第02話 勝手に話を進められました
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ラファエル・ランドルフにダンスを誘われ、私は広間の真ん中に連れ出された。
互いに礼をし、互いの体に触れる。
丁度曲が切り替わり、ラファエルのリードで踊り始めた。
『――上手い』
踊り出した瞬間思う。
ヒールの高さに悲鳴を上げていた足に負担が殆どなく、しかも滑らかに動ける。
私はそっと外していた視線を彼に向けた。
するとバッチリと視線が交差する。
ずっと見られていたようで…
条件反射のように微笑むと、彼も微笑んだ。
「お上手ですね」
「ありがとうございます。ソフィア様も」
社交辞令のように返された。
微笑んでいても見逃さないよ。
その笑っていない瞳を、ね。
「何かお話したいことでもございましたか?」
王家は滅多に踊らない。
婚約者が居る者は勿論のこと、王家を誘える者は居ない。
王家が気に入っている、もしくは気になった相手に王家の男は声をかけ女は無言で手を差し出し、そこでようやく踊れるのだ。
私は今回踊るつもりはなかった。
だから元の位置に戻ろうとしたのに。
この男は誘ってきた。
他国といえども王家。
同じ位の者に当たり、問題なく誘えるのだ。
わざわざ声をかけてきたのだ。
何か意図があるのだろう。
美形であっても、いくら性格が良くて人気No.1だろうが、騙されません!!
乙女ゲームオタクでも、16年王女として教育を受けてきた経験故。
………悲しいかな…
教育受ける前なら絶対に騙されてでも行ってたね…。
間違いなく。
「お気づきでしたか」
「わざわざダンスを誘って下さったのですもの。それで、お話とは…」
「本当は留学中にお伝えしたかったのですが」
ラファエルは半年前に一度、二ヶ月の留学に来ていた。
こちらの学園の勉学を自分の国の学園に取り入れたいと言うことで視察もかねて。
そういえば二学年上の授業に混じっていると聞いたなぁ…と何処か他人事だった。
だからラファエルの言葉を聞き逃してしまった。
「あ、申し訳ございません。もう一度お願いできますか?」
失態だ、と思いながら聞き返した。
「もう一度言わせるのですか…案外、意地悪なお方だ」
苦笑するラファエルの顔は嘘偽りは見えず、意地悪をした覚えはないのだが申し訳なくなる。
「私の将来の妻になる事を前提に、婚約して頂きたいのです」
「………………………………ぇ」
ダンスのステップが乱れ、転びそうになる。
それをスッとフォローしてくれるラファエル。
紳士だ。
………じゃなくて!!
なんて言ったのこの人!!
「も、申し訳ございません」
もう一度聞き返したいくらいに衝撃だった。
でも、耳に入った言葉は確かに記憶している。
ダンスのフォローに謝る以外の言葉が思い浮かばない。
混乱しているうちにダンスが終わる。
しまった。
こんなイケメンとダンスするという夢のような事をしていたのに、堪能できなかった。
と。
関係ないことを考えてしまった。
互いに礼をして手を相手の体から離す。
「この後少しお時間頂いても?」
「ぇっと……はい」
自分の考えを整理させて欲しかったが、またあの目が笑っていない笑顔を見せられれば下手なことは言えなかった。
頷いてラファエルにエスコートされながら、バルコニーへ。
ダンスで火照っていた体に気持ちの良い風が触れ、心が解れていく。
「飲み物を取ってきますのでお待ちください」
間を置かずに行ってしまい、私は待機するしかなかった。
私の聞き間違いでなければ、プロポーズされた、ということだろうか。
妻になること前提って…。
普通婚約者なら結婚前提で。
王家の婚約なら特に解消は難しく、結婚することはほぼ確定。
この世界は一夫一妻の為、王家でも側室はない。
だから正真正銘あの第二王子と血が繋がっていて嫌なのだけれど。
話が逸れてる…
ラファエルに告白された、と思っていいん、だよね…。
………なんで!?
学園では話したことないけど!?
接触したのさっきが初めてなんですけど!?
それがどうしてこうなってるの!?
え?
学園で見たとか?
でも、私特に変わったことしてないけど?
あえて言うならローズに可愛がってもらってただけだけど?
あの美人で優しい完璧令嬢に恋して、王子と婚約解消がほぼ確定になったローズに告るなら分かるけど?
………何故私?
言っちゃなんだけど、私売れ残りです。
………悲しくなった…
だって婚約適齢期過ぎてるんだもん!
この国の婚約は12~15歳の間だもん!
16歳は過ぎてるんだもん!
卒業する18歳で即結婚が常識だもん!
王女がそれでいいんかいって突っ込みたいわ!
でもことごとく婚約の話断られてるって、王と王妃に聞かされてるんだもん!
私の何が悪いってくらいに、話が纏まらなかったんだもん!
もう、独身貫こうと思ってたんだもん!
なのになんであんな(何度も言うけど!)美形で性格完璧のラファエルに婚約話を持ってこられる?
ちょっとさっきの目を見て性格悪いかもしれないと思ったけれども!
美形は何しても許される!
………たぶん…
はぁ…
一通り考えたら落ち着いた……
「………遅いな……」
飲み物を取ってくるだけなら時間はそうかからないだろうけど。
見に行こうかと思い、バルコニーと広場を繋ぐドアに手を伸ばした。
それと同時にドアが開き、片手にシャンパングラス2つを器用に指に挟んで持ったラファエルがいた。
うわ、絵になる。
と思っていると、ニッコリ笑ってグラスを片方渡される。
「お待たせしました。王と王妃に婚約の話を承諾してもらっていたので」
「あり………は?」
お礼を言って受け取ろうとした手が止まる。
………今、何て言われた?
思わずラファエルの顔を凝視してしまう。
「承諾もらいましたよ。明日、契約書にサインすれば私とソフィア様は婚約者になります」
ちょっと待てーー!
何勝手に進めてるの!?
王も王妃も私の意思は聞かないのか!?
私はしばらくグラスを受け取ろうとした体制のまま、間抜けな姿を晒していたのだった。
「ソフィア様?」
呼びかけられ、ハッとラファエルを見上げる。
「私との婚約はこの国と私の国の同盟にも関わりますし、すぐに学園を辞めて頂いて、私と共に来て頂けますよね?」
何故問いかけているのに強制されているんだ。
同盟に関わると言われれば断れないではないか。
彼の国と言うことは、彼のファミリーネームと同じ名前のランドルフ国に私は行かなければならないと言うこと。
ランドルフ国は技術が発達し、その技術をここサンチェス国に提供してくれている。
そしてサンチェス国は気候が安定しており、ランドルフ国の技術を使った作物が豊富で、その作物をランドルフ国に輸出して持ちつ持たれつの関係だ。
ランドルフ国の気候は余り良くなく、いうなればずっと冬のような所で、作物が育ちにくいのが特徴。
ここで私が断れば、ランドルフ国からの技術提供を止める、と脅されているのだ。
それは困る。
技術提供を止められれば、それを利用して作物を育てることが出来なくなる。
同盟がなくなれば、ランドルフ国の技術が使えなくなるから。
日本の言葉で言えば著作権がランドルフ国に返され、使えば処罰される、と言ったら分かるかな。
「………ぉ、お受け、致します」
頬が引きつっているのがよく分かる。
彼との婚約が嫌なのではない。
自分には勿体ない話だ。
売れ残りの自分を貰ってくれるという話なのだから。
でも、何かあって婚約破棄にでもなれば、この国がどうなるか分からないし。
プレッシャーが重い。
嫌われないために、彼のことを知らなければならないけれど。
学園では接点なかったし、今日は王子としてしか話していないみたいだし。
彼の素は、どんなのだろう。
さらにランドルフ国に行くのも不安がある。
日本人だったときならともかく、この体はサンチェス国から出たことがない。
気候に耐えられるのだろうか、とか。
向こうの王族に失礼なことをしないだろうか、とか。
ソフィア・サンチェスだけの時の記憶しかないときの方が良かった。
今は前世の記憶が混じって、やらかさない自信がない。
そんな事を考えている私を余所に、ラファエルはニッコリ笑ってシャンパンを飲んでいた。
………本当に、どうしてこうなった……
ため息をつきたいが彼の前では出来ない。
そっとグラスに口を付けてグラスの中に息を吐き出した。