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第223話 思いとは裏腹に④ ―Ra side―




姫に言われ私は婚約者様の執務室天井裏まで来ていた。

そこで盗み聞きするつもりもないことを聞いてしまった。

婚約者様とルイス殿の会話は、私にとって衝撃を与えた。

………そんなつもりではなかった。

ただ、もう少し姫に自由を、と。

………何を見てきたのだ私は。

婚約者様の気持ちなど何も見ていなかったことに気づかされる。

私は姫の影だ。

姫を1番に考えることは当然であり、その他の人間など興味もないし、仕事でもないから気になどしていなかった。

けれど、姫の幸せには婚約者様との関係良好は必須で。

姫だけを守れば、姫が幸せになるということではないと、先程の姫の涙で気づいた。

私達影の1番は姫。

けれど姫の1番は私達影ではなく、婚約者様であり、次に民だ。

婚約者様とのことにより、姫の心が浮き沈みする。

………そんなこと、分かりきっていたはずなのに。

普段なら婚約者様の動向も伺い、双方の意見を知った後に行動していた。

そういえば私はサンチェス国にいたときに、姫の傍を離れず待機していた。

カゲロウも。

婚約者様の傍には私達のような、それよりも優秀なレオポルド様の影がついていた。

………だから……傍に行くことはなかった…

動向を伺うことも…なかった…

なんて失敗をしたんだ。

姫様を守るために…心を守るためにああ言った事は後悔していない。

けれど、私ももう少し冷静な目で婚約者様を見ているべきだった。

私もサンチェス国に行き、少し気を緩めていたようだ…


『………ソフィアの言葉が欲しい…』


婚約者様の言葉を聞き、私はソッと目を閉じた。

姫が婚約者様に「一緒にいたい」「一緒に出掛けたい」などは勿論、愛の言葉1つ言っていないことを私も気付いていなかった。

先程、ローズ嬢の言葉にハッとさせられた。

………私には男女間の恋愛感情など分かりはしない。

こういうものだろう、という客観的かつ分析してはいる。

けれど実際自分が体験したわけでもないし、複雑な心など分からない。

婚約者様の愛の表現は実際激しすぎる。

けれど姫が言わないことが、それをもっと助長させる原因だったのだろう。

姫のことを大事に思うなら、私も姫に言葉を伝えた方がいいと助言すべきだったのだ。

あの時、間に入るべきではなかった。

入ったとしても責めるのではなく、原因を聞き、仲介すべきだったのだ。

そうすれば、こうならなかった………かもしれない。

少し考え込んでいると、婚約者様がカップに口を付けた。

今がタイミングだな、と思い天井裏から出ようとした。


『………ルイス、毒だ』

『なっ!』


………毒!?


『大丈夫だ………一口だけ飲んだが……どうって事ない………ソフィアには……知らせ………る……………な……』

『ラファエル!!』


ルイス殿が婚約者様に駆け寄る。

私も即天井裏から飛び降りた。

共にいた婚約者様の影はその場を去った。

おそらくあの侍女を追ったのだろう。


「! ライト!?」

「医者を!」


ルイス殿が走って出て行く。

私は婚約者様の身体を固定する。

倒れたときに頭を机の角にぶつけていた。

頭部から血が出ており、布を出し手で押さえて出血を少しでも抑える。


「くそっ」


話が終わるまでと待つのではなかった。

自分の考えに囚われている場合ではなかった。

この国は安定していない。

婚約者様を邪魔と思う人間も、当然他国の倍はいると考えて然るべきだ。

………まだ精霊の件でも混乱している国を、姫のために中断してサンチェス国に来ていた婚約者様を、気遣って然るべきだった…


「………ら、いと……か……」

「! 婚約者様! 気付かれましたか!?」

「………どれ、ぐらい……寝て…」

「ほんの少しです」

「………そ、うか……だい、じょ…ぶ、だ……毒、は慣れて……る……」


大粒の汗が次々と浮かんでくる。

苦しみながら、また失いそうになる意識と戦っている。


「精霊で治せないんですか!?」

「………」


私の言葉に婚約者様はうっすら笑みを浮かべた。


「……お前、も………精霊…便利、道具……と、思って……ない、か?」


ハッとして私は視線を反らす。

………そう言うということは、毒は精霊には治せないということ。


「………な、にか、よう、なんだろ…?」

「そんな場合では!」

「言、え……わ、たし……は……この、国の……王、太子……だ…」


………“私”……

こんな時でも王太子なのか…貴方は……


「………」

「………ソフィア、に、何か……あった、のか…?」

「………」

「ソフィア、は……今…頃……街……楽し…んでる、か……?」


………婚約者様は姫が街で有意義に過ごしていると疑っていない…

こんな時でさえ、姫の事を気にしているのか…

………何故、私はこんなに姫を想っている婚約者様を、姫から引き離してしまったのだろうか…


「……た、のしい………よな………だ、から…言うな、よ……? ソフィアは……し、らなく…て……いい…せ、かい……だ…」

「!!」

「ソフィアがっ……た、のしん、で……し、あわせ…なら………そ、れで………もぅ………いぃ…」


言外に“俺がいなくてもソフィアは楽しく過ごせるから、もう何もしない、これ以上何もできない”と言っている気がした。


「わ、たし…は……ソフィア、が……過ごし…やすい……国…を……作る、こと…だけ……しか……できな…」

「そ――」


バタンッと荒々しく扉が開く。

ぞろぞろと警備の騎士と医者が入室してきて、騎士達が執務室の隣の仮眠室へ婚約者様を連れて行った。

すれ違いざま、婚約者様は私にソッと目を細め、穏やかに笑った。

医者も入って仮眠室の扉が閉められる。

………そんな事はない、と伝えられなかった。

婚約者様の最後の笑みは、何もかも諦めた表情で……

………あれでは、死んでもいいみたいに見えるじゃないかっ!!

グッと拳を握りしめる。


「………大丈夫ですよ。ラファエルは毒には慣れています」

「ですがっ!」

「生きる目的はありますから、死にはしませんよ。精霊達もなんとか維持しようとするでしょうし」

「目的って……あんな穏やかな顔してたんですよ!? 諦めたような!!」

「ラファエルはこの国を立て直すまでは死にませんよ」


にこりと笑って言うルイス殿。

………な、んだそれは……


「そういえば、ライトは何かラファエルに――っと…ラファエル様にご用ですか?」


………もう、婚約者様にとって姫は生きる希望にはならないのか……?

何故生きる“希望”ではなく、“目的”なんだ…

国を立て直す、それに姫がいるから、と何故言葉が続かないんだ…


「………婚約者様にとって姫は……」

「………ぁぁ……そうですよね。ソフィア様がいらっしゃいますし、愛する人を置いていくラファエル様ではございませんね」


………何故……思い出したように言う……?

………そんなに……姫は………私は間違ったのか……?

私は視線を下に向ける以外、何も出来なかった。

そもそもの原因は姫と私だ。


「………すみません、貴方も聞いてたと思うのですが、今ラファエル様とソフィア様は少し距離を置いた方がいいと思うのです」

「っ…!」

「ラファエル様が酷く弱って帰ってきたものですから…私はラファエル様の叔父ですから、すみませんがどうしてもソフィア様よりラファエル様の味方でありたいと思っています」

「そ、れは、当然でしょうね…」


私も姫の味方で、婚約者様は二の次になる。


「おそらく回復する頃にはいつものラファエル様に戻っていると思います。ソフィア様もサンチェス国でもこちらでも自由に楽しんでいらっしゃるのでしょう? でしたらその間だけでもラファエル様にも心にゆとりを――時間をあげてくれませんか」

「姫は――」


街に行ってはいない。

………けれどサンチェス国で自由にしていた分、姫は婚約者様よりずっと……


「ラファエル様は何処にいても王太子として心に余裕を持てない状態なのです……焦り、怒り、悲しみ………サンチェス国での出来事をお聞きしましたが、ラファエル様の唯一の癒やしであるソフィア様が王宮で会いたいときにいない、街でもソフィア様の心を知ろうとして知れなかった……それはラファエル様をより不安にさせたでしょうし、不安定になったでしょう」

「………」

「………ランドルフ国ではソフィア様は部屋から出ておらず、ラファエル様が会いたいときいつでも会えてましたから、おそらくサンチェス国でのソフィア様の姿を見て、我慢させていたと自己嫌悪したでしょうね……それでも、ラファエル様はソフィア様を好いておられます。自分といて欲しいと望むことは……悪いことではないと思うのです。やり方は褒められたものではないでしょうが」


苦笑するルイス殿に、私は自分が恥ずかしくなっていく。

ただでさえ身体を乗っ取られた姫を救おうと、ランドルフ国の問題を解決せぬままサンチェス国に来て…

その後姫が意識を取り戻し、王宮にいたときはランドルフ国の問題をどうするかレオポルド様と相談し…

その合間に姫に会いに行ったけれど、姫はお忍びで姿を消し…

そうこうしているうちにまた打ち合わせになって会えず…

街にお忍びに行って姫の心を知ろうとしたけれど、私に邪魔をされ…

もう2人きりの時間は取れず、姫の心を知れぬまま戻ってきた。

ランドルフ国に戻ったら姫との時間は更に取れないことを分かっていて…

でもそれを姫に言えば姫が我慢してしまう。

それは婚約者様は望んでいなくて。

結果、今の状態になった。

………限界じゃないわけがない!


「………ラファエル様の束縛を、許容して欲しいと言っているわけではないのです。ただ……ソフィア様にはラファエル様の事を…口に出さない不安や気遣いを、少しでも分かっていただけたらと願っているだけなのですよ」

「………はい…」


私には何も言えることがなかった。

私も気付いていなかったのだ。

サンチェス国での姫はいつも通りで、婚約者様とのやり取りも変わりなかったから。


『すまないライト。後2日間だけ、見逃してくれないか』


そう言ってサンチェス国のお忍び1日目の夜中に、私に頭を下げた婚約者様。

………一体どんな気持ちだったのだろうか。

従者に頭を下げるほど……姫は……私は…婚約者様を追い詰めていた…


「ラファエル様は貴方のせいだとも、ましてやソフィア様のせいだとも思っておりませんよ。全てご自分のせいだと思っておられるので、気にしなくていいと思います」

「ですが!!」

「それに、これはラファエル様とソフィア様の事。我々が口に出せる問題ではございませんよ」


キッパリと言われ、それ以上私は踏み込むことを禁止されてしまった。


「………さて、ラファエル様に何か伝言でもございますか?」

「………いえ、少し様子を見に来ていただけですので」


姫が訪問したいと言っている、など言えなかった。

私はこの時初めて……主の命令を遂行できず、失敗してしまったのだった。


ラファエルにライトにレオポルドにローズにルイス…

すみません、Rがイニシャルの人物が多すぎですね…

side表記ややこしくてすみませんm(__)m

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