第198話 お転婆王女の目覚め
ふと意識が戻る。
真っ暗な部屋のベッドに寝かされているのに気付いた。
そっと身を起こし、辺りを見渡すと暗くても自分の部屋だと分かる。
ソフィーもいないようで、部屋に1人だった。
これ幸いと音が出ないようにベッドから起き、着替える。
そしてえっほとシーツをもってバルコニーに出る。
『………あの、主……私の風で運びましょうか?』
遠慮がちに頭に響いた風精霊の言葉に、私は「あ…」ともらす。
もう私にはシーツが必要ないんだ。
………いやいや!
こっそり部屋から抜け出す時は、やっぱりシーツを結んでそれに掴まって降りるのが定番でしょう!
風精霊には断って、シーツを手すりに結んで強度を確かめるように引く。
そして手すりを乗り越え――
「………何をしているのかな?」
「ひっ!?」
突如下から声が聞こえ、ビクッとしてしまう。
シーツを掴んで今まさに滑ろうとしていた体制のまま、そぉっと下を覗き込んだ。
「………」
あらまぁ。
私の真下の部屋のバルコニーに、腕を組んで満面の笑みを浮かべている、目の笑っていないラファエル様がいらっしゃいました☆
………って、うそぉ!?
もう見つかったんですけど!?
しかもこんな格好を!!
しまった!!
定番とか言ってないで風精霊に飛ばしてもらうんだった!!
まだラファエルに対して見られたくない私の姿ってあったのに…
い、一応まだ羞恥心は持ってますよ!?
って、そこからじゃドレスの中身見えちゃう!?
そぉっとなに気に身体の位置をずらす。
と、取りあえず…
「おはようございます」
「はい、おはよう」
挨拶は大切だよね、うん。
「では」
私もニッコリ笑って、シュパッとシーツを掴んで一気に下まで降りた。
「あ!!」
てててっと庭園を素早く走り抜ける。
ごめんなさーい!!
後でまとめて怒られるから今は許してー!!
「うん、ソフィアが俺から逃げ切れると思っていることが驚きだよ」
「………ぇ…」
全速力で走っている私のすぐ後ろをついてきながら、ラファエルが話しかけてくる。
いつの間に!?
「………って! 卑怯よ!? 風精霊の眷属に背中を風で援護させるなんて!!」
ラファエルは走っているようで走ってない。
若干地面から浮いた状態で、背後を風に押されている。
これは私負けるの当然じゃない!!
ってか精霊の力を使わなくても追いつけたでしょ!?
なにこの精霊の力の無駄遣い!!
「なんとでも。はい、捕まえた」
「ううっ!」
ガシッと背後から抱きしめられ、あまつさえ地面から足を離されてしまった。
「俺から逃げるために抜け出した?」
「違います!!」
「じゃあ何しに行くの」
「………」
「ソフィア」
う~……見つかったからには仕方ないか…
「………じゃあ一緒に行こ」
「何しに」
「ついてから説明する」
「………分かったよ」
ラファエルがソッと私を下ろし、自分も地に足を付けた。
「あ、夜は危ないから手繋いでいこう?」
ソッとラファエルに手を差し出すと、ラファエルが少し目を見開いた。
「珍しいね。ソフィアから手を繋ごうだなんて」
言いながらラファエルは手を繋いでくる。
恋人繋ぎで。
「庭園からグルッと回り込むと真っ暗な森の方に出るから。しかも壊されたから多分危ないよ」
「ああ、ということは直しに行くの?」
「それもあるけどね」
「………それも?」
「ん。早く行こう」
私は空を見上げる。
おそらくあと1・2時間で夜明けになりそうだと予測する。
「朝になったら民達の目に遠目でも見られちゃうから」
「そうだね」
それからはラファエルも大人しくついてきてくれる。
歩いていると徐々に地面がデコボコしてきて、荒れ具合が酷くなっていくのを確認した。
歩いたところから土精霊が土を綺麗にしていってくれる。
折れた木々は木精霊が回収し、新たな苗木を生やしていく。
ソレを見てラファエルも自分の精霊にやってもらい、1人でやるより2人の方が早く済んでいく。
ほんと、これが普通になったら大工さん要らなくなるね…
ん~…結局ラファエルに見つかって良かったんだ。
これなら私の負担は半分になるだろうし。
ラファエルを見上げると、気付いてくれて優しい笑顔を向けてくれる。
私もつられて笑い、私が木を、ラファエルが土を、そして2人の精霊の光と水で木々を成長させていく。
2人で森を修復しながら奥へ歩いて行った。




