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第172話 言い逃れはさせません




「じゃあ、さっさと終わらせるか」


ラファエルの言葉を引き金に、私達はロペス侯爵家の正門から堂々と踏み込んだ。

門番が戸惑い、止めていいのかいけないのか迷っている間に、ガンッとラファエルが鉄格子で出来た両開きの門を蹴破った。

………うわぁ…

趣味悪っ

まるで幽霊屋敷の門のように、ガーゴイルみたいな気持ち悪い像が石塀の上に並んでいる。

公爵家のように、ロペス侯爵家もコンクリートみたいな石造りだ。

屋敷の扉は木製で、ソレもラファエルは遠慮無く蹴破っていた。

………強行突破過ぎだけど…

てててっとラファエルの後を小走りに追いかけながら思う。


「何事だ!」


侯爵家の使用人が次々と出てくる。

正面に2階へ上がる階段があり、赤い絨毯が敷いてある。

中2階部分に踊り場があり、そこに出掛けようとしていたのか、唖然と見下ろしてくるぽっちゃり系の中年…初老? 男性がいた。

背後には執事だろう男が上着を手に持っている。

天井は……目算で約10メートルくらいだろうか。

豪華なシャンデリアが明々と屋敷内を照らしている。

………窓いっぱいあるんだからカーテン開けなよ勿体ない。

階段、2階の吹き抜け、共にキラキラ光る金の手すり。

………何?

この国の贅沢の象徴って全部金色にしないと気が済まないの?

………早くこの家出たい…


「やぁ、ロペス侯爵。邪魔するよ。出掛けるみたいだけど、私の用件を先に済まさせてもらうよ。娘2人も同席を要求する」

「な、何を仰いますか。い、いきなり踏み込んできて! こ、このような事、横暴すぎるでしょう!」

「緊急事態なものでね。それとも何かな? 私がわざわざ貴殿を王宮まで連れて行かないといけないのかな?」

「それはっ!」


ロペス侯爵が口ごもり、使用人達が顔を見合わせている。


「ラファエル様、ソフィア様!」


2階から声をかけられ、見上げるとフィーアが手すりから身を乗り出していた。


「おはようフィーア嬢。フィーリア嬢と共にロペス侯爵と話がしたいんだが、いいかな?」

「畏まりました。フィーリアを呼んで参ります」

「こ、こら! フィーア! お前は何を勝手なことを!!」

「わたくしは王族であるラファエル様のご命令を聞くべきだと思いますが。それともお父様の方が立場が上なのですか?」

「ぐっ!」


………おお!?

フィーアがなんか強気になってるぞ!?

………私達がいるから?

…違うか。

チップのせいだろう。

暫く待つと、フィーアがフィーリアを連れてきた。

………が、フィーリアは頭からすっぽりとフードをかぶって顔が見えないようにしている。

どうした…


「フィーリア嬢。こちらへ来て顔を見せてくれないか」

「………」


ラファエルが言うが、彼女は動こうとしない。

そんなフィーリアをフィーアが無理矢理引っ張ってきて、階段下まで降りてきた。

こうなったらロペス侯爵も降りてくるしかない。

渋々といった感じで降りてきた。


「さて、昨夜なんだが火山近くの森が焼けてね」

「え!?」


フィーアだけが純粋に驚いた。

ロペス侯爵は視線を反らし、フィーリアはビクッと肩をふるわせた。


「精霊達が暴走していた。あの森にいる火の精霊達は森を大切にし、昨日まで綺麗に管理してくれていた。なのに誰かの契約精霊に森に火を付けられて暴走したようなんだ」

「そ、それで森はどうなったのですか!? 被害は大きいのでしょうか!?」

「大丈夫。もう消火は終わってるから」

「そうですか…」


ホッとするフィーア。


「それでね? 不思議なんだけど、森に火を付けた契約精霊を調べると――契約者はフィーリア・ロペスになってるんだけど、何か言い分は?」


すぅっとラファエルが目を細めた。


「そ、そんな! 何かの間違いです!!」


大袈裟なほど大声で叫んだのはロペス侯爵だ。


「精霊に間違いがあるのか? フィーリア・ロペスの精霊はこちらで捕らえてあるんだが?」

「な、ならば! 精霊が勝手にやったことだ! フィーリアがそんな事する必要ないだろう!!」

「ああ。理由は分からない。だが、森が燃えたことは事実だ。精霊は契約者以外の指示は聞かない。当然精霊はこの国の自然から生まれたから自然破壊など望むはずもない。だから、精霊が自然を破壊したのは契約者の指示であったことは間違いない」


ラファエルにジッと見つめられたロペス侯爵はたじろぎ、冷や汗をかき始めた。


「もし精霊が勝手にやったなら契約者になんら影響はない。フィーリア・ロペス。そのフードを取れ」


最後は命令口調で指示した。

が、フィーリアはギュッとフードを握りしめ、離そうとしない。


「ほ、本当にフィーリアの精霊かどうか証拠はあるのか!? せ、精霊は契約したら見えないはずだろう! 大方、こちらを不正に陥れるために仕組んだんだ!! やはり王太子は信用に値する人物じゃなかったんだ!!」

「………はぁ。ソフィア」

「よろしいのですか…?」

「ああ。悪あがきなんて、ずっと見ているのは不快だからな」


私は右手を上げた。


闇精霊ダークネス


ゴォッと私を黒い煙が包み込む。


「ひ、ひぃぃぃい!!」


ロペス侯爵が尻餅をついた。

………あ、演出しすぎた?

闇精霊ダークネスが私の隣に立つ。

黒のストレートの髪が腰辺りまであり、美形なんだけど顔色が悪いから何処のインテリだと突っ込みたい。

身長は高く、筋肉質ではないから余計に不健康そうだ。


「フィーリア・ロペスの精霊を出して。拘束は解かないように」


私の指示で闇精霊ダークネスが精霊を出した。

あれから身体全体の爛れは止まったようだけれど、私が最後に見た姿と変わっていない。

痛々しい…

腕と腰を闇の力で拘束されている。


「………さぁ、証拠はここにあるぞ。精霊としてやってはいけない禁忌に触れた精霊だ。そして、その精霊に命令した契約者にも報いが返る」


ラファエルの言葉にハッとロペス侯爵はフィーリアを見る。

ぷるぷると震えているフィーリアだけれど、自業自得だ。


「………この精霊はあろうことかラファエル様を生き埋めにしていました」

「………!?」

「それも貴女の指示ですか。王太子暗殺未遂として、貴女を拘束させて頂くことになるでしょう」

「そんな!? わ、わたくしはお父様の指示で森に火を付けてソフィア・サンチェスの改国の法案を潰せと命令されただけよ!! そうなればソフィア・サンチェスは国に帰らざるをえないから、邪魔者がいなくなったらラファエル様に近づけてやるって!! ラファエル様はわたくしの夫となる方ですもの!! 殺そうとするわけ無いじゃない!!」


フィーリアの言葉に、この場にいたラファエルと私を除く全員が一歩引いた。

………なんていうことを叫ぶんだ。

これで言い訳は出来なくなった。

そもそもなんで森が焼けたら私は帰らざるをえなくなるの?

…森……もしかして源泉の方…?

源泉が壊されて国が熱湯に沈んだとしたら、アイデアを出した私が責任を取る事になるとか……?

………まず破壊した方が責任とらないといけないでしょうに…

っていうか……自分勝手な言い分に一言言ってやらなければ気が済まない。

チラッとラファエルを見ると、気付いたラファエルが仕方ないといった風に笑った。

許可を貰えたと解釈しよう。


「………まず初めに、思い違いも甚だしい事をお教えしてさし上げますわ」


カツカツと足早にフィーリアに近づき、彼女のフードを引っ張り下げた。


「ひっ!?」


声を上げたのは誰だったか分からない。

フィーリアの姿を見た者は、彼女の傍から少しでも離れたくなったのか、身体を後退させていく。


「ラファエル様の婚約者はわたくしであり、一生誰にも譲りませんからそのおつもりで」


彼女の顔は爛れ、髪の毛は抜けていっており、醜い老婆のようになっていた。


「それに、ラファエル様の不利益になるようなことをやり、国の共存関係でもある精霊の住み家を壊して、どの面下げてラファエル様の隣に立つおつもりだったのですか?」


彼女の見た目は責める材料にしない。

それはその事で蔑まされてきた私が1番その辛さを分かってるから。

見た目はどうすることも出来ないのだ。


「国の頂点に立つ方がどれ程責任を持たなければならないのか、分かっているのですか? 国民は道具じゃないのですよ。1人1人生きているんです。貴女と何も変わらない1つの命なのですよ! 契約精霊相手に思いやれない貴女が、どの面下げて王太子妃になろうというのですか!!」

「………っ! あ、あんたなんかに言われる筋合いないわ!」


ブチッと私の中で何かが切れた。


「私の言葉を素直に受け入れられていない時点で、貴女はラファエルに受け入れられないのよ!!」

「!?」


私はフィーリアの胸ぐらを掴んだ。

やってはいけないことだと、頭の隅で思ったけれど、止められなかった。


「ラファエルは国民1人1人を大切にしている! 国民を助けるために、あんた達が贅沢三昧して貧困していた国民のために、サンチェス国に頭を下げて借金してまで食を用意した!!」


最初に頭を下げたのは私だ。

でも、それは些細なこと。

ラファエルが国を思って行動したことが、実を結んだ。

これはラファエルが称賛される事であり、私は繋ぎを作っただけ。


「私のアイデアを元に国民が過ごしやすい国にするために奮闘しているラファエルに対して、貴女はやってはいけないことをしたのよ!! 民のために動かなきゃならない貴族の立場でしょう! なのに国民に目を向けることなく学園の貴族平民女子をラファエルに近づけて私を遠ざける、私を攻撃してラファエルから離れさせようとする、共通規約を学び直すことなく、正々堂々と私と勝負しない貴女が、私に勝てるわけ無いでしょうが!!」

「っ…」

「少しでも国民に目を向けたわけ!? 私に対抗しようと国を良くするアイデア出したわけ!? そんなわけないわよね? 貴女は逆に国に反旗を翻して森を焼き払い、もう少しで火山噴火、源泉破壊して国を沈めるところだったんだから!!」


私は許せなかった。

国民が危険にさらされるような事をした彼らが。

だから、口は止まらなかった。


「王太子妃は貴女の思い通りの、ましてや貴女の父親の思い通りの国にする為にある地位ではない!! 国民の為に存在する者なのよ!! それを貴女達は私欲の為に利用しようとしていた! ふざけないで!! 国民を犠牲にし、その際に手に入れた金品で贅沢三昧している者達にそんな資格などあるはずがない! 貴女達の我儘で、国を亡ぼすな!!」


フィーリアの目に力がなくなり、私が手を離すとズルッとその場にへたり込んだ。

そして漸く頭が冷静になってきた。


「………申し訳ございませんラファエル様…貴族令嬢に対して手を上げてしまいました。サンチェス国王女としてあるまじき行為でございます。処分をお受けします」


ラファエルに向き直って頭を下げる。


「ソフィアの行動は理解できる。私もソフィアがしなければやってしまっていた。今回は不問にするよ」

「ありがとうございます」


お咎め無しでほっとする。

………本性丸出しでやってしまった…

反省しながら元の位置に戻って、ラファエルに場を譲った。


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