第220話 思いとは裏腹に①
ランドルフ国王宮に着いた。
まずラファエルが馬車から降りて、次はラファエルが手を貸してくれて私が降りる。
次にお兄様が降りてきている最中に、王宮からルイスが走ってきていた。
「ラファエル様」
ルイスがラファエルの耳に何かを囁いてる。
徐々にラファエルの目が厳しくなっていくのを見て、私も内容を聞いた方が良いのかラファエルを伺っていると、ラファエルはルイスからの言葉を聞き終わり私に微笑んだ。
「ごめんソフィア。部屋まで送りたいけど用が出来たから」
「あ、うん…大丈夫。仕事、無理しないでね」
「ごめんね。ソフィー、頼んだよ」
「はい。お任せ下さい」
ラファエルがルイスと共に歩き出そうとし、思い出したようにまた私を見た。
「ソフィア」
「………? 何?」
「街に出るなら出ていいけど、必ず影とヒューバート達は連れて行ってね」
「………ぇ……」
………な、んで……?
今、帰ってきたばっかりなのに…
それに私は――
「レオポルド殿も見たいだろうし。案内ならヒューバートが詳しいよ」
「………」
「城下街の甘味店はもう営業出来るみたいだから、俺の名前出せば店入れるでしょ」
「………」
訳が分からなくなって、私はラファエルの事を正面から見られなくなっていく。
………私、何かした……?
だって、今まで……
「ローズ嬢も誘って行ってくればいいよ」
「ラファエル様、急いでください」
「あ、ごめん。じゃぁねソフィア」
「……ぁ……」
背を向けて足早に去って行くラファエルの背中に思わず手を伸ばそうとしたけれど、グッと握って耐える。
ラファエルは私のだけのものじゃない。
………分かってるのに……
行かないで、と言いそうになった。
ラファエルは私のために、混乱している国を離れてサンチェス国に来てくれた。
だからその分仕事が溜まってて当然だ。
「ルイス、サンチェス国で色々レオポルド殿に教えてもらったことがある。ランドルフ国に取り入れられる物があったら言ってくれ。詳細はここに書いてある。俺が直接吟味して選りすぐったが、ルイスの目から見てどうか教えて欲しい。食べ物も結構街で食べて来たんだ。味の感想。店に取り入れられたらいいと思って。王宮でも出してみたいんだが」
「貴方は全く……どうせ行くなら息抜きすればいいでしょうに」
「ははっ。俺は何処に行ってもランドルフ国王太子だよ」
ルイスと会話するラファエルの言葉が私の耳に入ってきて、私は固まってしまった。
「………ったく、そういう言葉はソフィアに届かないような所まで行ってから言えよ…ホントいいアイデア手に入るとそればっかりだな…内緒にしておく予定だったろう…」
お兄様の呟きが聞こえ、ハッとお兄様を見上げると罰の悪そうな顔で私から視線を反らした。
………お兄様と2人で街に出てたのは……そういう事……?
………ラファエルは王太子だ。
………バカだ私…
私は馬車の中で、ランドルフ国に帰ってラファエルとデート出来たらあれしたいこれしたいって…
その前はお兄様と出かけて私は置いてきぼりって駄々こねて…
何も言わずに街に出て…
一時の感情でラファエルに怒って…
ラファエルがサンチェス国に行く頻度は私より少ないし、お兄様に聞きたいことを聞くために一緒に行動して、自分の目で見て少しでも自国に取り入れようとするって……当然じゃない。
自分が出掛けられなかったからって、仕事の一環として行動してたラファエルに八つ当たりして…
ライトが怒ってくれて嬉しくなるなんて…
………ぁぁ……私……なんて我が儘を……
息抜きしたいならラファエルと一緒に行けば良かっただけの話なのに…
お兄様の顔を見て、多分仕事が終わったらラファエルは私を誘って、遊びに行ってくれるつもりだったのだろうと察する。
でも私が勝手をして、ライトに怒られて……
私が……自分でデートの時間……潰した………?
1日目も……そして3日目も……
なんで私、最終日に甘味作ろうなんて思ってラファエルの時間……潰しちゃったんだろう…
なんでラファエルにデートしてって言わなかったんだろう…
ランドルフ国に翌日帰ることになるって分かってたのに……
甘味作りの時、ラファエルが私に言わずに考えてた言葉は……何だったの…?
呟いていた言葉は……?
なんで……ラファエルの言葉…聞いてあげられなかったんだろう……
「ソフィア、身体冷やすよ」
お兄様に促され、私は王宮へと歩く。
考え込んでいても当然足は動く。
「………ねぇお兄様…」
「俺とラファエル殿はソフィアに理由も告げず2人で出掛けた。それだけだよ」
「でもっ!」
「ラファエル殿が言ってただろ」
「え……」
「ソフィアに嫉妬して欲しかったからラファエル殿は何も言わなかったんだよ。その結果、ソフィアが怒ってラファエル殿を置いて出掛けた。だからラファエル殿の責任であって、お前に責任はねぇの」
「………でも……ちょっと考えれば分かったことなのに……ラファエルが好奇心旺盛なのは分かってたことだし……ラファエルがお兄様と出かけたって事は何か仕事だろうって……ただ男同士で遊びたかっただけって……凄く失礼なことを考えて……ラファエルは息抜きしたいだなんてちっとも思ってなかった……私の……思い込みだった……っ…」
私が俯くと、グリグリとお兄様が私の頭を強めに撫でた。
「それでもラファエル殿はソフィアに我が儘言って欲しくてやったことだ。だからソフィアは責任感じず、ただラファエル殿に我が儘言ってやったらいいんだよ」
「………」
「………ラファエル殿は不安なんだよ。だからソフィアを束縛したがる」
「不安って…」
私、ラファエルが不安になるようなことしてないはず。
むしろ私の方が不安だよ。
「ソフィア、我が儘言わないだろ」
「………は?」
「だからラファエル殿は不安になる。自分がソフィアに何も望まれていないと。ソフィアはラファエル殿の言葉を受け入れるだろ? あれして欲しいこれして欲しいって」
「だって…全部は無理かもだけど、出来ることはやりたいし」
ラファエルが喜ぶと、私も嬉しい。
………好きだから…
「ラファエル殿がやってる行動とか、言動とか、そっくりそのまま返してやったらちょっとは治まるんじゃない?」
「………そっ……!?」
そっくりそのまま!?
今までのラファエルの言動や行動を思い出してみる。
………無理です。
ぶんぶんと首を横に振る。
多分顔は真っ赤になっていると思う…
お兄様は苦笑して、人差し指を立てる。
「一緒にいたい。その一言だけでもだいぶ違うはずだよ。ソフィアがそう望んでいると知れば少しは安心するんじゃないかな」
………ぇ……
私は思わず足を止めてしまった。
………私が……ラファエルを不安にさせてた……?
今思い返してみると……私……ラファエルに促されないと、言葉にしてなかった……?
サッと自分の顔色が真っ青になっていくのを感じた。
私はラファエルの言葉や態度で、彼の気持ちは痛いほど分かってる。
………でも……ラファエルは……
「ちょ、ちょっとは言ってるもん…!」
悪あがきで、そう言ってしまった。
言ったことがない、とは分類されないはずっ!
「………そう? でも俺は聞いた事ないし、ソフィアって後から言うじゃん?」
「………後から……?」
「さっきも。“デートしてない”って。デートしたがっているって態度、サンチェス国で見せてないでしょ。“お兄様とは出かけた”って言ったのも後から。俺に嫉妬してたって後からラファエル殿に言っても、もうここはランドルフ国だ。サンチェス国でラファエル殿が自由に出来る時間は既に終わってるよ。ランドルフ国に戻ったラファエル殿は王太子でなければならない。後から言ってラファエル殿にどうにかして欲しいと願ったところで出掛けられる時間はない。俺とは違う。俺には上に王がいる。でもラファエル殿はこの国の王代理。王宮から易々出られるはずもない」
「………っ……」
「………まぁ、俺も反省してるよ。ごめんね。ラファエル殿との2人きりの時間を宿で寝る時間だけしかあげられなくて。もっと配慮すべきだった」
………これは、違う。
お兄様に謝らせるのは違うっ。
お兄様も、そしてラファエルも、待ってたんだ。
“私”の口から告げるのを。
………ライトが怒ってくれたから満足って……
自分の中だけで納得して……ラファエルに……何も言ってないっ。
2人で過ごす時間がなくても全部ラファエルの……お兄様と2人のせいにして……
私は部外者じゃない。
当事者なのに、周りが告げてくれるのを許容して……ラファエルに私は何も告げず……
何も言わないから放っておけばラファエルとの時間は取られないと考えたから、ラファエルはお兄様との行動を止め、2日目から私の近くからもう離れなくなった。
お兄様は分かっていて……反対しておいて、私とラファエルが同衾するのを最終的には許した。
私が……ラファエルと一緒にいたいと……一言も口にしてなかったから……
………全部、自分の招いた結果だ……
ここから数話シリアスになりますm(__)m




