにやんわりと拒絶された。
それがどれほど痛かったか…
私の行いのせいでそうなってしまったのだもの。
一刻も早くラファエルに謝って、そして…
「仕事中に邪魔してする話じゃないと分かってる。分かってるけど、ちゃんと自分の口でラファエルに気持ちを伝えたいの! ラファエルの優しさに甘える事になるけど、私は――」
私の言葉を聞き終わらずにライトが私の脇を通っていく。
………ライトにまで、私は呆れられたのだろうか…
そうだよね…
今まで勝手してきて、今更こんな都合良い事……
「………何をしているんです姫。さっさと火精霊殿を呼んで王宮に帰るのでしょう」
「………! う、うん!!」
ライトの言葉に私はパッと顔を向け、火精霊に姿を現してもらい、私とライトは乗り込んだ。
そして王宮に向かった。
次はちゃんと接近!(…するといいな…)




