第176話 契約者と力関係
「さて、侯爵の件は取りあえずここまでにしよう。また何かあったら報告するよ」
「うん」
「それで聞きたいんだけど、森はソフィアが元通りにしてくれていたけれど、木の精霊? ジュリ、と言ったか。新しい精霊と契約したんだよね?」
「うん。あの森で一本だけ立派な木があったでしょう?」
「火山の半分ぐらいの高さだった木だね。背の高さも幹の太さも段違いだったから良く覚えている。確か源泉と火山をまるで守るかのように聳え立ってたね」
「そう。その木から生まれた精霊だって」
私の説明を聞いて、ラファエルは手を顎に付けた。
「確かに精霊はこの国のあらゆる自然から生まれるから、不思議なことではないけれど、8大属性から外れるからやっぱり特殊なのかな?」
「火精霊が言うにはあと200年くらい経てば究極精霊の仲間になれるだろうって言ってたから、将来は9大属性になるかもね」
「へぇ…」
………って、言いにくいな9大属性…
日本では普通にゲーム設定とかで木属性ってあったよね?
木精霊が生まれてから、その事をふと思ったのだ。
でもすぐにこの疑問は忘れることにした。
………だって、このゲーム世界の設定いい加減だったんだもん。
私が死んだ後に続編とか出てたりして…
それで精霊出て来てたりするのかも…
………ラファエル攻略とかあったら、やりたい。
物理的に無理だけれども…
そういえば外伝の内容未だに思い出せないのはなんでだろうか…
ここまで来たら、こういう事があったなって思い出しそうなものだけど…
………まぁ、それは今考えることじゃないな…
「あ、今も森も源泉も火山も無事?」
「うん。ちゃんと大丈夫だって。今あっちにユーグ行かせてるから何かあってもすぐ分かるよ。あと数日様子見て大丈夫だったら引き上げさせるけど」
「そっか」
よかった。
元通りに戻ったのにまた何かあったら私泣いちゃうかも…
「あ、ラファエルちょっと質問していい?」
「何? 俺に答えられることだったらいいんだけど」
「精霊の力を使うときに使う私の力って……?」
「ああ。その事ね。人間って感情の生き物でしょ」
………いきなり何…
「精神力って言えばいいかな? 精霊達に何かをやってもらうときに、契約者自身の精神力…集中力っていった方が良い?」
「………ぁぁ…」
なんとなく分かった。
「その集中力が強ければ強いほど、精霊との繋がりが強くなり、その強さによって精霊達の力の強さが決まる。簡単に説明すればこういう事」
………魔力云々ではなく、シンクロ率って事ね。
チラリとソフィーを見ると、目を合わせない。
………もぅ…
「究極精霊だとか弱精霊だとか、契約自体は誰でも出来るけど、その集中力が強く長く維持できる人間は精霊をより強くすると聞く。それは精霊達の領域だから俺が説明できるのは俺が実際にやってみた結果ぐらいだけど」
「そっか…」
「精霊自体強い者と契約すれば、元の精霊の強さは変わらないからそのまま力を使える。けれど精神が弱っていたら精霊の元の力だけしか出せないんだけど、精神が強ければ精霊の力も強まり威力も増す。精霊の訓練とかが必要ないっていうのはそういう事。大事なのは契約者である人間の鍛錬の結果だからね」
へぇ…
本当に共存って感じなんだ…
この場合、協力、と言った方がいいかもしれない。
「精霊は人間を助け、人間は精霊の力を少し強める。そんな協力の関係なんだよ。だから、相手を大事に思う者同士の方が上手くいくし、長続きする」
「なるほど…」
コクコクと頷いて納得する。
相手を尊重しないと、人間の間の繋がりだって消えちゃうしね。
本当に私達と何も変わらない1人の精霊として見て、大事にしてないといけないんだな。
「………だからね?」
「………え……」
急にグイッと顔を近づけられ、私は下がれないのに身体を引いてしまう。
「ソフィアが倒れちゃったのはそういう事! 色んな精霊の力を一晩だけで一気に出しちゃったから、精神に負担がかかってたの! だから終わった途端に倒れたんだよ!!」
「ぐっ……」
だ、だって知らなかったし!!
………とは叫べない。
ラファエルの笑顔が黒すぎるっ!!
「くそっ。俺が気を失いさえしなければっ…」
「………ぁ」
「ソフィアと一緒に出来て、負担を軽く出来たのにっ。俺、不甲斐なさ過ぎだろ」
「ラファエル」
ベッド上で頭を抱えるラファエルの袖をクイッと引く。
「………ん?」
「………ラファエルはなんで木の下敷きに…」
「ああ……あの精霊が契約精霊だと俺の精霊が教えてくれたんだけど、禁忌を犯した精霊は精神も病む。いくら1段階力が強くなるとしても、自分を律せない精霊は油断できない。それに俺達も精霊に干渉できない決まりがある」
「………精霊の住み家を荒らさないこと。精霊の命を奪わないこと…」
「そう。人間が犯してはいけない領域。止めるにせよ、慎重に対応しないと精霊を殺してしまう。暴走していて止めるためでもその命を奪うことは出来ない。何とか拘束しようとしたんだけど、相手が暴れて周りの木を倒してしまってね。精霊が辛うじて直撃だけは防いでくれたんだけど、全身峰打ち状態になってね。意識が飛んだ」
「………そぅ…」
ラファエルは1人で戦っていた。
それが悲しい…
「ソフィア達に助けられた。ありがと」
「ううん。無事でよかった…」
「もっと俺も頑張って強くなるから、あんまり先に行かないでよ?」
「私の力じゃないよ。皆に助けてもらってるから」
私が言うと、ラファエルが嬉しそうに笑う。
「そのまま、周りを頼れるようになるんだよソフィア」
「………ぁ……ぅん」
なんだか恥ずかしくなって視線を外すと、ラファエルに額にキスされる。
「もう少し眠って。次に起きたらソフィーにマッサージしてもらって少しずつ動けるようになればいい」
「ありがとう」
「もし大丈夫そうなら、マーガレット嬢とスティーヴン殿の面会の許可を出すよ」
「あ!」
そうだった。
面会したいと言われてたんだった…
「毎日面会の申し込みが来てたけど、ソフィアの体調が悪いからと許可してなかったんだ……そろそろ横になってソフィア。まだ痛いだろう?」
促されてそっと身体を横たわらせる。
その時ラファエルの裾を未だに握っていることに気付き、慌てて手を離すと逆に手を握られる。
「ご、ごめんなさい…」
「謝ることじゃないよ。さ、目を閉じて。ソフィアが起きてもちゃんと傍にいるから」
起きる前に見ていた夢を思い出したけれど、ラファエルの手の温かさが心地よく、心配はなかった。
瞼の上に手を添えられ、そのまま私の意識は遠のいた。
ちょっと甘を入れました。
難しい話ばかりだと、ソフィアが疲れますからね…
次は面会。




