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第202話 やってしまった ―? side―




「お前、ホント勘弁しろよ…」


目が覚めた時には俺は訓練場の端まで移動させられており、レオポルド様達の姿はなくなっていた。

俺は先輩に呆れた顔を向けられ、その場に縮こまる。


「あのなぁ、ソフィア様はランドルフ国を立て直し、土地も豊かにしつつあり、更に母国であるサンチェス国ももっと豊かにしてくれようとして下さっている御方なんだぞ」

「そのソフィア様に向かってなんて事を…」

「いくら知らなかったとはいえ、令嬢に対する言葉でも無かったしな」

「ソフィア様の事は王様もレオポルド様も一目置かれてるんだぞ」


ま、マジか…

俺は配属されたばかりで、王様にもレオポルド様にも直接お会い出来たこともない。

さっき初めて間近で見られたんだ。

王族間の関係など知らない。


「くそぉ。もうソフィア様を間近で見られることはないんだろうな…」

「王族だが昔から俺達にも目をかけてくれてたよな」

「ああ。たまに差し入れくれたりなぁ。ランドルフ国へ行かれてからそんな機会はなかったが…」

「くぅ。俺もランドルフ国行き志願したら良かった…!!」

「お前は家族の世話もあるから無理だって言ってたじゃないか」

「そうだけど! あ~……またソフィア様来ないかなぁ…」

「ソフィア様は餌付けが上手いよな」


ははっと先輩達は笑ってソフィア様を語る。

それを常に聞いてたからソフィア様が良い人だとは分かっていた。

だが、顔を知らなかったんだ!

だからっ!!


「おおーい!」


遠くから誰かが走ってきた。


「アルバート隊長!!」

「元、だよ。なぁ、さっきソフィア様こっちに来なかったか?」

「来ましたよ。ラファエル様が連れて行きましたが」

「すれ違いか……まったく…ソフィア様は俺達を振り切って姿を消される癖を何とかしてもらいたいぜ…」


う、わ……

あ、アレがアルバート隊長…

剣の腕は一流で、平民上がりだが隊長の座をその腕だけで掴んだという…


「アルバート隊長!」

「だから元だっつの」

「ソフィア様はランドルフ国でどんな感じなんですか!?」

「あ? こっちにいたときと変わんねぇよ。まぁ、勝手に街に行くことはないが」


ポリポリと頬を掻くアルバート隊長。


「隊長いつも街に行ってソフィア様探してましたもんねぇ」

「ああ。って、こうしちゃいらんねぇ! ソフィア様連れ戻さねぇと!」

「ラファエル様と一緒ですから大丈夫じゃないですか?」

「ばぁか。ラファエル様も守る対象だろうが。王族2人だけで出歩かれちゃ困るんだよ!」


クルッと背を向けて走り出そうとする。


「あ、レオポルド様も一緒に行きましたからもしかしたら3人で街へ」

「ぐぁぁあ!! 何勝手してくれてるんだあの兄妹はー!!」


頭を抱えながら叫ぶアルバート隊長…

そんな隊長を見ながら、もしかしたら俺が思っているような王族ではないのかもしれない…と思った。


「ちょっと、アルバート。失礼じゃない?」


ビクッと俺は反応してしまった。

今、聞きたくない声だったから。

恐る恐る振り返る。

王宮の回廊辺りからこちらにくる人影。

大きな籠を片手で持って、扇子で口元を覆っている女――じゃない、王女様…


「ああ! ソフィア様! 何処にいたんだよ!?」

「敬語とれてるわよ。厨房よ厨房」

「はぁ!?」

「さっき訓練の途中を邪魔しちゃったからお詫びの品運んできたのよ。ちょっと手伝ってくださる? ラファエルとお兄様が手伝うって言って聞かないのよ」


王女様の後ろから大きな荷物を運んでいるレオポルド様とラファエル様が…


「こういうのは下の者の役目だから、王太子が手を出しちゃダメって言ったのに荷物持つのよ……仕方ない人達でしょう…?」


………い、いや、王女が一番持っちゃいけない立場だと…


「王女が荷物持つな!! 王太子以上に持っちゃいけない立場でしょうよ!?」

「え?」


本気で首を傾げてるよこの王女…


「昔から荷物を持ってても何も言われなかったけど?」


顔見知りだろう先輩兵士を見る王女。

ギロッとアルバート隊長が先輩達を睨みつけ、先輩達は視線を反らした。

あ~……常識より差し入れの方が大事だったんだな…


「オーフェス!! ジェラルド!! ヒューバート!! さっさとこの非常識王族達から荷物奪え!!」


たたっと駆けつけてきた3人の男達に向かってアルバート隊長が声を張り上げた。

オーフェス隊長とジェラルド隊長も来ていたのか。

後の1人は知らない。


「ソフィア様! 何をしておられるのですか!!」


ヒューバートと呼ばれた男が顔を真っ青にして王女から籠を奪い取った。

オーフェス隊長とジェラルド隊長もそれぞれ王太子から荷物を奪い取っている。


「あ! ちょっと何するのヒューバート!」

「ソフィア様が荷物を持つなど、あり得ないんです!!」

「わたくしの仕事取られましたわ!!」

「ソフィア様の仕事は我々に守られることのみです!!」

「深窓の令嬢は嫌ですけど!?」

「腕を折られては困ります! ラファエル様に叱られるのは我々ですよ!」

「これぐらいで折れたりしないわよ失礼ね!」


ぷりぷり怒る王女はさておき、俺は視線が合わないようにさり気なく視点を反らす。

さっきの無礼な発言をどう謝っていいか分からない。

視線が合ってしまえば最後だ…

俺、処分される…!!


「で、これなんです?」

「水だけど?」

「どうりで重いと思いましたよ! これを片手で持つとかどういうつもりですか!!」

「ラファエル様が顔を隠せっていうんですもの…隠すような顔じゃないって言ってますのに…」


………ぇ…

そ、それ自分で言っちゃうのか…!?

令嬢は基本扇子で顔隠すのが普通だろ!


「ソフィアは可愛いんだからちゃんと隠さないとダメだよ。ソフィアに惚れる男がこの世には無限にいるんだから」

「ないですね」


キッパリとラファエル様の言葉を切る王女…


「どうしてソフィアはそう自分に無頓着なの!」

「いや、普通の顔の人間より美人に惚れるのが普通です」

「人は顔じゃないし! 俺はソフィアにベタ惚れなんだから!」

「そ、それとこれとは話が別ですわ!!」


ラファエル様にベタ惚れと言われ、王女が顔を真っ赤にして言い返している。

………ぁぁ、成る程…

ああいう表情が可愛いと思われているのだ。


「別じゃないよ」

「わ、分かりましたから! ちょっと離れて下さいませ!!」


グッと顔を近づけるラファエル様との間に扇子を入れ、王女が後ずさる。


「ホントに?」

「ちゃんと性格とか能力で人を見る方も居るのは知ってます!」

「うん。じゃ、ちゃんと隠してね。ちなみにソフィアはいつも可愛いから、ちゃんとそれも自覚してね」

「う~……またそうやって人目がある場所で…」


ニッコリ笑うラファエル様に、王女は頬を赤らめたまま、困ったように笑った。


「イチャつき終わった?」

「お兄様はラファエル様を止めてくださいまし!!」

「いや、俺も馬に蹴られるのは嫌だから」

「もぉ…」

「じゃ、差し入れも届けたし、明日の予定でも立てるか。先に戻ってて」


レオポルド様の言葉にラファエル様と王女は頷き、ラファエル様が王女の腰を抱いて王宮へと戻っていく。

その後ろを4人の護衛がついて行く。

………アルバート隊長達はもうこの国の兵士じゃないんだ、と実感するような行動だった。


「おいお前」

「!? は、はい!!」


ボーッと見ていた俺にレオポルド様が話しかけてきて、ガッチガチに固まってしまう。


「お前、命拾いしたな」

「え…」

「ソフィアの影がお前を殺そうとしていたのを、ソフィアがお咎め無しにしてくれたんだから、感謝しろよ」


心臓がひゅっとなった。

影――それは兵士以上の腕で主と決めた御方を守るためなら命も惜しまない精鋭部隊。

王女を貶した俺を殺そうとしていたと聞き、俺は血の気がなくなっていく。

レオポルド様が先輩兵士に話している間、俺はただその場で粗相してしまわないように立っているしかなった。


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