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第212話 彼の心 ―O side―




ソフィア様に頼まれたことを実行するため、本日泊まる予定の街に着きソフィア様達が外出した後、私は宿に待機となったヒューバートと共にソフィア様の部屋で座っていた。

………どうでもいいけれど、何故私がこんな事を…

ソフィア様の頼み事だから聞くけれど…


「………ヒューバート」

「何?」


旅の荷物を整理しているヒューバートに話しかける。

すぐに顔を上げてこちらを向くヒューバートはキョトンとしていた。

ああ、嫌だ…


「………お前、ソフィー殿とどうなりたいわけ?」

「ぐふっ!!」


私の直接的な言葉にヒューバートがむせる。

いくら私が相手の心を表情で読むことが長けているとはいえ、こんな事に使いたくはない。

私の力は主――ソフィア様を守るためであって、他人の色恋の行方を知るためではない。


「なっ、なにをっ!!」


かぁっと一気に顔が真っ赤になった。

………本当に惚れてるんだな。


「お前、あんなにソフィー殿をチラチラ見ておいて、バレてないと思うなよ?」

「そ、そんなに見て……はなくはないが」

「………どっちだ」

「そ、それに俺なんかをソフィー殿が好きになってくれるはずないだろう!? み、見てるので精一杯だ!!」


………威張ることではない。

こいつ、ソフィー殿の気持ちに……気付くわけもないか。


「見てるだけで良いのか。他の男に取られていいのか。その程度の気持ちなら止めてしまえ」

「ほ、他の男に取られて良いわけないだろ!?」

「なら何故話しかけない。近づこうとしない」

「そ、それは……」

「それは?」

「………し…心臓が爆発しそうで……」


胸を押さえるヒューバートに、私は半目になった。


「………しねぇよ…」

「い、息が止まる!!」

「緊張しているだけだろう。そんな事で人は死なない」

「いや、息止まったら死ぬだろ!!」

「それはそうだが、相手に話しかけようとして緊張して息を自分が止めてるだけだ。本当に苦しくなったら息をするようになる」

「そ、ソフィー殿に無視されたら俺は死ぬ!!」

「だから死なねぇよ」


こいつ、面倒くせぇ…!!

思わず私の口調が悪くなっていくけれど、ヒューバート相手に気にしていても仕方がない。

ソフィア様、厄介なことを押しつけてきて…

もう、放っておけば良いんじゃないか…?


「………もしソフィー殿と付き合えるようになったらどうするんだ」

「な、ないない!!」

「だから“もし”だって聞いてるだろ!!」


仮定の話も出来ないのかこの男は!!

何故こんなにこの件に関してはヘタレなんだ!!

ソフィア様に対してはちゃんと出来るのに!!


「も、もし…」

「そう。もしだよ」

「………し…………死んでしまう……」

「だから何でだよ…」


ああ……早く帰ってきてくれソフィア様…


「考えても見ろ! あの綺麗で優しいソフィー殿が俺を見て笑顔で近づいてきてくれるって事だろ!? 他の騎士と同じ対応ではなく、俺だけに話しかけてくれるって事だろ!? う……し、心臓が痛い…」

「………」


………もう、話を止めていいだろうか……


「そ、それに…こ、恋人……になったら……く……口づ……ぐっ…」


………あ、想像で鼻血が出そうになったらしく、鼻を押さえているヒューバート。

………ダメだこれは……

さっさと聞いてしまおう…


「………お前は公爵家だろ」


私の言葉にピタッとヒューバートが止まる。

真っ赤にしていた顔も、狼狽えていた身体も、すぅっと収まりいつもの――いや、公爵家の人間の雰囲気になった。


「ソフィー殿は精霊だろう。精霊と人間の恋など聞いたことがない上、夫婦となれても子は望めないかもしれない。もし授かったとしても、人との中には入れられない」

「………」

「それでもソフィー殿をお前は選ぶのか? 公爵家を継ぐことはなくとも、何があるかは分からない。お前が公爵家を継がなければならないかもしれない。子が妹夫婦に生まれないかもしれない。育ちきる前に命を落とすかもしれない。そんな時、お前はソフィー殿を捨てるのか?」


私の言葉にヒューバートが真っ直ぐに感情のない顔を向けてきた。

自然に私の目が相手を見極めようとしているのが分かった。

相手を観察するときは自分が他人のようになり、思考が第三者となってしまう。

これは私の癖のようなもので、慣れたもの。


「………俺はもう公爵家とは関係ない」

「………ほぉ?」

「俺は騎士となると決めてから公爵家のことは妹に託した。確かに父の命令で騎士になることになった。だが、騎士がそう簡単に元の生活に戻ることが出来ないことぐらい分かっていた。暫くは葛藤していたが、それを受け入れた時点で俺はガルシア公爵家の問題には一切関わらないと決めた。父に言われたことは報告はしたが、あくまで騎士視点でのことだし、大事な王家の内情などは一切話していない」

「………公爵の命令とは?」

「ソフィア様の事を報告すること。ランドルフ国にとって、良いか悪いか。ソフィア様は素晴らしい人だった。だからそう報告した。それからは一切公爵家と接触していない。ラファエル様かソフィア様の影に聞いてもらっていい」


嘘は言っていない。


「………お前は公爵から教育を受けていただろう。公爵家が一番ではないのか」

「大事ではある。今まで育ってきた家だから。騎士は王家のモノでも、それだけじゃない。騎士になってラファエル様とソフィア様と接して、俺は今の立場が一番大事だと思っている」


グッと胸の前で拳を握るヒューバートの顔には決意が見える。


「跡継ぎのことはもうマーガレットとスティーヴンが考えることだし、公爵家に必要だった女とは婚約解消している。俺はもう公爵家とはなんの関係のない者として扱われているし、俺もそれでいいと思っている。マーガレットとスティーヴンが王宮に来ても俺は接触していない。俺は騎士で、この国の為に必要なラファエル様とソフィア様を守るためだけに存在している。お2人を守ることはこの国を守ることとなり、最終的には公爵家や妹たちを守ることにも繋がっている。今の地位で満足だ」

「ならますます自分の恋を成就させることに躊躇ないだろう。なんでそんなに後込みする」

「ぐっ……」


かぁっとまたヒューバートの顔が赤くなっていく。

………ぁ~……もう無理ですソフィア様……

ソフィー殿の事に関してだけは、公爵家長男の顔で取り繕うことも、騎士の顔で取り繕うことも出来ないようですよ…


「………そんなに誘うことが出来ないなら、さっさと告白でも何でもすれば?」

「は!?」

「仲良くなろうとしてお前が固まっているのが目に浮かぶ。だったら最初から直球でいけ。このままだとソフィー殿とは一生話が出来ず、ソフィー殿が他の男を愛し、伴侶となり、お前はそれを遠くから眺めるしかない惨めな人生が待っている」

「みじ……」


あ、固まった。

………もう本当に面倒くさいですソフィア様…

いっそもうここでソフィー殿が現れて、この会話を聞いて欲しいとさえ思う。

傍目から見て両片想いなのは分かりきっている。

ソフィー殿は精霊だし、人間の彼を自分の恋人にしようとは思っていないだろうし。


「お、俺はっ!!」


ヒューバートが口を開いたと同時に、部屋の扉が静かに開いたのを見た。

ヒューバートは背を向けているから気付いていないだろうが…


「ソフィー殿が誰かのモノになるなど許せない!」

「………告白も出来ない男が?」


俺は扉の向こうに立つ人物を視界に入れながら聞く。


「そ、ソフィー殿を好きな気持ちは誰にも負けない!!」

「だからその気持ちをソフィー殿に言えない時点で、誰に奪われても文句言えないだろうって言ってるんだけど?」

「っ……! で、でも……ソフィー殿は俺の天使で……」


………天使と来たか……


「お、俺なんかが相手にされないと……」

「何で」

「だ、だって……俺、地位を捨てて騎士になったし…貴族の贅沢させてあげられないし…」

「………ソフィー殿は精霊だから人間とは違うだろう。金銭感覚も同じではないだろう」

「ソフィー殿はあんなに綺麗な令嬢だぞ!? 綺麗なドレスと綺麗な装飾品を贈ってあげたいじゃないか!! きっと凄く似合う! 社交界に出れば1番っ……い、いやソフィア様が1番じゃないとダメか…社交界では2番目にはなるだろうけれど、俺の中では1番綺麗な素敵な令嬢になる! そういうドレスを買ってあげられる、貴族では当たり前な生活を保障できない俺なんかを選んでくれるはずもないんだ!!」


………言っていることが支離滅裂になっていっているんだが…

まぁいいか。

ヒューバートにちょいちょいと後ろを見るように示してみる。


「?」


勢いが良かったヒューバートが、後ろを振り返った瞬間に固まった。

扉を開けたのはソフィア様で。

その後ろにラファエル様とレオポルド様。

お3方は唇を押さえて、噴き出しそうなのを我慢している。

そして……


「そ、ふぃ……ど、の……」


顔を真っ赤にして固まっているソフィー殿がそこにいた。


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