第20話 1つ我が儘を言ってみました
想いをラファエルにうち明けて、全てを晒してしまった。
痛いくらいに抱きしめてくれるラファエル。
私は涙も収まり、感情の高ぶりが落ち着いてきた。
それによって、今の状態が物凄く恥ずかしい。
どうしようかと悩んでいると、スッとラファエルの腕から解放される。
私は慌てて顔を俯かせる。
泣きじゃくってたから、私の顔は普通から不細工になっているだろうし。
何より、気持ちをうち明けて、ラファエルの顔を見るのに勇気が要る。
心臓がドキドキして、息が苦しい。
「ソフィア」
「ひぇ……な、何……?」
「なんでそんな怯えてるんだ」
笑われている気配がする。
ああ、恥ずかしい…
顔は真っ赤だろう。
頬が熱い。
「ソフィアの気持ちも聞けたし、安心して仕事できる」
「………ぁ……」
そうだった。
ラファエルの仕事の邪魔をしてしまっていたんだった。
彼は民のために忙しいのだ。
それを私のせいで無駄にさせてしまった。
「ご、ごめんなさい……お仕事の邪魔をしてしまって……」
「言葉」
「うっ……ごめん……」
「正直、俺は仕事しないでソフィアといたいんだけど」
「そ、それは……」
「でも、そうするとソフィアに見放されるからちゃんとするけどね」
「見放すって……」
「サンチェス国王への借金も早く返さないと、ソフィアと結婚させないって言いそうだし? ホント親馬鹿だよな」
「あ、はは……」
否定できないのが悲しい。
何かあればすぐに別れさせようとする父に、ため息をつきそうになる。
今回、第一王子と第二王子をサンチェス国に連行した。
それによって、二つの国の間に亀裂が入る。
同盟国である相手の民を勝手に裁くことは出来ない。
けれど同盟国である王女恐喝の罪で連行した。
相手の王族を脅すのは立派な処罰理由。
だから連行できた。
そんな国との婚姻など、させられないと父に理由付けさせるような状況だ。
けれど王子達をあのままランドルフ王宮に居続けさせるわけにはいかない。
民のためにも悪政をする王族は処罰しなければならない。
あれ以上、好き勝手にさせるのは阻止しなければいけなかった。
「後は王が出てきそうだな」
「ランドルフ王が……」
「兄二人をサンチェス国に連行したからな。王は兄二人を溺愛――甘やかしていたから今頃怒ってるだろうな」
「ご、ごめんなさい……」
「謝るな。どうせいつかしなきゃいけなかったことだ。あの場では兄二人を貶める材料が不十分だった。ランドルフ王が作ったランドルフ国法ではね。ソフィアが出てきてくれたから早く解決したんだ。ランドルフ王はサンチェス国に送られた王子を奪い返すことは出来ないから。ソフィアは良くやってくれた」
ラファエルが綺麗に笑うから、私の心臓が壊れてしまいそう。
顔が熱い……
………本当に、私……ラファエルの力になれたんだ…
ちょっと自分に自信を持っても良いのかもしれない。
だって、ラファエルが私を褒めてくれてる。
これで二回目だ。
一回目は食べ物の配布。
そして今回。
これでまだ私が役立たず、とか、王女に相応しくない、なんて卑屈になれば、彼の褒めてくれている心を否定することになる、と思う。
だから、私は頑張った、と自分を褒めても罰は当たらない、よね?
「え、と……ありが、とう」
怖ず怖ずと褒めてくれたことにお礼を言うと、ラファエルがまた笑ってくれた。
その顔を見れるだけで、私の心は温かくなる。
恥ずかしいけど、嬉しい。
「そっちの方が良いな」
「………ぇ」
「謝罪より感謝の言葉の方が」
「ぁ……」
ラファエルの顔を見るのが限界になって、私はパッと顔を俯かせてしまった。
………どうしてだろう。
今までよりも、もっとラファエルが素敵に見える。
格好いい……
ほ、本当に私、彼の恋人で良いのだろうか…
………良いよね?
だって彼は私を貰ってくれるって…確約してくれたし…
「ら、ラファエル…」
「ん?」
「えっと……お願い、していい?」
ダメだ。
恥ずかしすぎて言葉が切れる。
私らしくもない。
う~……
前世の――日本人だった時、恋人がいた人達が彼の前でドギマギしているのを、密かに馬鹿にしていました!
すみません!!
自分も同じようになってます!
体験して漸く分かりました!!
「お願い? いいよ。何でも言って」
「じ、時間がある時だけで良いの。…その、ちょっとでも会える時間、あったら……会いたい……」
ラファエルはここの所ずっと王宮にいて――
数日会わないこともあった。
寂しかった。
会うと恥ずかしいから会うのは躊躇するけど、会わないと寂しい。
我が儘な心は、どうしようもない。
「ソフィア…」
ギュッと膝の上で握った手を見つめていると、不意に視界にラファエルが映った。
「ひゃぁ!?」
「ソフィア可愛すぎるだろ」
ギュッと抱きしめられる。
「ら、ラファエル!?」
「そんな我が儘なら大歓迎! 夜中でも会いに来る!」
「よ、夜中!? それはちょっと…!」
顔がまた真っ赤になるからやめて!!
そして……今更だけど、本当に今更だけど!!
出会った当初の照れ屋のラファエルは一体どこへ!?
あの頃の可愛いラファエルはどこへ行ったのー!?
ここ、遠慮するとこだから!!
す、好きって言っちゃったから!?
い、いやその前から照れ屋なラファエルがどっか行っちゃってる!?
と、とにかくあの時のラファエルカムバック希望します!!
「もう決めた! ソフィアが寝てても顔見に来る許可出たって事でしょ!」
「きょ、許可してないっ!!」
「時間があれば来て欲しいって事はそういう事だろ? なんなら添い寝する!」
「そ――!?」
やめて!!
本当に心臓止まる!!
起きたらラファエルの顔が目の前にって状況でしょ!?
ムリムリムリムリ!!
タダでさえ普通の顔を!
不細工な寝顔を見ないで!!
さらに綺麗な顔を間近で見せないで!!
朝から心臓に悪いから!!
夫婦になったら毎日見るだろ、っていう突っ込みは要らないから!!
ま、まだ1年半以上先だからー!!
け、健全なお付き合いを希望しますー!!
「楽しみだなぁ」
鼻歌歌い出しそうな満面の笑みを浮かべないで!!
「だ、ダメだよ!? そ、添い、寝、はダメだからー!!」
「だめ。決めた」
「き、決めないで!!」
ラファエルがムッとして、顔を覗き込んでくる。
「じゃあ寝顔を眺めるのは良いよね」
「そ、それもダメ!!」
「なんで」
不満そうなラファエルの顔に、こっちが悪いことをしている気になる…
って、ここで負けたらダメでしょ!!
しっかりするのよソフィア!!
「ぶ、不細工、だし…」
「ソフィアは可愛いって言ってるだろ?」
「ラファエル趣味悪い!!」
「趣味悪くない!! っていうか、自分を卑下するな! 俺が可愛いって言ってるんだ! 自信持て!」
まるで怒ってるみたいに言われ、言葉に詰まる。
「可愛いよ。ソフィア」
愛おしそうな顔をして、私を可愛いと言うラファエルに、私の顔はもう茹で蛸状態だろう。
言葉を紡げなくなる私を見て、ラファエルはそっと口づけてくる。
「愛してる」
ラファエルの言葉に、私はもう意識を保っていられそうになかった。
固まってしまう私に微笑み、ラファエルは私の隣に座って肩を抱いてくる。
私はもうラファエルに抵抗することも出来なくなっており、悔しくなりながらも彼の肩に頭を預け、ゆっくりと瞼を閉じた。
 




