第207話 ヘタレはヘタレでヘタレじゃない?
少し休んで目を覚ました私は、ゆっくりと起き上がった。
「ぅっ……」
か、身体が痛い…
いつもふわふわふかふかなベッドで寝てたから…
「おはようございます姫様。お身体は大丈夫ですか?」
あれ…
ちょっと寝過ぎたのかしら…
オーフェスとアルバートがいるはずがソフィーが目の前にいて、壁にはヒューバートとジェラルドが立っている。
「大丈夫。どれぐらい休んでたのかな…」
「大体4時間ほどでしょうか」
「そう。代わってからそんなに時間は経ってないようね」
「はい。わたくしはオーフェスとアルバートが言い争っていたのですぐに戻ってきましたが」
………ん!?
ということは私が寝落ちした後すぐにソフィーは戻ってきたの!?
つまりヒューバートはソフィーとデートしてない…
ガックリと肩を落とさざるをえなかった。
こんのヘタレ騎士!!
さっさと誘って街に出てなさいよー!!
ギロリとついヒューバートを睨んでしまい、ヒューバートはびくりと身体を震わせ、何故睨まれるのか分からず首を傾げる。
はぁ……
先は長いかも……
「………まだ日は高いわね…ちょっと私も街へ出る」
「姫様は宿で待機ですわ。ラファエル様とレオポルド様のご指示だったはずです」
ソフィーに止められるけれど、私は首を振る。
「この辺を回るだけよ。それに私も街をゆっくり見たいもの」
「そう言って姿を消すおつもりではないでしょうね?」
「………」
ヒューバートに言われ、思わず見返す。
「………ヒューバートの中の私もそれになっちゃってるわけ? ランドルフ国で姿を消したことはないでしょう?」
「ですがここはサンチェス国です」
「ぐっ……」
何度か王宮で彼の前から消えたことが裏目に…
で、でもここは引き下がるわけには――
「ここの特産を食べたいの」
「それはこの宿の食堂でも食べられるはずですが?」
「景色を見ながら食べるのに意義があるの!」
「では、ラファエル様がお戻りになってから改めてということで」
な、なんて頑固さ!
その譲らない強気発言をソフィーにちょっとでも発揮できないの!?
その強気でいけばソフィーもイチコロでしょ!?
「私に命令なんていい度胸じゃない」
「とんでもございません。ただ、主を諫めることも私の仕事ですので」
「………秘書かよ…」
私はボソッと呟いた。
「何か?」
「なんでも。はぁ……じゃあ、食堂で何か貰ってきてよ。ここの窓から街を眺めながら食べる。それならいいでしょう?」
「………分かりました」
「ソフィーもお茶のお代わりを」
「畏まりました。お湯を貰ってきます」
2人が退出し、遠ざかっていく足音が聞こえなくなってから、ジェラルドと視線を合わせる。
サッとジェラルドが窓の鍵を開けて開け放つ。
そして私の身体を抱え、飛び出した。
3階から荷物を抱えてても難なく着地。
そして宿から離れるために走る。
「流石ジェラルド」
「もうソフィア様と関わって結構時間経ってるから。なんとなく。それに、俺も遊びた~い」
ジェラルドに借りを作るのは問題だけど、自分の目でも確かめたかったし。
目的地が分かっているのかジェラルドは足を止めない。
人気がないところまで難なく連れてきてくれる。
「………まったく…」
ジェラルドが止まって私を下ろすと、ライトとカゲロウが姿を現した。
「姫、ここは城下街じゃないんですから」
「勝手知ったる場所じゃないんだよ姫様~。危ないよぉ」
「サンチェス国は滅多に事件が起こる国じゃないよ」
「………またそうやって楽観的な……」
ライトにため息をつかれ、私は苦笑する。
「ごめん。これを見ておきたくてね」
私が視線を向けると、皆が視線を向ける。
懐かしい……と目を細める。
ぎぃ…ぎぃ…と音を出しながらゆっくりと動いている。
田舎の畑によくあった水車。
私の身長の2倍はあるだろう立派なもの。
これを見たくて私は外出したかった。
上から遠目に見え、絶対に来たかったの。
私が生きていた時代の日本ではもう使用していなかったけれど、日本の文化がこの世界にあるということは、何よりも嬉しいこと。
水の流れでゆっくりと水車が回る光景は、きっとずっと見飽きたりしないだろう。
「………あれ…」
「姫?」
「何かあそこに引っかかってるみたい」
水車は等間隔で並んでおり、その1つの動きが悪い。
よく見ると水車と水の間に何かがあるようだ。
「本当ですね。見てきます」
ライトが駆け寄っていき、覗き込む。
「太い木の枝が引っかかっているようです」
「そう。取り除ける?」
「やってみます」
ライトが水の中に手を入れ、何度か引いてみるも、川底に引っかかっているのか取れないよう。
「ジェラルド、手伝ってくれる?」
「は~い!」
ジェラルドがライトの元へ行き、2人で引っ張ると枝が取れ、水車の動きが元通りになった。
良かった…
ライトは枝がまた水に浸からないように遠いところへ避けた。
「………そろそろ戻ろう」
「気が済んだのですか?」
「済んでないけど、時間が経てば経つほど、ヒューバートの小言が長くなる」
「………説教されると分かっていて出てくる姫も姫ですね」
「煩いな」
ライトと口喧嘩しながら宿まで歩いて戻っていった。




