第173話 侯爵家没落
「ぶ、無礼な!! いくら他国の王女だとはいえ、こんな事が許されていいわけがない!! 王太子だったらちゃんと罰を下せ!!」
「そうですね。ちゃんと罰を下しますよ」
ラファエルがニッコリ笑い、ロペス侯爵が徐々に自分に有利になりつつあると勘違いしたのか、口角が上がっていく。
「フィーリア・ロペス侯爵令嬢。サンチェス国王女ソフィア・サンチェスを害そうとした傷害及び国の大切な土地である森への放火、精霊に対しての非道な侵略行為など諸々合わせ罪人として捕縛させてもらう」
「なっ!?」
チラッとラファエルに見られ、私は手をフィーリアに向けた。
「木精霊、植物拘束」
呟いた途端に、フィーリアの座り込んでいる周囲から蔦が勢いよく何本も飛び出し、フィーリアを動けないよう拘束した。
「ど、どういう事だ! 私はその女を!!」
「ソフィア・サンチェス王女はこの国を豊かにする手伝いをしていただけだ。更に森の火事を終息させてくれたのは他でもない彼女だ」
「は!?」
「彼女はこの国で誰も出来なかった精霊と契約を結んだ」
ハッとロペス侯爵は闇精霊を見た。
「その彼女がもし罪を犯しているのであれば、私ではなく精霊が罰を下すだろう。彼女はその身をもって潔白だと証明できる」
「だ、騙されてるんだ!! 精霊は他国王女が契約できるものではない!! この国の優秀な者が選ばれるんだ!! 大方精霊を脅して無理矢理契約したのだろう!!」
ざわりと私の周りの空気がザワつき始めた。
………ぁ、これ放って置いたらヤバイやつだ。
「………ロペス侯爵。それ以上わたくしの精霊を侮辱しないでいただきましょうか。でなければ、わたくしの精霊が怒りで貴殿を害しかねません。精霊が精霊を操る事は禁じられているでしょうが、例外もあることはお忘れ無いよう」
「ふんっ! 小娘が偉そうに! 自分の精霊の力を過信しているのか! 精霊はな、人の思いのままだ! 契約した時点で契約者の下僕だ! だがそれで自分が強くなっただとか偉いとは思わないことだな!!」
………どの口が言っているのだろうか…
「大層な力を持っているのだろうが、この国で1番強いのは究極精霊だ!! たかだか中属性の精霊を1匹や2匹従えたところで何になる!!」
ぶわっと私の周りに各種の属性色が溢れ、次の瞬間ロペス侯爵の周りに私の精霊が全員人型で立っていた。
彼に向けてそれぞれ手の平に力を具現化させ、いつでも放たれる状態になっている。
………ぁ~ぁ…
闇精霊もいつの間に移動したの…
「ひぃ!? な、なんだこいつらは!!」
………尻餅ついたままで立派な口上していたロペス侯爵が鼻水垂らして後退していくのは無様でしかない。
「説明する前に貴殿がご自分で仰ったでしょう? この国の精霊の最上位種ですよ」
「………は…!?」
ラファエルに言われ、ロペス侯爵は目を見開き、鼻水を垂らしたまま私を見てきた。
………いや、見ないで。
気持ち悪いから。
「彼女を侮辱した貴殿を、精霊達は許さない。その身で味わってみますか? この国の精霊の長達を敵に回したことを。長は同種の精霊を全てここに集めることが出来ます。ランドルフ国の常識ですよね。契約している精霊さえもその気になれば命令し、従えることが出来ます。さぁ、貴殿はその攻撃を受ける勇気があるのでしょうね?」
どたんっとロペス侯爵はその大きな身体を後ろに倒した。
………いや、気を失って後ろに倒れた、だね。
「………うわぁ……これぐらいで倒れるのにあんな啖呵切ったんだ?」
泡を吹いて気絶している侯爵を見て呆れた。
「裏でふんぞり返るのだけは得意なんだよ」
「………はぁ。皆もういいよ。私は大丈夫だから」
パンパンと手を叩いて、彼らの意識を私に向ける。
『………だがこいつは死に値する』
『精霊達の森を焼き払い、精霊に呪いの首飾りを付けた者だろう』
『他人の精霊を操った』
『こういう奴は生きる価値がない』
「皆の言い分は分かるけど、その人は人であって精霊ではないわ。精霊じゃない者を罰する権利は貴方達にはないでしょう。人は人の理で裁かれる。貴方達が行ってしまえば、理を犯した罪でお咎め無しには出来ないわよ」
私が自分の下を指差すと、精霊達は渋々といった感じで、私の中に姿を消した。
「この時をもって、ロペス侯爵と、フィーリア・ロペスは国家反逆罪の罪で拘束する。さらにロペス侯爵はその地位を剥奪する。使用人は本日中にこの家にある私物などあれば全て持ち出し出て行くように。ロペス侯爵の関係書類などは一切持ち出すことを禁ずる! ………隠そうとするなよ。俺の精霊が全てを監視する」
そういってラファエルの精霊が全て姿を現した。
「ロペス侯爵家の使用人は全てガルシア公爵家へ移動するように」
え……
後ろを見ると、マーガレットと目が合い、会釈される。
………私がいない時に打ち合わせていたのだろうか…
ガルシア公爵家で再教育とか…?
「ソフィア、侯爵達を王宮へ運べるかい? 俺はこの場に留まらないといけないから、先にルイスと王宮へ戻って牢に拘束して欲しいんだ」
「分かった。フィーアももういい?」
「ああ。連れて帰ってやってくれ」
「ありがとう」
私がフィーアに視線を向けると、フィーアは真っ直ぐにこちらを見ていた。
「フィーア、準備しておいで。フィーアの帰るところは私のところでしょ」
「は、はい!!」
フィーアが満面の笑みで2階へと走って行った。
「ははっ。フィーアにすっかり懐かれてるなぁ」
「あら。私は従者にだけは好かれる自信があるわ」
「それダメなやつだよ」
ラファエルが苦笑するけど気にしない。
「では、お先に失礼いたしますわね。ラファエル様」
「うん」
フィーアが走って戻ってきたのを確認し、私はラファエルより一足先に屋敷を出た。
マーガレット達も続けて出てきた。
「ソフィア様」
「何?」
「明日、改めて謁見の申し出をさせていただいてもよろしいでしょうか」
振り向くと、マーガレットとスティーヴンが硬い表情で私を見ていた。
………究極精霊のせいかな。
「謁見のお話は、ラファエル様を通して下さいませ。わたくしはラファエル様が許可した場合のみ王宮でお会いします」
「………畏まりました」
マーガレットが引き下がったのを確認し、私は背を向けた。
チラチラと人が増えて侯爵家の様子を伺っていた。
「ソフィア様」
ルイスが侯爵家の門の前で私を呼んだ。
彼の後ろには王家の家紋がついた馬車が止まっていた。
………いつの間に呼んだんだか…
「後ほどガルシア公爵家の馬車が到着するでしょう」
「ご配慮ありがとうございます」
マーガレットの声と、彼らが頭を下げるのを気配で感じた。
「フィーアもおいで。道中の話し相手になって」
「畏まりました」
「ルイスは?」
「私は後方で侯爵達が逃げないように見張っておきます。馬はありますので」
「分かったわ」
私はルイスに手を貸してもらって馬車に乗り込み、フィーアも後から乗ってきて扉が閉められる。
ちなみに侯爵達は馬車の後ろに、木精霊の拘束で括り付けられている。
………いい見世物だな…と思う。
馬車はゆっくりと走り出し、私は王宮へと帰路についた。
………疲れたな……
気が抜けたのか、私は途中で眠ってしまった。




