第184話 新たなる商品案②
「いやぁ、温泉街の湯は最高だね! サンチェス国の風呂とは違って良い感じだよ」
「「………」」
目の前のソファーに座って、満面の笑みの男。
その男の周りにまるで金色のダイアの形をしたキラキラ効果が見えるようだ。
金髪は艶があり光ってる。
肌はツルツルだし、触り心地が良さそうだ。
お兄様が来て頬を叩かれた2日後の朝、一緒に朝食を取っているのだが…
「………お兄様、昨日一日まさかずっと温泉街へ?」
「うん。だってお試しでって俺達を招待したんだろう? 父母が来る前に俺がちゃんと問題ないか試しておかないと、万が一問題があったらダメじゃないか」
いや、絶対貸し切り風呂でゆっくりしたかっただけでしょ。
「………一体いくつのお風呂に入ったんです?」
「ん~……大浴場とやらの風呂を全種1軒と、花風呂8に泡風呂1に薬湯風呂1だな」
「………」
カラスの行水か!!
温泉街の種類は、宿を兼ねた大浴場が5軒(貴族用2・平民用3)に、花風呂40軒(貴族用20・平民用20)、泡風呂2軒(貴族平民共に1)、薬湯風呂3軒(貴族・平民・騎士兵士用各1)、王族専用風呂が5軒。
大浴場には10種程の温泉とプール、サウナ。
大浴場と平民用を除くと半分近くを1日で入ったということになる。
「薬湯風呂とか花風呂は良いな! 肌がすべすべだぞ!」
「………うん、それは良かった…」
………お兄様朝風呂もしたわね…
お兄様から薬湯風呂の香りがする…
「風呂で酒とか飲めたらもっとゆっくり出来たのにな」
「………乱闘になったり、お風呂で溺れたらダメだからそれは禁止」
「そうか。そうだな。注文したら一口サイズの菓子が出てくるとか、冷たい果汁の飲み物が出てくるのは良いな」
「従業員が足りないから専用窓口で注文して、自分で持って行かないといけないのが難点だけどね」
「貴族までなら侍女がいるからそれは気にしなくて良いだろ。平民は自分でやるのは当然だしな」
「………そだね」
そうか。
私は前にソフィーと一緒に入ったから気付かなかった。
貴族なら使用人に命令してやらせるよね。
「だが平民ならともかく、貴族同士が一緒に入るとなると問題になるだろうがな」
「嫌なら1人で入れる自宅のものに入ればいい。温泉街は癒やしの場として開くし、ちゃんと共同風呂として先触れは民に出してある。嫌な奴は来ないだろう」
ラファエルが食事終わりのお茶を飲みながら言う。
「意外にも貴族達から急かすような要望が多くて、あまりその辺は気にしていない」
「へぇ」
「………ま、中立派と新国派からだけだけどね」
カチャリとラファエルはカップを戻した。
「菓子や装飾品、そして雑貨店は見栄えが良いね。まだ開いてないけど、店先に透明の壁があって商品の見本が並んでいるから、何が置いてあるのか一目で分かったよ」
「あれはショーウィンドウって言って、テイラー国の服が飾っていた店の真似をさせてもらったの」
日本では当たり前だったしね。
「ガラスを四角く加工してもらったんだ」
「いいね。サンチェス国のソフィアの店とかもやればいいのに」
「店長が許可すればね」
「じゃあ俺から伝えるよ。どうせ帰り道で通るしね」
「うん」
また私の店は変わるのか。
あちらに行ったとき、変わりすぎてたら私に店の場所分かるのかしら?
思わず苦笑する。
「あのペン、俺欲しい」
「え?」
「滅茶苦茶種類あったし、なんか動物の形してるのくっついてたし、黒以外のインクの色があるなんてビックリしたぞ。あれ便利そう」
………あれ?
いつの間にカラー色出来てたんだろ…
「あ、レオポルド殿、それまだソフィアに内緒だったのに」
「え? ごめん」
………ぁぁ、成る程。
サプライズだったのか…
「ラファエル、お兄様にペン差し上げてもいい?」
「勿論。ソフィアのお兄さんだからね。次からは買ってもらうから」
「おいおい、そこはインクなくなったらまたくれるって言う所だろ?」
「なにをケチくさいこと言ってるの」
………2人ともすっかり素で話してるわね…
こういうのは男の人って早いよね。
「でも、そうだよね。使ったらなくなるんだし……補充液を入れられるように出来ないかな…」
お茶を飲みながらポツリとこぼす。
「………」
「………ソフィア…」
「え…?」
宙を見ながら言ったから、2人の表情を見ていなかった。
呼ばれて視線を向けると、ラファエルが頭を抱えて机に突っ伏しており、お兄様は呆れた顔で私を見ている。
「え? ど、どうしたの…?」
「………開発前に言って欲しかった…」
「………ぁ…」
今あるペンは使い切りで、インクがなくなれば買い換え。
当然インクを補充する取り外し機能はない。
「ご、ごめんっ!!」
「………いや……」
のっそりとラファエルが身体を起こしてため息をつく。
「今作っているペンはそのまま売って……補充か……液漏れしないようにして上部を開くように……?」
ペンの中に液体……それをカードリッジ式に出来れば…
「ねぇラファエル」
「ん?」
「今ペンに直接液を入れているじゃない?」
「そうだけど?」
「じゃあさ、ペン本体に一回り小さい軸を中に入れる事は出来ない?」
「………本体の中に同じ様な軸を…?」
「そう」
私は紙を取りだして、図を書く。
お兄様も覗き込んでくる。
「中の軸の先にペン先をつけて……本体は空洞とペン先が出るように穴を開けて……グリップ部分が取り外し可能になれば…」
私はキャップ式ボールペンの図を書いてラファエルを見る。
「あ、それなら簡単かも。今のペンを一回り小さくして本体部分の先を加工すれば良いだけだし。本体の切り離しはグリップ部分でも良いし、上部でも良いよね? マスコットごと回して取り外して上から入れるのも可能になる」
「そうだね」
2人で笑い合うとお兄様もクスリと笑った。
「お兄様?」
「いや、お前達はいいコンビだなと思ってな。この目で見るまではソフィアがこの国を変えるアイデアを出してるのは半信半疑だったんだ。ソフィアの店が最初ああだったからね」
………ぁぁ…
平民相手だったから利益取れてなかったしね…
「甘味は上手いアイデアだと思ったけど、それだけでは金が稼げても国はもり立てられない。でも温泉街の店を見て、こうやってソフィアがアイデアを出しているのを見て、安心したよ」
「お兄様…」
「良いパートナーに出会えて良かったな。2人とも」
「ありがとうレオポルド殿」
「お転婆王女も役に立って良かったよ」
………ぁ…
そうだ。
お兄様に聞かなきゃ…
「俺の大事な妹を頼むぞラファエル殿。こんなでも愛しい妹なんだから」
「! お兄様…」
「言われなくても大事にする。俺の唯一の華ですからね」
………!?
ちょっとラファエル!!
さり気なく私の唯華の由来使わないでぇ!!
私が内心焦っている間、2人は雑談を続けていた。




