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第182話 サンチェス国王太子②




「………で、だ。サンチェス国の次期王の俺からしてみれば、他国は王だけの契約だったのに、ここだけが誰でも精霊と契約できる国、ということは後の争いの火種になりやすいと思うわけだ」


お兄様の言葉に私は息を飲んだ。

………初めて精霊の事を知った時の私と、お兄様は同じ事を危惧している。


「………そうですね」

「そこで」


お兄様は手を上げ、それを見てイヴとダークがドンッと机の上に書類の束を置いた。

………いや、それどっから出てきたの…


「今回の侯爵の悪事、精霊を使った王族暗殺計画、その他諸々。これを使って侯爵を精霊を使った凶悪犯罪者として処刑しろ」

「え…!?」


こ、これ全部侯爵の悪事の証拠なの!?


「なるほど。イヴとダークに俺が動く前から探らせていたわけ、か」

「可愛い妹が精霊に攻撃されたんだ。一刻も早く事態を収拾させる必要があるだろう。それに、これがあれば世の秩序に倣ってランドルフ国の精霊の件を修正させることが出来る。ここが国として成立してから――ラファエル殿とソフィアがこの国の事に手をかけ始め、安定してきている今だからこそ、世界の秩序に合わせてもらいたいと思う」


ラファエルが書類を手に取り、読んでいく。


「………侯爵の犯罪を国民に知らしめ、それを理由に学園の精霊学の廃止と王族以外の精霊の契約を切らせる、ということですか」

「敬語やめろ普通でいい。そういう事だ。もっと贅沢言うならば精霊契約はラファエル殿のみ。王と王太子だけが精霊と契約が出来るようにするのが理想だ。もう国民全員が契約できなくとも、お前たちがいる今の時代では国の運営に関しては心配ないと俺は思う」


………確かに、世界のルールがそれならば、ランドルフ国もそれに倣わなければならない。

………誰が作ったルールなのだろうか。

普通は創造主――神様だけど。

存在するのかしら?


「だが究極精霊と契約しているのはソフィアで、次期王じゃない。しかも各国の究極精霊とは訳が違う」


違う…?

首を傾げ考え、私は気付いた。


「………あ、そっか。他の国は何かの生産性の精霊で、この国にいる精霊は自然の精霊だ」

「そう。特産品の生産性を上げる精霊ではなく、火や水などの自然の精霊であり、ランドルフ国特産の機械系の精霊じゃない。………まぁ、植物などには命が宿ると言われ、実際に精霊が生まれているから否定しようがないが、機械はあくまで無機質。そこに命が宿るかどうかは定かじゃない。…カイヨウ国の宝石からは精霊が生まれているからないとは言い切れないけれど、今のところ機械の精霊は生まれていない」

「確かにね…」

「だから例外として王族というくくりで契約可能、としたらいいと俺は思う。この地の立地から考えても王族が複数の精霊を所持していた方が何かと安心できるしな。それに究極精霊及び眷属の精霊は基本的に俺達の王と対等であり、命令して強制的に従わせることは不可能。究極精霊がソフィアを気に入っているのなら引き離すすべはない」


ラファエルを見ると、書類を読み込んでおり話は聞こえているのだろうかと心配になる。

さっきから無言だし…


「話は分かった。協力ありがとうレオポルド殿。早急に通達と処分を実行しよう」

「ああ。ちなみにその書類はラファエル殿の影とソフィアの影が集めた情報も入ってるから」

「え…?」


ハッとして上を見るといつもの2人の気配を感じた。


「影としては優秀だよ。でもソフィア、影の教育はしっかりね。人の悪事の証拠探しを満面の笑みで、しかも意気揚々と探してるのはちょっと心配になるよ。気持ちは分からなくもないけど」


その顔が容易に想像でき、私は視線を反らしてしまった。

なんか恥ずかしい…


「王族以外が精霊との契約出来なくなれば、これからこんな事件は起こらないでしょ。精霊を使った悪事を裁く法を作ることもない」

「あ、そっか。今回みたいに火をつけられるとしたら、もう人の手でしか出来ないから証拠とか残るね」

「ん。この国の国政を正すことが急務なのに、精霊の件もとなるとソフィアがゆっくり出来ないだろ」


………あ、そこなんだ…


「あ、ありがとうお兄様」

「可愛い妹のためならね」

「すまないレオポルド殿」

「ラファエル殿の大変さは少しは分かる。でも、何でもかんでも抱える事になる前に大元の元凶がなくなることで解決するなら大元を断ち切ればいいだけだ」

「俺には精霊が当たり前だったから逆に気付かなかった」

「そういう事を反対から見れる俺が動くのが早かっただけだよ」


お兄様がお茶を飲み干し、フィーアにお代わりをもらう。

ついでにもう用は済んだという風にお兄様が手で合図をすると、イヴとダークがお兄様の背後から私の背後に回ってくる。

………いや、もういいし…

取りあえず話は一段落ついたみたいで、ラファエルが隅で待機していたルイスに書類を回収させていた。

机の上に書類がない状態になり、お兄様がお茶を飲んだ後、私は話を変えるために口を開いた。


「お兄様、温泉街を見に来たの?」

「うん。招待状をもらったから一足先に。ついでに諸々連れてきた」

「………は?」

「“連れて”きた……?」

「人材不足解消のためにサンチェス国で職を失った民で信用のおける真面目な人間約70人。兵士――こっちでは騎士か。ランドルフ国国境に近い土地を守っていた兵士は比較的寒さに強いからこっちでいても問題ないだろうと思って騎士候補5小隊約100人。これで結構王宮の守りが強化されるだろ」


………え。

何を言っているのだろうかこの人…

さらっと170人引き連れて来たと言ったのだろうか…?

しかもその家族も当然いるだろうから、単純に170の倍と考えて…

あ、頭痛がしてきた…


「ちょっとお兄様! そんなに大勢連れて来られてはサンチェス国の方が!!」

「ああ、新たに兵士は200人ぐらい見習い兵士から正兵士になったからちょっとうちでは派遣先が急には見つからなくてね。だったら一斉粛正して騎士が一気に減ったランドルフ国にベテラン兵士を派遣し、穴が空いたところへ配属変えしていったんだよ。あ、勿論ランドルフ国に来たい兵士から選んだよ? 手っ取り早く小隊の隊長が立候補した隊を優先したら100人ぐらいになったんだよね~あはは」


………あははじゃない……

まぁ、サンチェス国は食に困ることがないから移住民が多いのは事実で人口が増えてるのも然り。


「来たくない奴は除外したから裏切りの心配はないよ。元々ソフィアを慕っている連中でもあるし、こっちで真面目に働くよ」


………え、私を慕っている兵士なんていたのだろうか……

初耳なんですけど…


「………職を失った民とは…? サンチェス国で職に困るような事はないはずです」

「あれ、他人事だねソフィア」

「え……?」

「俺とソフィアの甘味店のせいだろう。元々あったサンチェス国の甘味処の客が途絶えたんだろ……」

「………ぁ……」


未だに順調に売上を伸ばしていると聞く私達の甘味店。

………ですよね……

うちが順調ということは、既存店の売上が落ちているのは必然で…


「ランドルフ国民になって良いから甘味の店で働かせてくれと泣きつかれたから、責任取って面倒見てね」


ニッコリと笑ってお兄様に言われ、頷く他なかった。


「………でも70人って多くない…?」

「ソフィアの店のせいでもあるよ。全員が甘味処ではなく、サンチェス国で数少ない被服や服飾関係の店の人も入ってるよ。ソフィアの店で働かせてくれって言ってもテイラー国の人が優秀で仕事ないらしいから雇えないって言われて、赤字で店潰れても働き先がない」

「うっ………」

「このままじゃ失業者が相次ぐから、ソフィアには悪いけど許可取らずに急いで増築改装させて雇う人数増やしてもらった」

「店長が良ければ私は別に構わないわ」

「うん、ありがと。けど、どうしても雇ってもらえない人はいるからね。従業員は多ければ良いってものじゃないし」


………確かに……


「ということでこっちにもソフィアの店の支店出してね~。テイラー国の人間はラファエル殿に交渉してもらえたら雇えるでしょ」

「………はぁい。それなら温泉街に店構えられれば……」

「そうだね。改装すれば大丈夫だよ。木精霊ジュリにも手伝ってもらえるならすぐにでも出来るだろうし。甘味の支店は建物は出来てるけど従業員がいなかったから開けられなかったし。ちょうどよかった」

「よろしく。これは連れてきた連中の情報」


お兄様がラファエルに書類を渡した。


「俺が1月かけて人となりを観察して厳選した者達だから、問題は起こさないと思うけど。彼らには問題を起こしたら全ての責任は俺に来るから、俺に処分されたいなら遠慮なく罪を犯せと言ってあるからな」


………それは最早脅しだよ……

信用できる人達じゃなかったの…?


「サンチェス国の籍はもう外してるから、ランドルフ国の籍を与えてやってくれ。金は兵士は自分たちの手持ちがある。職探しや店が潰れた者達には雇われて次の給金が渡されるまでの最低限、各自に渡してあるから、住むところは配属先によって勤務しやすい近くの街の物件を紹介してやってくれるか?」

「分かった。温泉街の方は住み込みで働けるように建て増ししよう。街の店の方には空き家が何軒かあったはずだ。兵士は王宮の近くに騎士宿舎があるからそこに行けばいい。空室は沢山ある」

「よろしく。じゃ、俺もそろそろ部屋に行かせてもらうよ。流石に疲れた」


客室へ行くというお兄様に、慌ててついていこうとすると、ラファエルとお兄様が同時に私を制した。


「「ソフィアはダメ(だよ)」」

「………ぇ」

「安静にしないともう一方もするよ?」


思わず私は先程叩かれた頬とは逆の頬を手で隠す。


「………」

「そう睨まないでよラファエル殿。これは躾だよ」

「………次は、俺が殴られるんでソフィアは止めてくれ」


そんな事を言いながら2人は出て行った。

私は取りあえずソファーに座り直し、暫くボーッと2人が出て行った扉を眺める。


「………一気に疲れた…」


精霊のことも、人材派遣のことも。

急激に変わりすぎだと思う。

でも、これでランドルフ国の改国が一気に進みそうだ。


「………ありがとうお兄様」


ここにお兄様はいないけれど、扉に向かって私はゆっくりと頭を下げた。


レオポルドの優秀さで少しでも魅力出てたらいいな。


私事ですが明日(24日の朝)から旅行に行ってまいります。

小説は1日1話UPされるようにはしておりますので、途切れることは無いと思います。

28日に戻る予定ですが、それまでPC触る事はあまりないと思いますので、念のためお知らせさせていただきました。

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