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第179話 怖い人 ―S side―




パタパタとわたくしは走っていた。

姫様が倒れた。

面会中に。

ラファエル様の叫び声に駆けつけたときには、グッタリとラファエル様の腕の中で気を失っている姫様がいた。

周りを王宮騎士が囲い、慌ただしく医者を呼んでくる者と部屋までの護衛をする者に分かれるようにするため、騒がしかった。

何故姫様が……と思ってふと思い出す。

ラファエル様が走って、でも姫様に負担がかからないようにして去って行く後ろ姿を見送った後、わたくしは周囲を探りラファエル様とは反対側へと走った。


「………ソフィー殿?」

「いかがなさいましたか?」


走っている間にナルサスとヒューバートとすれ違ったが、それに答える余裕はない。

わたくしは目的の人物の気配を察知し、その方向へと走る。


「どういう事ですか!!」


ばたんっ! とわたくしは姿を消していたイヴとダークを探し出し、感知できた部屋に乗り込んだ。

そこは王宮の応接室で、ソファーに1人座っており、扉に近い位置にイヴとダークが立っていた。

わたくしが勢いよく入ったせいか、2人が一斉にわたくしに武器を向けたけれど、わたくしは怯まなかった。

それどころではないのだ。

わたくしの様子が可笑しいと後を追ってきたのだろう。

ナルサスとヒューバートの2人が私の真横で武器に手をかけ、いつでも抜けるようにしている。


「姫様への薬というのは嘘だったのですか!?」


先程わたくしが運んだお茶。

姫様の分だけに薬を混ぜるように言われた。

姫様はまだ安静にしていなくてはならないと、医者から受け取った安定剤と痛みが出ないように少量の痛み止めを混ぜた薬だと。

お茶に混ぜても成分は変わらないから、姫様に気付かれないように入れるようにと。

姫様の護衛に派遣されたレオポルド様の影だった2人だから、わたくしは何の疑問も持たずに姫様に飲んでいただけるようにお茶に混ぜた。

なのに…!!


「姫様がお茶を飲んだ瞬間に顔色を悪くされて、ラファエル様に運んでいただいている最中に気を失われました!! 姫様に危害を加えるのは何故ですか!! 何を飲ませたのです!!」


捲し立てるわたくしと、武器を構えたまま動かない2人。

睨み合っていると、咳払いが聞こえた。


「落ち着きなよ」

「落ち着いてなんて――!?」


反射的に言い返していたけれど、ソファーに座っている人物を見て固まってしまった。

にぃ――!?

出かかった言葉を慌てて飲み込む。


「………何故貴方がここにいるのですかレオポルド様!!」


ソファーに座っていたのは、来国の知らせを受けていないお兄様――レオポルド様だった。


「何故って。この国の者が不甲斐ないからだろう」

「え――」


ゆっくりとレオポルド様はソファーから立ち上がり、真っ直ぐにわたくしを見た。


「何故ソフィアが何日も寝込む事態になってるの」

「そ、れは……」

「ソフィアの負担になっている事柄に納得いく説明を求める」


レオポルド様の言葉に、わたくしは何も言えなかった。

精霊のことは話せない。

ランドルフ国以外の者には…


「しかもソフィアは病み上がりでしょ。それなのに何故貴族との面会が入るんだ。公務ならともかく私的面会希望だろう。そういうのはルイス殿が断ることだろ? 何故面会している」

「あ、あの方達は姫様を心配して…」

「心配だからって、ベッドから引きずり出して面会する? 非常識にも程があるだろう。ここの王族は貴族の言いなりか?」

「っ………」

「ソフィアもソフィアだ。自分の身体を蔑ろにしすぎている。ラファエル殿もだ。いくらソフィアが優しいからって、会いたいと言ってもラファエル殿が止めるべきだろ」


尤もな言葉にわたくしは返す言葉も無い。

はぁっと呆れたため息が聞こえてくる。


「当然お前もだ。ソフィアの身の回りのことだけがお前の仕事か?」


ハッとわたくしはレオポルド様を見る。

ジッと見つめられ、息を飲んだ。

これは――わたくしの正体を知っておられる…?


「報告は全部イヴとダークから受けている」

「なっ!?」


彼らはもう姫様の影では!?


「彼らの食事ほうしゅうは何処から出てると思ってる」

「………ぁっ」


姫様に与えられた任務が終了しても、彼らは頑なに姫様の食事ほうしゅうを断っていた。

………つまり…

未だにレオポルド様の影……


「ソフィアは頑張るからね。上に立つのが王族の務め、常に前を歩くのが王族の務め。それが教えだし、周りに頼ろうとしないのもその教育のせいでもある。性格でもあるけどね。あの性格は中々変わるものじゃない。だからこそ周りが情報を集め、フォローしないとソフィアは倒れる。お前は“昔からソフィアを見てきた”のに、何故止めない。ソフィアが攻撃を受けた時もお前は近くにいなかったな。一体何をする立場なんだお前は。お前の存在は飾りか?」

「っ……!」


全部、知られている…

わたくしの正体も。

精霊のことも。


「ここの人間が止めないなら、無理矢理でも止めるしかないだろう。薬の成分は言った通りソフィアの身体に害はないよ。血行を少し悪くし一時的に顔色を悪くさせる薬と、少量の睡眠薬を合わせた液体薬だよ。あの場からソフィアを退出させるための口実になるようにしただけだし、今頃は正常に戻ってるでしょ」

「っ……はぁ……」

「ソフィー殿!」


わたくしはその場にへたり込んでしまった。

姫様の身体に害ある薬ではなかった…

安心してしまって、身体に力が入らない。

ヒューバートがわたくしの肩を支えてくれなければ、倒れてしまっていただろう。


「………そんなに心配するのに、ソフィアの面会を断らせるように言わなかったのは何で」

「………姫様はあのお2人と仲良くなりたかったようですので…彼らも姫様を心配していて、顔を見れば双方楽になるのではと…」

「でも、ソフィアの方は少し距離置いてるじゃん」

「それは…」

「………まぁ、昔から人と付き合うときには一定の距離を取るのがソフィアだからね」


レオポルド様が近づいてきてわたくしの前に膝をつく。


「――半身なら仕事しろ愚妹」

「―――――!!」


わたくしだけに聞こえるように囁かれた言葉に、固まってしまう。

カタカタと身体が震える。

―――怖い。

レオポルド様の視線が鋭くわたくしを射貫く。

すっと今度は立ち上がって見下ろされているようだけれど、わたくしは顔を上げられなかった。


「俺の妹を必ず守れ。身も心も壊したらただじゃおかねぇぞ。死ぬ気でやれ」

「………は、い…」

「ローズも使えないな。何のために交渉してやったと思っている。色ボケしてんじゃねぇぞ」


これが、本当のレオポルド様だ。

自分が大切な者を守るためには鬼にも悪魔にもなれる。


「これからも常に俺の目があると思え。全力でソフィアを守れ。お前らの仕事だろうが」


最後はナルサスとヒューバートにもかけられた言葉だろう。


「は、い…」

「か、畏まりました…」

「い、命を懸けて…」


わたくし達の言葉を聞いて、レオポルド様は背を向けた。

視線が外れたことで、漸くわたくしは恐怖から解放される。

呼吸を忘れていたようで、気付いたときには息苦しかった。

浅い息を吐く。


「ソフィー殿、大丈夫ですか?」

「…はぁ…はぁ…」


こくりと頷き、胸を押さえ息を整えようとする。

情けない。

わたくしは精霊なのに…

ただの人であるレオポルド様に、絶対に勝てないプレッシャーを受けた。


「………じゃ、俺はルイス殿に通知を出した通り、2日後に正式なルートで入ってくるから。それまでソフィアはベッドから出すなよ。今度は――守れるよな?」


窓に向かって歩いて行っていたレオポルド様に急に鋭く見られ、ひゅっと息を飲んだ。

声は出そうになかったので、コクコクと頷くことで了承を示した。

それを見てレオポルド様は無表情を崩さず、窓へ視線を戻した。


「ま、今回はソフィアの責任もある。面会する時に注意はするがな」


レオポルド様は窓の外へと姿を消した。

ここに無断で入り込めるレオポルド様も凄いけれど、さっきまでの殺気は王族が出すものではないと思う。

わたくしは今度こそ床に倒れ込んでしまいそうだったけれど、ヒューバートに支えられているため、身体は動かなかった。


「我らは姫様の護衛に戻る」


イヴとダークは無表情で天井に消えた。

わたくし達3人は暫くその場から動けなかった。


秘密裏に来国していたレオポルド。

イヴとダークはまだレオポルドの影でした。

ソフィアの行動は筒抜けです…

次もSsideです。

次回も1つ秘密が判明します。

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