第210話 ちょっとした優越感
取りあえず就寝まではラファエルの膝の上で過ごす、ということで2人の視線から回避――にはなってないけれども、そこに落ち着いた。
ご機嫌なラファエルに後ろから抱きしめられたまま、ベッドにいる。
お兄様は私達の正面になるように椅子を持ってきて座った。
「この街の問題ってなんだったの?」
「大したことじゃないよ。所々少しだけ…注意して見ないと分からないくらいだと思うけど、発育が悪いところがあったの。川の流れをせき止めていた障害物を取り除くことで解決できたから、今後は大丈夫だと思う」
「注意して見ないとって…いつ注意深く観察したの」
「え? 火精霊から降りた直後だけど」
「「………」」
ふ、2人して奇妙な子を見る目にならないで欲しい…
「………見てたの気付いたか?」
「………いいや」
まぁ、2人は楽しくおしゃべりに夢中でしたからね。
私が何をしていたかは見てないでしょう。
「もう解決してるからその辺気にしなくていいでしょう?」
「でも、浮かれて気付かなかった俺の責任は無視したらダメだ」
「どうせお兄様が気付かなくてもお父様の精霊が気付く案件よ。責任感じなくて良いんじゃない?」
私が言うと、ズンッとお兄様が落ち込んだ。
いつも完璧に仕事をするお兄様が落ち込む姿は初めて見る。
私は少し優越感に浸る。
お兄様に勝った、と。
王太子としての教育を受けているお兄様にはどうやったって私は勝てない。
知識から実績から何もかも土台が違うから。
こういう状況は滅多にないから堪能しよう!
「何ニヤニヤしてる」
「むぎゅっ!?」
お兄様に頬を両手で潰される。
「にゃにすりゅんでふか(何するんですか)!」
「兄の失敗がそんなに嬉しいか」
ぺしっとお兄様の手を撥ね除ける。
「失敗じゃないでしょ。気付かなかったのだからそもそも成功も失敗もないでしょう?」
「人の傷口をえぐるな馬鹿者」
ピンッとデコピンされた。
「傷口……ねぇ、お兄様そんなに今から1人で抱え込んでいると、王になられる前に潰れてしまうわ。王になればお兄様の精霊も出来るのだから、人を頼ることで負担を軽くしなければいけないわ」
「「それをお前が(ソフィアは)言うな」」
「あ、酷い!! 2人して言わなくても!!」
自分でも言ってて思ったから余計に言うんじゃなかったと思ってしまう。
「と、とにかく報告終わり! 2人は何を買ってきたの?」
2人が買った物は部屋の隅に置かれている。
自分の部屋に置いてこなかったらしい。
何故私の部屋に…
「ああ、ここの特産品だよ。ソフィアと3人で食べようと思ってね。夕飯時だし、全員集めて食事にしようか」
「え……この部屋で食べるの?」
「うん」
………この1人部屋に何人詰め込むことになると思っているの…
私の護衛4人と侍女1人でも手狭だったのに…
「食堂行こうよ。持ち込み大丈夫か聞いて…」
「そうなると遠慮なく会話が出来ないじゃないか」
「………ではせめてラファエルとお兄様の部屋に移動しましょうよ。ここの倍はあるでしょ広さ」
「それもそうだな」
お兄様が荷物を持ち、私は何故かラファエルに抱きかかえられた。
「………歩きますけど!?」
「就寝までは抱いてていいって言ったじゃないか」
………しまった。
これではトイレも無理かもしれないっ!!
そう思いながら私は部屋を自動的に移動となった。
ラファエルとお兄様の部屋はやはり私の部屋の倍あった。
………ただ、何故部屋の壁の真ん中にベッドが2つ並べてあるのかが疑問視されるけれど。
普通端と端で間に机とかさ。
ラファエルとお兄様が同衾のような感じか……
いや、そういう事に偏見ないから良いけどさ。
2人も2人で気にせず普通に過ごしているから余計に気になったというか…
………2人がいいなら何も言うまい…
「ソフィー」
「はい」
私が呼ぶとすぐに出てくるソフィー。
「食事の用意手伝ってくれる?」
「………むしろ何故王太子と王女が準備しようとしているのかが疑問ですが」
「え?」
私はベッドに座ったラファエルの膝の上。
お兄様が袋から机に食べ物を出し、ラファエルと私はその状態のまま机に出された食べ物を並べていっている。
「3人とも手を出さないでくださいませ」
ソフィーがテキパキと動き、机に綺麗に食べ物を並べていく。
「ソフィアの護衛の皆も呼んで。今は民に扮しているんだから無礼講だよ。皆で一緒に食べよう」
私が天井に視線を向けると、気配が消え廊下から護衛達が来る気配を感じた。
普通なら遠慮するだろう事でも、私の護衛達は許可が出ればすぐに臣下の常識が崩れる。
それが楽だし変えなくていいんだけどね。
私の部屋の倍はあるとは言っても、私の護衛に影、ラファエルの影にお兄様の影も加えると狭い。
皆は立食形式で私達3人だけ座って、わいわいと楽しく食事となった。
アルバート達はさっきも食事してたんだけどね…
豪快に食べている。
何処に入るのだろうか…
私は苦笑しながら、パリッとポテチもどきを囓った。




