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第195話 違う世界③ ―Re side―




バチンッ!!

身体が宙に投げ出され、床に倒れ込む。


「………いった…」

「当たり前だ。そうなるように殴った」

「………すみませんでした」

「お前は確かに精霊の力は持っていないだろうが、報告は影にやらせて、お前は妹の傍にいるべきだっただろうが。何も出来なくとも、女であるソフィアに全部任せてどうする。それでもお前は次期王か」


目の前にいるのは俺の親父であるサンチェス国王。

精霊大暴れの事態が収拾してから5日目。

あの騒動のせいでザワついていた民を落ち着かせ、漸く王宮も落ち着いたとき。

そしてソフィア(仮)が意識を取り戻して、ソフィアではないだろうと報告をしたら、親父に殴られた。

………だろうな。

ソフィアが精霊契約者になった件も合わせて報告はした。


「仰るとおりです。私の判断ミスです」

「………はぁ」


ドサッと親父がソファーに座る。


「………で? ソフィアは別人に乗っ取られていると? 戻せるのか?」

「対処するため、今影を総動員させて原因を探らせています」


ゆっくり身体を起こしながら言い、その場に立ち上がる。


「戻せなかったら、こちらの責任。ソフィアとの婚約解消は勿論、ランドルフ国に対しての賠償金問題が発生するぞ。将来の伴侶を無くすどころか、この先の利益を生み出す存在を葬る原因を作ったのはこちらの民の行いのせいだ。同盟も危うい。いまやうちの国はランドルフ国の技術やアイデアで発展していっているからな。その元であるソフィアという貴重な人材を失った」

「っ! ソフィアをもういなくなったものとして話を進めるのは止めて下さい!」

「最悪の事態を考えて行動せねばならないことは、お前なら分かっているだろうが」

「そうですがっ!」


目の前にいる親父はサンチェス国王で、俺とソフィアの父親としての態度を見せることはない。

………こういう事を言うから、子供に対して愛情がないと思われるんだよ。

少しは父親として娘を心配するような素振りを見せろよ。

………隣にお袋も座っているが、何も言わずに目を閉じている。

冷たい家族と言われても仕方がない。


「………ソフィアは必ず元に戻します。それに、このままソフィアが黙っているわけがないですから」

「………だろうな。ソフィアは諦めが悪い。お前と同じでな。もし賠償金が発生したら、お前とソフィアの財から払うことになるぞ」


また金の話かっ。

ソフィアが心配だ、という一言さえ言えないのかっ!!

親父の言葉に何も返さず、俺は頭を下げて部屋から出た。


「クソ親父が」


俺は吐き捨て、足早に自室へ向かった。

ソフィアは絶対に帰ってくる。

その為にラファエル殿と共に策を考えなくては。

勢いよく自室の扉を開けると、既にラファエル殿がいた。

ソファーに座って資料を手当たり次第に読んでいる。


「どうだった」

「アレは香水臭い平民だ。ソフィアの意識は眠らされていると考えていい」

「やはりな。ソフィアはあんな顔しないし、事情を知っている人間しかいない場所ではあんな他人行儀な話し方はしない」


俺はラファエル殿の向かいのソファーに座った。

ラファエル殿が顔を上げ、俺の顔を見て眉をひそめた。

俺の頬が腫れ上がっているのかもしれない。

親父に思いっきり殴られたからな。

ソフィアをあんな状態にしておきながら、俺がピンピンしているから怒るのも当然だ。

態度や言葉は冷たいのにな。

ソフィアを溺愛している親父は、ソフィアの元から離れた俺を許せないのは当然だ。


「何か分かったか」

「ああ」


ラファエル殿が俺に資料を差し出してきた。


「アレの足取りを探らせ、ある場所からソフィアが触れたという装飾品と似た図形が書かれてある資料が出てきたそうだ」

「こんなに早く?」

「ソフィアの影も相当怒ってるからな。僅かな時間で調べ上げてくれたぞ。やっぱりサンチェス国の影は凄いな」


資料を見て、俺は頷く。


「一般的な首飾りに闇の精霊の力を付与させ、人の心を操る術の応用で魂を別の身体に入れる呪具を作ったらしい。そこに書かれている文字は読めず、解読は出来ないがある程度は想像できた」

「そんな事が出来るのか? 精霊の力で人を操る事など…」

「実際にアレは人の心を操り、自分の元に来させてたぞ。王妃主催の社交場でやっていただろう?」

「………ぁぁ…」


そういえば、異様に貴族に近づかれていたな。


「………精霊の力って、思ってもみないことが出来るんだな……」

「俺も驚きだよ。で、だ」


ラファエル殿が背を全てソファーの背もたれに預ける。


「ソフィアの意識を引っ張り上げるには、究極精霊の力を貸してもらえれば出来るはずなんだ」

「究極精霊って、ソフィアのか?」


こくりとラファエル殿は頷く。


「俺の精霊に聞いたところ、アレの精霊は元々中だったらしい。けれど、呪いの装飾品で望まぬ力を出させすぎたせいで、特大に分類されるくらいの力を暴走しながら出していたらしい。……究極精霊が近づきたくないと思うほどに邪悪な存在となっていた」

「その装飾品は壊されたと聞いた」

「ああ…究極精霊が数人がかりで………精霊ごと消滅させた、と報告受けた…」

「………」


精霊の長がそう判断したのなら、俺達は何も言えない。


「ソフィアが契約者と精霊を一時的にでも引き離してくれたおかげだと。契約者が――身体が死んだことも関係しているだろうけど」

「………そうか」

「それで究極精霊の力を借りるっていうのは、人の心を操る力を使ってもらう、ということなんだけど」

「………」


ラファエル殿が先程書いたのか、走り書きの紙を見る。


「人の心を操る術の応用で呪具を作ったのなら、同じ事をしてアレの意識を壊し、ソフィアが表に出てくるように手助け出来ればと思う。中精霊が操られ特大と同様の力を出して出来たんだ。究極精霊なら簡単に出来るだろう」

「だが、どうやって頼むんだ。ソフィアの精霊だろ。見えないし話せないだろ」

「俺はソフィアの精霊から眷属の精霊を授かったんだ」

「眷属……?」


首を傾げると、あ…とラファエル殿が気付いたように苦笑する。


「精霊には、弱・中・大・特大・究極の力の階級があり、眷属というのは契約している精霊が自分の力を具現化し、新たな精霊を作って他人と契約させるんだ。精霊自身の分身体、と考えてもらったら良いと思う」

「へぇ」

「分身体は本体である精霊とその下の階級の精霊の間くらいの力、と思ってもらったらいい」

「………ん?」


俺は思わず首を傾げる。


「どうした…?」

「………いや、ならラファエル殿の眷属精霊は、特大と究極の間なんだろ?」

「ああ」

「しかもその眷属って究極精霊の分身体のようなものなら、同じ様な能力が備わっていると考えていいんじゃ? ラファエル殿の精霊に人を操る力を使ってもらえば良いんじゃないの?」

「………」

「………」


俺の言葉にラファエル殿が固まった。

そしてそっと気まずそうに視線を反らされる。

………あ、悪い…

なんか俺、空気読めてなかったか…?


「………ソフィアの部屋に行ってくる…」

「………お、おう…ついて行っていいか…?」

「………うん」


ラファエル殿が頬を少し赤らめながら、足早に扉に向かう。

………うん、ホントごめん…

俺は数歩離れた位置を保ちながら、共に部屋を出たのだった。


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