第222話 思いとは裏腹に③
今日は2話同時UPです。
「………前から思っていたけれど、ソフィアはバカなんですの?」
「ぐっ……」
ラファエルがランドルフ国に帰ってきてから姿を見せなくなった。
仕事だと言われたらそれまでなんだけれど…
………寂しい……
サンチェス国の最終2日間、殆ど一緒にいたから余計に…
ラファエルから街に出ていいと許可が何故かいきなり出たけれど…
私はラファエルと出掛けたいのであって、お兄様と出かけたりはなかった。
ローズとも出掛けていいと言われたけど……
………そんな気分にはならなかった…
沈んでいる私を見て、ローズが私の部屋を訪れたのが今日の午前中。
サンチェス国の出来事を話し、ランドルフ国へ帰国した直後のラファエルとの会話、お兄様との会話を話し終えたのが昼頃。
ソフィーとフィーアに昼食を用意して貰い、一言も発しなかったローズが開口一番に言ったことが冒頭の言葉で…
「今回のこれはラファエル様に同情したくなる…」
「………」
「自分の好き勝手することもいいけれど、従者が無条件でソフィアの味方するのもいいけれど、ソフィアがそもそもラファエル様にちゃんと伝えてないことが原因でしょう」
「………はい」
「自分を放ってって……ラファエル様が今みたいに何も言わず、姿を見せないから寂しいって……それ、ソフィアがラファエル様にサンチェス国王宮でやってた事そのままじゃない?」
「………仰るとおりです…」
「しかもラファエル様は仕事してて、ソフィアは自由気ままに遊んでたんでしょ。ソフィアの方がたちが悪い」
ローズに容赦なく斬られ、私は気まずく視線を反らす。
「息抜きすることも大事って確かに私はソフィアに言ったけれど……婚約者に許可取らずに出歩いてた頻度はむしろソフィアの方が多いでしょ。自分のこと棚に上げてラファエル様を責めるって……従者が怒ってくれて嬉しかったから何も言わなかったって……ラファエル様可哀想…」
………ですよね……
………反省してます…
王宮では好き勝手させてもらってました…
「ラファエル様はソフィアと一緒にいたいとちゃんと口にしていたのでしょう?」
「………うん…」
「ソフィアは口にしていないのでしょう?」
改めて認識させられて、落ち込んでしまう。
「………ん……」
「で? それに気付いてソフィアはここ数日行動したわけ?」
「え……」
「ランドルフ国に戻ってきてから」
「で、でもラファエルは仕事で……」
仕事の邪魔しちゃダメだし……
私に会いに来て欲しいって言うのは……我が儘だし…
「………」
「………そ。じゃあそのままでいれば?」
ローズは私を突き放すかのように言い、昼食に口を付け始めた。
「ぇ……」
「………」
私と視線が合わない。
………ローズにも……呆れられた……?
じわりと瞳が潤んで視界が揺れる。
「………はぁ。あのさ……ソフィアは一体どうしたいの?」
「どう……」
「ラファエル様とこのまま離れるのか、一緒にいたいのか、どっち?」
「い、一緒にいたいに決まってるよ! 知ってるでしょ!? 私はラファエルが好きなんだから!!」
ピッとローズに食事用ナイフを向けられ、私は固まる。
「それ、なんでラファエル様に伝えようとしないの? 確かにラファエル様は仕事中。けれど誰かに伝言を持たせるか、休憩時間頃に執務室に足を向けることも出来たはず。なのにそれをせず、ここでジッとラファエル様を待つだけのソフィアは、何もかもラファエル様に甘えているとは思えないの? 自分が行動していると思える? ラファエル様の事に関して全てソフィアは受け身で、与えられるだけの愛に浸っているだけ。それって、恋愛なの?」
「………ぁ…」
先程思わず立ち上がって叫んだ。
けれどローズの言葉に私は身体に力が入らなくなって、また椅子に座り込んでしまう。
「遠慮するのは分かるけどさ。自分の行いでラファエル様傷つけておいて、謝るのもラファエル様がソフィアに会いに来てくれてからって……どうなの?」
「………」
「ソフィアもデート出来ずに傷ついてたかもしれないけど、それに関してはラファエル様も、そしてレオポルド様も謝ってくれたんじゃないの?」
「………うん、謝って……くれた……」
遊んでいたわけじゃないのに。
仕事してただけなのに。
でも私が傷ついてたから、誤解だと弁解はせずに謝ってくれて……
一緒にいてくれた…
………私はラファエルに何も伝えず、ラファエルが求めることも分からず…
言わないことが……たぶん色々ラファエルを傷つけた……
自分の我が儘を許してくれていたラファエルを……自分の行動を棚に上げて傷つけた……
「………ラファエル様は確かに引くぐらいソフィアに執着して、束縛してるよ。でも、それってラファエル様だけの問題なの……?」
………確かにラファエルの愛が重いと感じていたときもある…
すぐに繋げようかって言ったり、閉じ込めたいって言ったり。
でも、それが私の言葉を引き出す故の行動なら…
私の、せいだ…
街でお兄様と一緒にいたときに会ったラファエルはどんな顔してた…?
一緒に眠った時は…?
ラファエルが寝ている間にソフィーとヒューバートと話してた後は…?
甘味作ってた時は…?
………怒りと悲しみ、憤り…戸惑い…そして……
馬車で戻ってくる時は……
「………諦め……?」
「ソフィア?」
ボロボロと頬を流れ落ちる涙は、勝手に溢れてくる。
ラファエルは私から言葉を聞くことを……諦めた……?
これ以上話そうが、束縛しようが、私がラファエルに好きだと、一緒にいたいと、言わないと思ったから……突き放された……?
だから街へ行くのを許可した……?
………もう、私が誰と共にいても……関係ない……?
ただ……形だけの婚約者に……なったということ…?
料理の中に涙が落ちていこうが、私はそれを拭う気力もなかった。
………私は………ラファエルの笑顔を……もう見ることはない…?
見ることが……出来ない…?
抱きしめてくれることも……キスしてくれることも………義務…だ、け……
「……ふぇ………」
私は顔を手で覆った。
「ぁぁ、もぅ……」
ローズが私の方へ来て背を擦ってくれる。
「大丈夫よ。ラファエル様はソフィアを愛しているのだから、形だけの婚約者になったりしないわ」
「だ、だって……っ………私、ラファエル、いっぱい、傷つっ……あ、やまって、も、ないっ」
ラファエルに何も言わずに、何を分かってもらっている気になっていたのだろう。
「そうね。でもラファエル様もソフィアを傷つけたのだから、ソフィアを責めるよりご自分を責めてらっしゃると思うわ」
「だ、だめ、だよっ……傷つけた、のは……私のっ……せいっ……ん……だもんっ…」
「うん。ならちゃんとラファエル様の元へ行って、謝りましょう」
「う、ん。ラ、イト……行って、くれる…っ? ちゃん、と……私、から……行く……から………時間、空いてる時っ……聞いて……」
『………畏まりました』
天井から声が聞こえてライトの気配がなくなる。
「いい子」
ローズに頭を撫でられ、落ち着いてくる。
私の甘えがラファエルを傷つけたのは事実。
ちゃんと私も怒られなきゃ…
言葉が足りなかったのは、ラファエルだけじゃなかった。
漸く気づいた私は、ライトが戻ってくるまでにちゃんとしようと、涙を拭いて昼食を口にした。




