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第200話 1度あったことは2度目がある




私はゆっくりとソフィーの煎れてくれたお茶を飲む。


「………はぁ。平和だなぁ…」

「いやソフィア、その台詞は言っちゃダメでしょ」

「え?」


対面に座っているラファエルに言われ、首を傾げる。


「“え?”じゃないでしょ。あのね、今あの香水臭い平民の処分が王の間で決定されているんでしょ? その結果を聞くまで今までの事件の問題は解決してないから平和じゃない」


ふるふると首を横に振られる。

アマリリスを王の前にポインと捨てて、私達は私の部屋でお茶しているのだ。

………ん~、でもなぁ。


「サンチェス国の問題はラファエルの関与する問題じゃないから、ラファエルが気を揉んでも仕方ないし、私も罪人の処分の判断には関与できないから、意見を求められるまで考える必要なし。だからもうこの問題には私達関係ないよ。よって、何も考えなくていい。つまり私達にもう事件はなく、平和だなぁ…になる」

「………あのねぇ…」


………あれ?

ラファエルのこめかみがピクピクと……


「ソフィアが狙われて身体まで乗っ取られてたんだよ!? 怒れ! ていうか俺がソフィアに怒りたい!!」

「うぇ!?」


しまった。

何かしらないけれどラファエルのスイッチを押してしまったようだぞ!?


「ソフィアの身体が落ち着いてからって思ってたけど、平気そうだから今から説教するよ!」

「あ、すみません」


ピシッと背筋を伸ばしてラファエルの説教を受け入れる態勢になる。


「………はぁ」


ん?

何故が飽きられたっぽい。


「ソフィアが無茶するのは今に始まったことじゃないけど、自分があの精霊に飛び込む前に少しは自分の心配したの?」

「………」


私はあの時のことを思い出す。


「恐怖はあったけど、それ以上に民に被害が、国に被害が及ぶ前に何とかしなきゃって。私の精霊が近づけなかったし。私しかやる人いないし、アマリリスの事を放っておけなかったし」

「………ソフィアのそういう所好きだけど、ちゃんと自分のことも大事にして。今回は頼れる人がいなかったってことで大目に見るけど、何かあったらまず一拍おいて俺に手伝えることなら絶対に言って。今回も俺に連絡して俺が到着するまで待ってくれたら良かったんだよ。緊急事態なら超法規的処置で、俺の緊急来国も許容してくれたから…」

「………ぁ…」


そ、そっか。

通常の来国手続きは面倒だけれど、緊急時なら許容され、後から正式な許可を取ればいい。

考えが及ばなかったわ…


「ごめんなさい。気をつけます」

「ん、そうして。まったく……毎回ソフィアは俺の心臓止まりそうなことしてくれるんだから…」


ラファエルに呆れられ、私は苦笑いする。


「はい失礼するよ~」

「………お兄様ノックぐらいしてください」


いきなり部屋の扉が開かれ、背後を見る必要もないくらいに知った声が聞こえ、ため息をつきながらそのまま言葉を返した。


「ごめんごめん。余計な意見を受け入れるしかない状況にして下さった怒りから、一般的な礼儀を一時期忘れてしまったよ」

「………余計な意見?」


お兄様の言葉にラファエルが反応する。

私はそっとお茶を飲む。

コツッと私の真横に立ち、腰に手を当てて鋭い視線で見下ろされているのが分かる。

ああ、お兄様を怒らせたんだと分かった。


「レオポルド殿?」

「ねぇ。一番の被害者が加害者への減刑を精霊使って交渉するってどういうつもり?」

「!?」


お兄様の言葉にラファエルが勢いよく私を見てくる。

あ、ということは意見通ったんだ。

お父様太っ腹~。


「聞いてんの!? 親父にあの女をソフィアの侍女にするようにお願いしたんだって!? 一番嫌っている女に仕えるって事は、ソフィアの命をまた狙う可能性があるって事なんだよ!?」


ラファエルはナルサスの件があるからか、顔を覆って上を向いた。

あれは、またかっていう諦めだね。


「服従チップ埋め込みますからご安心を」

「は!? 何それ!?」

「ランドルフ国で罪人に埋め込む機械です。機械に入れ込んだ命令を破れば即命を落とすものです」

「何それ欲しい」


私の言葉にお兄様はラファエルを見る。


「あ~……まぁいいですよ」

「ありがとラファエル殿。………って違う!! 罪の代償を王に精霊を使って直談判するなよ!! お前は口出しできないことだろ! 罪を裁くのは王の判断だ!!」

「あら。被害者の意見を聞くことは当たり前ではないですか。一番被害者が加害者に対してどうして欲しいかが重要視されるのですから。王族の常識でしょう」

「ぐっ…」


お兄様が言葉を詰まらせる。


「お兄様がここに文句を言いに来たって事は、決定したのでしょう? アマリリスはどこです?」

「また牢に繋げたよ! ああもう! これじゃあソフィア説得して王に告げてあいつ処刑することが出来ないじゃないか!!」

「あらお兄様。簡単に民の命を奪わないでくださいませ」

「王女を狙って処刑にならない方が可笑しいから!!」

「可笑しくありませんわ。ねぇラファエル様?」


にぃっこり笑ってラファエルを見れば、勘弁してくれという顔をしていた。


「………何故ラファエル殿にふる…」

「………ぁ~……すまんレオポルド殿……ソフィアは前回ランドルフ国の民がソフィアを狙って命を奪おうとしたときに同じ対応をしている」

「なっ!?」


お兄様は驚き、そして崩れ落ちた。


「………前例を作っとくなよ……ソフィアが意見を変えないじゃないか……」

「………ほんと、すまん……」


こういう時、私が被害者の立場で良かったと思う。

アマリリスはあまりにも人との接し方が悪い。

それは前世で引きこもりであり、この世界にヒロインとして生まれたせいでもある。

同じ転生者として、何とかしたかった。

そして、また20にならない時に死んで欲しくないと思った。

沢山のことを経験して、本当に自分のしてきたことが間違いだったと自分自身で感じて経験して直していって欲しい。

この考えは甘いのだろう。

けれど同郷であり、今後同郷の者に会う保証などない。

私のアイデアにも幅が出てくるかもしれない。

それに――


「じゃあ、チップが届いた時に解放ということで」

「………分かったよ……まったく。お転婆王女め。ちょっとは言うこと聞けよ…」


この世界には、優しさが溢れていると知って欲しい。

そして本当に罪を悔い、改心して欲しい。

同郷のよしみで贔屓しているのは分かっている。

けれど、彼女にはそう教えてくれる人もいなかったのだろう。

本当に小さい子みたいな我儘で動いていたから。


『お父様、わたくしにこの罪人を下さい。嫌っているわたくしに仕えるなど、これ以上ない屈辱です。抵抗や反抗する事など出来ないようにすることは可能です。裏切ればわたくしが手を下さずとも死に至るものがございます。もしわたくしの意見を一考して下さるのなら、わたくしがランドルフ国に出している案の何点かの物を、サンチェス国との共同開発商品として販売することを一考します』


我ながら交換条件を、お父様に突きつける日が来るとは驚きだけれど。

前は怖くてまともに会話もしなかったもの…

しかも共同開発商品として利益折半を“一考する”と言った。

確約ではないからお父様が了承するかどうかは賭けだった。

そんな事を思い返し、私はそっと微笑みながらラファエルとお兄様の会話を聞いていた。


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