第185話 活気のある場所出来ました
ガキッという鈍い音がし、くるくると剣が飛んでいく。
ザクッと上手い具合に地面に刺さった。
「ま、まいりました…」
「これで50勝目だな」
私は離れたところにある壁の上で、用意されたソファーに座って下を眺めていた。
今いる場所は騎士達が訓練をする騎士訓練場。
私がよく学園の休みでラファエルが仕事中に、ソフィーと共に歩くコースの近くでもある。
騎士の育成状況とナルサスの剣の上達ぶりを見るため。
ソフィーはヒューバートをこっそり見るためだけど。
そして漸く外出――というか散歩の許可が出て、しかもラファエルとお兄様が騎士の実力と、サンチェス国兵士の騎士就任に伴い実力を見るというので見学に来たのだ。
「………はずなんだけどねぇ…」
「………レオポルド様は兵士の実力を知っていますよね……何故騎士入隊試験の試験官をしているのでしょう……しかも全て叩きのめしています…」
「ラファエルも楽しそうね」
2人の王太子は笑みを浮かべながら騎士達相手に大立ち回り。
テンションが上がったのか、2対多数で1度にかかってこいなどと叫んでいる。
最早2人の遊び場と化していた。
「………まぁラファエルも気を張っていたし、少しは羽目を外しても良いかもね」
あれから1週間。
ラファエルはお兄様の持ってきた証拠を国民に通達。
侯爵の件も、精霊学の廃止の件も。
国民は動揺し、国全体が今落ち着かない雰囲気になっていた。
侯爵が王族に対してしたことも、それを精霊にやらせたことも全ての事が物的証拠と共に国民は知ることとなった。
お兄様の持ってきていた証拠は、ラファエルが迷う必要もない程完璧なものだった。
これがサンチェス国で次期王と言われている王太子レオポルドの実力。
敵に回してこれほど怖い人はいない。
この事後処理のせいで学園にラファエルが通う時間がこの期間なくなった。
私は禁止令のせいで元々行けなかったけれど。
けれど精霊との契約解除の件は、通達していなかった。
ラファエルに相談され、私は究極精霊を介して契約している精霊自身に契約者と契約を解除する件を相手だけに伝えるようにした。
元々現在契約している人達は両手で足りるほどだと聞いているし、ラファエルとルイスは契約解除対象ではないし、マーガレットとスティーヴン、フィーアを除けば本当に人数は少なく5人以下。
そして侯爵令嬢と子爵令嬢を入れると、3人未満となる。
侯爵令嬢は既に契約を強制的に究極精霊が解除させているし、子爵令嬢も侯爵令嬢と共に私を傷つけようとしていたのは確認されているから、こちらもすでに解除させていたらしい。
あえて国民全員に伝えることなく、穏便に済ませようとラファエルは精霊解除の件は私を頼ってきた。
私もそれでいいと思ったから、私の精霊にお願いした。
急ぐ必要はない、ゆっくり納得するまで話し合いするようにとも伝えた。
契約期間が短い長いではなく、信頼が厚いかどうかでも拗れるだろうし、ね。
「あ…」
「ぁぁっ…!」
2対多数の勝負がついたようだ。
最後の2人、ナルサスとヒューバートが吹っ飛ばされて終わった。
ソフィーが心配そうにヒューバートを見ている。
………心配なら行けばいいのに…
ソフィーとヒューバートの接触も今のところない。
侯爵の件があり、お兄様も来国しているし、私の傍を離れられないとソフィーは私を優先してくれている。
………申し訳ない、と思うのはやっぱり王女らしくないんだろうなぁ…
「よし、ラファエル殿より俺の方が多く倒したぞ」
「何を言ってるんだ。俺の方が多く倒した」
………ぁ。
下でなんか揉めてる?
………っていうか、なんで勝負になってるのよ!?
騎士の今の実力と、兵士を騎士にして実力で何処に配属させるか決めるのが趣旨だったでしょ!?
改めて訓練場を見ると、騎士と兵士の生きる屍だらけ…
………何をしに来たのだろうか王太子's…
でもラファエルは腕を上げたようで、息は乱れているけれど疲れは見えなかった。
「ソフィア!」
ラファエルが私の近くまで寄ってくる。
「俺のことちゃんと見てくれた?」
お兄様もこちらにゆっくりと歩いて来た。
「………見てたけど、ちゃんと誰がどれぐらい強くて何処に配属するのか考えてたんでしょうね」
「「………」」
私が聞いた途端に、2人の王太子は笑顔で固まった。
………あ、これ完全に忘れてたやつ。
「ま、まぁラファエル殿を守るためにはもう少し全体的に強くならなきゃだね」
「そ、そうだな。ちゃんと訓練しないとな」
「………騎士より強いのは良いけど、本来守るべき貴方達に対して騎士が思いっきり剣振れるわけないでしょう。手加減されて嬉しい?」
2人がまたピシッと固まってしまった。
「大体お兄様が使えない兵士を連れてくるわけないでしょう? なのになんでこんな事になったのよ。本来の趣旨から外れないでよね」
「「………すいません」」
あ……王太子に謝らせてしまった。
こんな公の場で…
「トーナメント制にして、勝った人から良いところに配属していったら?」
「………そうだね」
ラファエルがその場から離れ、少しの休憩の後に試験を開始すると言っている。
「ソフィア、ラファエル殿に対して強気だね」
「お兄様のせいでもあるよ。ラファエルは同年代の友人っていなかったし、楽しくてハメ外しやすいんだよ」
「ふぅん。まぁ、それを言うと俺もだな」
「え? お兄様は各国の王太子や王族と仲良くないの? 交渉とか行ってたよね?」
「交渉は仕事でしょ。仕事相手に気は抜けないよ」
「そっか」
話している間に準備は終わったようで、わーっという声と共に一斉に1対1の勝負が始まった。
土煙が上がっていく。
「………この訓練場に声がこんなに響くのって、初めてだね」
「はい」
人数が足りなかったのもあるし、騎士全員が訓練に参加するのではない。
王宮内外の警備もあるし、数人ずつ交代で訓練するのが当たり前になっていた。
それが今、兵士から騎士になるべく来た100人と、若手騎士約30人がここにいて、剣を交わしている。
「王宮も賑やかになるわね」
嬉しくて笑い、彼らの事を眺めていた。




