第204話 街は変わらずでした
お忍び服を着た私、ラファエル、お兄様は城下街の入り口に立っていた。
その目に映った光景に、私は半目になる。
「お前、その顔はどうなの」
お兄様に言われ、その目のまま瞳だけを動かす。
すると、お兄様を睨みつける感じになった。
「………何…」
「お兄様、これはどういう事でしょう?」
ザワつく城下街。
活気は相変わらずで、街の風景も私がいなくなる前と殆ど変わらなかった。
「なにが?」
「甘味店とかの店が潰れたからランドルフ国に来させた、という人達の閉めた店っていうのは何処です? まさかあの力がなくてもこんなに早く建物を建て直してここまでの活気にしたっていう事は言わないですよね?」
「え、マジで信じてたのあの話」
「は!?」
驚くお兄様にこっちが驚くわよ!!
「ソフィア、元々サンチェス国って食の国だよ。食材を売る店が殆どだったじゃないか」
「………ぁ」
「少量の服飾や甘味を売る店はあったけど、服飾の店はソフィアの店に吸収してもらって増築。従業員はそのまま雇ってもらった。甘味店があったのはたった平民用3店舗貴族用2店舗だよ? 潰れたって言っても従業員数はそれ程多くないし」
「………じゃあ、あの約70名は一体…」
「ちゃんとリスト見なよソフィア…」
お兄様に呆れた顔を向けられた。
「学園卒業した甘味店就職希望の新成人30名。製造職希望新成人20名。甘味店をやっていた経営者5名に継続希望従業員15名含めて総勢70名。………ってちゃんとリストに記載あったでしょ」
「………」
ラファエルに任せてたから目を通すどころか、リストに触れさえもしなかったよ……
「あ、お前のアイデアのせいで店次々に潰したと責任感じてたわけ?」
「せ、責任感じて悪い!?」
「感じる必要ないだろ? 現状維持より自国の性質に合わせて変えていくことは悪いことじゃない。いいアイデアはどんどん取り入れ、同盟国ならではの人材派遣。他国の技術を学びたいという向上心は誰にも止める権利はないし、同盟国なら俺とラファエル殿の同意さえあれば移住も認められるし、他国籍にもなれる」
お兄様の言葉にラファエルは頷く。
「そうだね。それは同盟を結んでいるからこそ出来ること。他の国に対しては出来ないけれど。だからこそ、レオポルド殿は兵士も職人志望も連れてきたんだし。助かってるよ」
「同盟は助け合いだろ。こっちばっかりランドルフ国の道具や設備を当てにしてちゃダメだし、こっちから提供できるものはしないとな」
………民が物みたいに取引されているようで複雑だけど…
まぁ、本人が納得してランドルフ国に来ているなら、気にする方が失礼だよね。
「………ラファエルは当然知ってたよね…」
「うん。でもソフィアはその辺知ってるから平然としているんだと思ってた」
「それよりもランドルフ国に来た民達の職場環境を整えないとって思ってたから。サンチェス国に来てから思い至って、早く街を見に行って現状を知って何とかしなきゃって…」
もう一度街を眺め、変わらず民が笑顔で歩いているのを見てホッとする。
「じゃ、ソフィアの心配もなくなったことだし、ソフィアの店行ってみる?」
「うん。でも外観だけでいいよ。もう多分私がオーナーって言っても手を離れてるし、店長が責任者でトップでいいと思う。お兄様、手続きしておいてくれる?」
「いいのか?」
「うん。それに利益貰うって言っても、ランドルフ国に持ってこさせるのもね」
「そうか」
コクンと頷く。
それに、もうすぐ国から私の国籍さえなくなる。
他国の王族が管理するより、自国の者が管理した方が何かと手続きなども簡易になる。
問題が起こったときとかも、今回みたいにお兄様が対応してたし。
私が居なくても大丈夫だ。
店に着くと、また私は半目になってしまった。
「ソフィア、顔顔」
「………あ~もぅね……色々突っ込みたいわ…」
外観は、元の店の面影はあるものの、横に長くなり…元の店の4倍程…
更に3階建てになっていた。
………最早ショッピングセンター……
「………先を急ごうか…」
「中見ないの?」
「従業員に見られたら厄介だから。店長に裏に連れて行かれて利益渡されて追い出されるパターン」
「成る程」
ラファエルが頷き、私の後を追ってくる。
「ああ、利益なら既にソフィアの金庫に入れてあるから」
「………は!?」
「いや、当然でしょ。ソフィアの店なんだし」
「いやいや! 私はもうノータッチ!! 皆だけでやってるんだし、私は何もしてないから利益もらえない!!」
「何言ってるんだ」
不思議そうな顔を向けないでよ…
でもこれ、返しても受け取ってくれないやつだ…
何を言っても理屈で返されるやつ…
「……これからの利益は絶対に受け取らないからね!」
ここで釘指しておかないと!
「次何処行くんだっけ?」
「って、無視しないで!」
お兄様が私が線を引いた地図を広げる。
それをラファエルも覗き込み、指差して話し始める。
…返事しないって事は了承していないって事。
本当に経営者の名義変えてくれるかどうか怪しい!
これは王宮に帰ったらすぐに自分で手続きしないと!
………って!!
これから3日間はサンチェス国巡りだったー!!
地方に泊まる予定だから、王宮に戻ってランドルフ国に帰る数時間の間にしないといけない。
忘れないようにしないと…
お兄様説得してたら行程が遅れるかもだから、ここは引き下がっておこう…
あ、ちゃんと護衛は人混みに紛れていますよ。
私の影もお兄様の影もラファエルの影も。
そして騎士と兵士も私服で紛れている。
はぁ…お兄様意外と頑固なんだよね…
王太子には必要かもだけど、妹相手には必要ないと思う…うん。
そんな事を思いながら、2人の王太子の後を追いかけた。
ラファエルまで私を置き去りでお兄様と専門的話するの止めて欲しいなぁ…
隣に並び、ソッとラファエルの袖をちょこんと掴んで、2人の歩幅に合わせて歩く。
それに気付いたラファエルが笑って1度私の手を離し、手を繋いでくれる。
「城下じゃ無理だから、泊まる予定の街に着いたらデートしようねソフィア」
「………ん」
耳元で囁かれ、思わず顔が熱くなる。
コクンと頷くことで了承した。
そのまま城下街の門まで歩いて行った。




