第175話 最終処分の行方
こくりと薬を飲み干す。
何度も自分で飲めると言ったのにも関わらず、ラファエルは絶対に口移し以外の方法は認めなかった。
………あのね?
薬と水を持ってきてくれる際に、ソフィーとフィーアの両侍女が一緒に入室してきてるんですけど。
恥ずかしいんですが!!
どんな拷問よ!!
2人に生暖かい目で見られるのは精神的に堪える!!
飲み干したことを確認してラファエルは漸く唇を解放してくれた…
どんな羞恥プレイよ……
グッタリと私はベッドに横たわっていた。
「あれ? まだ身体に違和感がある? 薬は時間空けないといけないから、俺がソフィアの看病を念入りにしないとな…」
「元気になったな! ラファエルのおかげだよ!」
すっと素早く身体を起こし、背をクッションに預ける。
ビキッと痛んだけど、それどころではない。
甲斐甲斐しくラファエルに世話をやいてもらったりしたら、確実に何かが起こる。
「チッ」
………あ、あの……ラファエルさん?
本気の舌打ちしないで……怖いから…
「ソフィアが眠っていたのは約5日だね」
「………5日!?」
急に話し始めたラファエルにも、日数にも驚いた。
そ、そんなに消耗してたの……?
「侯爵達は、無期限の幽閉に決まったよ」
「………極刑にはしないのね」
「仮にも侯爵だからね。旧国派の中での地位が一番高かったから開示情報不足では、不用意に首をはねることは出来ないんだ。残りの旧国派にソフィアを害する口実を与えかねないし、極刑にするにもそういう国民に公開する情報をあやふやなままにしておけない。王族の勝手な思い込み、または侯爵を排除したいから偽の情報を作って処刑した、なんて吹聴が出れば国民の信頼がまた無くなって国が荒れる」
こくっと私は頷いた。
日本みたいにどこにでも防犯カメラとかあるわけじゃないし。
誰が行った、みたいな映像証拠がないのが現実。
地道に本人直筆命令書とかを探さなければならない。
武器が大量に見つかるとか…
なければ証明しようもないものね…
「そういう面倒な手続きも必要だしね。幽閉なら容疑の証拠固めの時間も取れるし、極刑への根回しの時間稼ぎにもなる。どうせなら侯爵の幽閉で旧国派の連中がどう動くかも見たいんだ。ごめん」
「ラファエルがそれでいいなら私は構わないわ。私が口をはさめる領域ではないし、謝る必要ないでしょ?」
こてんと首を傾げると、ラファエルの顔色が若干暗くなる。
「……ソフィアを攻撃したのに、目に見えての物証が何も残らないのが精霊の力を利用した悪事だから…誰が見ても明確な証拠が手に入るまで首は落とせないんだ。疑惑や実行犯として捉えることは出来るんだけどね……侯爵なんて地位をもってるから逆にやりにくい。精霊の存在はこの国では当たり前だけれど、国民は生活水準の力までしかもってない精霊しか今の世にはいないと思っているのが当たり前だし、精霊の力を使って人を…ましてや王族を殺傷目的で攻撃を行っていた、とだけ言っても国民は信じられないから……」
人間は誰でも目に見えている、誰でも知っていることが思考基準になるしね。
そうなると、学園の精霊学も改善する必要がありそうだ。
こういう事が起こせるのが精霊であり、目に見えない事によりどういう犯罪が可能か、ということも知識としてあれば、今後こういった事件があった際に、罪に問える証拠の提示が少しでも楽になるのではないか。
私はそう思った。
「侯爵が明確に殺意をもってソフィアを攻撃した決定的な証拠があの家から出てきたらいいんだけど……王族に対しての攻撃なのに、決定的な罰を与えるのに時間がかかってしまうから、ソフィアに謝ることしか出来ないよ…」
「別に時間がかかるのはラファエルのせいじゃないでしょ? 気にしなくていいよ」
「………侯爵家を潰すのは簡単なのに……捕縛された時点で横領や脅迫などの罪が明らかになってたから。ちゃんと証拠もある。あの場ではソフィアへの攻撃と国土破壊の罪で捕らえたけど……フィーリア・ロペスの自白もあったし。でも国民に対して明確に証拠として公開できる罪が横領とかでは処刑するほどの罪じゃない。自白も後で脅迫されたから、と彼女が言ったらそれまで。……歯がゆいよ」
元々私には首を突っ込む権利もなかったわけだし、ラファエルのやりたいようにやればいい。
私は結果を聞くだけだ。
王族への攻撃だからと即首を落とし、すぐに処分してしまったら……
充分開示できる証拠がない事で国民の心が離れてしまった、なんてことになったら国が沈む。
私のせいで国が沈んだ、となれば私は立ち直れなくなる…
ランドルフ国に私はいられなくなる。
それは何が何でも避けなければ。
「侯爵家には騎士を派遣したし、侯爵家を隅から隅まで捜索させてる。屋根裏は俺の影と……ごめん、勝手にライトとカゲロウ使った」
………ああ、それで影の気配なかったのね。
………でも、それならイヴとダークは何処に…
疑問に思ったけれど、今はラファエルもソフィーもフィーアもいる。
問題ないだろう。
「構わないわ。多分、私を攻撃したから侯爵家のあらゆる犯罪の証拠を意気揚々と探してるはずよ。むしろ自分からやりたいとラファエルに言って来たでしょ」
ラファエルが苦笑し、それが正解だと分かる。
「ちなみに騎士の中に精霊契約者は?」
「いない。だから精霊に関しては俺かルイスが動くしかない。俺の父は精霊契約者じゃないからルイスが王の代わりとして姿を見せても精霊の力を使うことは出来ないし、騎士に捕縛させようとして精霊で反撃されたらこっちには防ぐ術はない。あの時フィーアはまだ侯爵家にいたから、フィーアの精霊をまた悪用されたら困るし、可能性があるなら無視できない。準備をされる前に乗り込めてよかったよ」
だから侯爵家に乗り込むとき、ルイスは騎士を手配しなかったのね…
しようと思っていれば私と一緒に1度王宮に戻ってたはずだしね。
精霊の力は便利だけれど、こういう時は不便だと気付かされる。
「そう…1人でもいてくれたら一緒に騎士も連れて行けるのにね…」
「俺が生まれてからこういう精霊の事件は初めてだからな……精霊と本当に共存関係だった昔は何度かあったみたいだけど、今の世の認識は昔みたいに深くないから、今後同様の事件があった場合に通常の刑みたいに出来ないところが悩みどころだよ……剣振り上げて刺しに来た、みたいな複数の目に映る犯行じゃなかったからね……精霊が姿を消すようにさせてしまった人間の愚かさが原因だから文句は言えないけど…信頼はそう簡単に回復するものじゃない」
ラファエルの言葉に私は頷いた。
裏切ったのは人間側。
その人間側の王族であるラファエルや私が動かないといけない案件よね。
「後はルイスも動いてくれるし、もう侯爵達は悪事を働けないしね。フィーアの身分も取りあえず剥奪。侯爵家を潰したからね。その名前を今後名乗れなくなる」
「心得ております」
ラファエルがフィーアを見ると、フィーアは直接目を合わせないように少し俯いたまま了承する。
「何処かに養子にでもしてもらおう。でなければソフィアの傍にはいられないしね。候補を考えておくよ」
………それも厄介だわ…
貴族じゃないと王族の侍女にはなれない。
ソフィーの場合はサンチェス国から来た私の侍女ということで、この国の人間に口出しできるものではない。
そっと私は息を吐いた。
ちょっと長くなったので、区切りがいいここで一旦切ります。




