第211話 従者の進展状況は停滞中
1日を地方の街で過ごし、2日目の朝。
宿を出て人気のないところでまた火精霊に乗って次の滞在予定の街へ向かう。
今度は1日目とは違い、ラファエルは私の後ろで留まったまま。
昨日で取りあえずは満足したのかもしれない。
育てている食物の違いはあれど、どこもランドルフ国の機械を使っているから用途は分かっているだろうしね。
頭もいいし食物の育て方を昨日散々聞いたから、ある程度は想像で理解しているだろうし。
「ソフィア」
「ん?」
ラファエルに話しかけられ、後ろに顔を向ける。
「そういえばあの2人はどうなってるの?」
こそっと呟かれ、私は視線だけをラファエルが見ている方向へと向ける。
ラファエルの視線の先にはヒューバートがいて、今回は最初から姿を現しているソフィーをこっそりと見ていた。
ソフィーは頑なにヒューバートを見ないようにしており、苦笑するしかない。
「ソフィーは真面目で自由時間でさえ接触しようとしてないし、ヒューバートはそんなソフィーに話しかける度胸もなく……つまり進展はない」
「………なんだかなぁ…」
ラファエルが呆れるのも無理はない。
それだけ前進してない。
「………あいつはソフィーに惚れないと思ってたんだけど…」
「………?」
ポツリと呟かれた言葉に私は首を傾げる。
どういう意味だろうか?
「ラファエル、ヒューバートがソフィーに恋をしないと思ってたの?」
「ん? ああ…惚れる惚れないではなく、ヒューバートはそういう事に興味がない…というか、公爵家故に家の決めた相手と共にいるのが義務だと思っていたからな」
「それは貴族である限りヒューバートだけに限らないでしょう?」
「ヒューバートは責任感が強すぎる…というか、多分騎士になってもそれは変わらないと思っていたんだ。妹の伴侶が家督を継ぐ事になったとは言っても、2人の間に子が出来なければ自分の子を養子として入れるだろうし、子が出来ても性格が公爵家に合わなければやはり自分の子をと思うだろうし」
「それは…あり得なくはないけど…」
「騎士となって婚約は解消されたと聞いたけれど、それでも公爵家の血を持っているヒューバートは公爵家跡継ぎの問題からは逃げられない。伴侶はちゃんと子を望める相手を選ぶと思っていた」
………ぁぁ…
成る程ね…
確かにその点に関して、ソフィーは不適切。
精霊故に、子は望めないだろう。
もし宿せたとしても、人間貴族の家には入れられない。
ヒューバートの望み――家督問題を解決させられる子を、ソフィーが与えられるはずはない。
「………だから、“ソフィーにヒューバートは難しい”って言ったんだよ」
「………ソフィーに直接?」
「………ああ」
………そっか。
それもあってソフィーはヒューバートに自分から近づけないのかもしれない。
でも、ヒューバートを想うのは止められないし、話したいとは思っているだろう。
「………ヒューバートは血を大切にする派?」
「だろうね」
「………なら養子にするのにもガルシア公爵の血を持っている子をと望むでしょうね」
………尤も、必ずしもこれからガルシア公爵が存続するかどうかはガルシア公爵次第なんだけど。
もし反逆などが起これば、ラファエルはガルシア公爵を潰して別の者を公爵の地位に付けるだろうし。
「ヒューバートが完全に公爵家を切り離せなければ、ソフィーとの結婚などはないだろうと思う」
「………そう」
ヒューバートの態度を見れば、ソフィーに完全に心を持っていかれているのは事実。
けれどこの先を望まないのであれば…
「………残酷ね」
「ソフィア?」
「ヒューバートがそのまま公爵家を選ぶなら、今後ソフィーに近づけさせない」
「え…」
ラファエルが目を見開く。
それを私は真っ直ぐ見据える。
「当然でしょう? 私はソフィーの方が大事だもの。ソフィーを1番に思えない男になんかやらない」
本格的にくっつける前に知れて良かった。
危うくソフィーを盛大に傷つけるところだった。
愛する人と両想いになってから、結婚できない、共にいられないと分かってソフィーが泣くことにでもなっていたら…
「………私ヒューバート殺しちゃうかも…」
「何物騒なこと言ってるの!?」
おっと。
口に出してしまってた。
ポフッと自分の口を手で塞ぐ。
「なんにせよ、ヒューバートの心が知りたいわね。ソフィーとどうなりたいのか。公爵家をどう思っているのか」
「………」
「………ラファエル、ユーグかブルーを使うようなことはしないでね」
「あれ…分かった?」
「人の心は精霊で読むんじゃなくて対話して聞いてよ…」
ランドルフ国の出身故にすぐに精霊を使おうとするラファエル。
………本人達がいいならいいけど…
ラファエルは国主になるのだから、ラファエルに対しては私は口出しできないけど。
これは流石に使っちゃダメでしょ…
「………オーフェスに聞いてもらおうかな」
「オーフェスに?」
「心理を知るにはオーフェスが適任だよ」
私は笑ってヒューバートと共に火精霊に乗っているオーフェスを見て、微笑んだ。




