第208話 二分しました
3人に護衛されて少し早足で宿に戻っていた。
人通りの多いところをあえて選んで。
人混みに紛れていれば大丈夫――のはずだった。
「はい、ちょっと待とうか」
「ひゃぁ!?」
いきなりグイッと腕を取られ、私の身体はガクンッと体勢を崩してしまう。
「「こんな所で何をしているのかな? ソフィア」」
い、意気投合しているのはいいのだけれど、言葉までハモらなくていいと思うよ…?
「ら、ラファエル……お兄様…」
人混みで隠れられると思ったのは間違いだったようだ。
見事に発見されました。
2人の手には大きな袋があり、街を堪能したのはよく分かるけど。
「宿に待機って伝えて貰ったはずだけど? ライト、どういうこと」
「我々では姫を止められません」
あ、ライトに裏切られたぞ!?
「ソフィア、どういうつもり?」
そして一方的に問い詰められてムカついてきたぞ…
「ラファエルとお兄様は出掛けられて私がダメって可笑しくない?」
「ソフィアは王女でしょ」
「だから? 2人は王太子でしょ。立場的には私より偉いわよね? 私より上の立場の人間が出掛けられて私はダメって可笑しくない?」
「女の子がホイホイ出掛けるものじゃないでしょ」
「女だから何!?」
男女差別反対です!!
それに民は女も普通に出掛けてるでしょ!?
「あ、おーいソフ――むぐっ」
「姫様、ただいま戻りました」
私が爆発しそうになった時、割って入る声があった。
呑気なアルバートが私の名を大声で呼びそうになり、オーフェスがアルバートの口を塞ぎ、私を名前ではなく姫と言い換えた言葉をかけてくる。
「ああ、ご苦労様。どうだった?」
「姫様の言った通りでした。アルバートが対処しましたのでご安心を。ここの街の管理者にも報告はしました」
「ありがとう。仕事が早いわね」
オーフェスに微笑むと、オーフェスは頭を下げた。
オーフェスに口を塞がれているアルバートも、必然的に一緒に頭を下げることになったけれど。
「ソフィア? なんの話?」
てっきりお兄様は気付いていて、ラファエルと調査しているのかと思ったら、その手の荷物で街を堪能していただけど分かる。
危険だからじゃなく、男同士で遊びたいから私は仲間はずれにされたと、よぉく分かりました!
そしてその言葉に、ライトの目が鋭くなったのを見た。
………どうしたんだろう…
「オーフェス、アルバート。街の食事処で食事しましょう? 報酬としては安いかもだけど」
「いえ、私達は姫様の護衛。姫様の近辺警護は勿論、心配事や揉め事を解決するのも仕事ですから」
「だが、食事は嬉しいぜ!」
やっとオーフェスの手から解放されたアルバートが嬉しそうに笑う。
「じゃ、行きましょう。ジェラルドとライトとカゲロウもおいで。さっきの食事もまだだし」
「わ~い! 姫様大好きー!」
ジェラルドが抱きついてくる。
「あ、こら!!」
すかさずラファエルとお兄様が引き剥がそうとするけれど、それは何故かライトとカゲロウが阻止した。
………ぇ…
カゲロウはともかく、ライトがラファエルとお兄様を遮るなんて…
ほんと、どうしたのだろうか?
ジェラルドを引き剥がしながら首を傾げる。
「どけ。ライト、カゲロウ」
「どきません」
2人の睨みにも臆せず立っている。
「………理由は」
「お2人は充分に街を楽しんだでしょう。我らの姫も街を歩く権利くらいあると思いますが。そもそも、姫の力で移動してここまで来ておきながら、姫の息抜きも出来ないように閉じ込めることしか出来ない心の狭い男なのですか?」
「「うっ……」」
お、おおう……
ら、ライトが珍しく私の味方を…
………って、私の影だから当然だよね!?
いつも私に対して小言を言ってくるから、ビックリしたよ…
「じゃ、じゃあ俺たちも行くよ」
「ダメです」
「お前に止められる権利ないと思うけど?」
「権利はないですが、お2人は浮かれすぎていますから、宿に戻って1度頭を冷やされるが宜しいかと」
「ほぉ。俺に命令するか?」
「レオポルド様に命令などとんでもございません。ただ――」
あ…なんかやばい…?
ライトが半目になった。
「姫はこの街の問題を見つけ、対処するために自分の護衛を放っておりましたが、お2人は国を背負う立場になられる御方ですのに問題に気付くことなく遊んでおりました故、今の姫とご一緒して欲しくないというのが本音ですね」
は、ハッキリ言っちゃった!!
ライトは仕事に関しては真面目だからな…
自分は主をバカにするくせに、他人が私を疎かにするのは許せないのだろうか…
「わ、私は気にしてないよ…大丈夫だよライト。2人は国の為に今まで気を張ってたんだし、男同士で出かけてもいいじゃない…」
自分が怒っていたより、他人が怒ってくれたことが嬉しくて、私も怒ってたけどどうでも良かった。
そして心に余裕が出来た。
だから遊んで2人が息抜きできたのならもうそれでいいと思った。
そう思ったからライトの説得に回る。
「いいえ。ここは私の意見を通させていただきます。ただでさえ移動で疲れ、更に頭も使い、先程まで眠ってしまっていたくらいです。気分転換に行かれるのに、気を使わないといけないお2人と一緒に居ては気が休まりませんでしょう」
「え!? わ、私疲れてたの……?」
「ご自分で気付かれていないところが心配なんですよ」
そうなんだ…
気付かなかった…
じゃあ宿から出て行ったときライトが小言を言ってきたのは、取りあえず言っておいた、っていったところだったのかな…
「おー姫さん疲れてるのか。そういう時は飯だ飯!」
「うわぁ!?」
今度はアルバートに肩に担がれ、アルバートの肩に座る形になった。
「高っ!! アルバート、肩重くない?」
「軽いぜ! 肉食え肉! もっと太れ!」
「女に対して一番言っちゃいけない言葉!!」
アルバートが歩き出し、慌ててラファエルとお兄様の方を見る。
「お、お2人も一緒に!」
「いや、止めておくよ」
「ソフィアの護衛に殺されるのは勘弁して欲しいからな」
2人は足を止めたまま、見送り態勢になっていた。
そのまま人混みに紛れてしまう。
「………ライト…どうしてあんな事……」
「これで少しは姫のことを考えるでしょう。好奇心いっぱいの頭を冷やすことが出来れば、姫を置き去りにすることはないでしょう。友人として遊ぶのは結構。ですが、姫を蔑ろにすることは許してはいけませんよ。婚約者様は誰の婚約者か今一度思い出していただき、出かけるにしても姫の許可を貰ってからにしていただかないと」
「私の許可?」
「当然でしょう。向こうは姫が勝手に行動することをいつも咎めるのですから。逆もあって当然でしょう。姫も婚約者様の行動を咎める権利があるのですよ。何でも許容するのはダメです。夫婦になられるのでしょう? 対等で然るべきです」
ライトの言葉に目を見開き、そして嬉しくなって笑った。
私のためにあえて対立してくれたのだ。
純粋に嬉しかった。
「そうすれば、私の仕事が減っていいです。ウジウジしている姫は気持ち悪いですし」
………そうでした。
ライトはこういう男だった!
ぶんっとアルバートの肩の上からライトの頭を叩こうとしたけれど簡単に逃げられました。




