第171話 何もかもバレていました
私が湯浴みをして身なりを整え、火精霊に水精霊との合流をと連れていってもらったロペス侯爵家から少し離れた場所。
人目につかないところで私は下ろしてもらった。
ゆっくり火精霊の背から降りると、茂みから皆が出てくる。
その先頭にラファエルの姿を見て、私は考える間もなくその胸に飛び込んだ。
「ラファエル!」
「ソフィア……」
憔悴しているようなラファエルに抱きつくべきではなかったと思う。
でも、抱きついてちゃんと体温を感じたかった。
「よかったっ……目が覚めてたのね…」
「ああ。心配かけてごめん」
ラファエルが私の頭を優しく撫でてくれる。
別れてから何があったのかは分からないけれど、ラファエルが無事ならその他はどうでもいい。
「ありがとう。森を元に戻してくれて」
「私じゃないよ。精霊達が――」
………あれ?
元に戻った事……何で知って…
ゆっくりと顔を上げると、ラファエルが微笑んでいるのが目に入った。
………あ……
これヤバイやつ…
目が怖い…
「………でもソフィア。俺はお前に無茶して欲しいなんて一言も告げてないよな?」
「………です、ね…でも…」
「空飛ぶ龍……水精霊、だったっけ? から飛び降りるなんてどういう事?」
「あ…の……そ、の…」
「その後精霊に土地を綺麗にしてもらって?」
「………」
「木を生やして?」
「………」
「雨降らせて、太陽の光のようなもので森を再生させて?」
まるで見てきたようにスラスラとラファエルの口から言葉が出てくる。
慌ててラファエルの後ろにいるルイス達を見ると、首を横に振られる。
それは、説明はしていない、という意味でいいのだろうか。
「彼らに聞いたんじゃないよ」
「え…じゃぁ……」
「ソフィアが飛び降りたとき皆騒いだでしょ。それで1回目が覚めたんだ。あとはユーグの目を通して状況見てた」
ユーグ!!
余計なことを!!
「森の再生まで見届けてもう一度寝てしまった。日頃の疲れも出たのか意識を保っていられなかったからね」
フッとラファエルが息を吐き、私を少し離れさせた。
「いっ!?」
みよ~んとラファエルに両頬を引っ張られる。
「このお転婆王女め。いくら精霊がついているからといって無茶しすぎだ! 俺の心臓止める気か!」
「ご、ごみぇんなひゃぃ!!」
「今度やるときは必ず俺連れて行けよ!? ランドルフ国のことなんだ! ソフィアばっかりに負担をかけさせるために俺はお前を選んだわけじゃないんだからな!」
「で、でみょ(でも)らひゃえるけぎゃして(ラファエル怪我して)いひきにゃくて(意識無くて)」
「起こしていけばいいだろ! 俺も精霊持ちだ! 2人でやれば負担減るだろうし! 精霊の力を借りるのも契約者であるソフィアの力も必要なんだぞ!」
「ひぇ(へ)?」
何ソレ!?
聞いてないんですけど!!
『姫様の知っている言葉で言い表しますと、MPと言えば分かりますでしょうか?』
王宮からの解説ありがとうソフィー。
私を通して聞いてるんだね。
………って、違うわ!!
魔力って事!?
私の中にそんなものあったんかい!!
全然そんな気配なかったんだけど!
私も疲れているって実感無いし!!
「聞いてるの!?」
「ひゃ、ひゃい(は、はい)」
「まったく…」
ようやくラファエルに頬を解放された。
い、いたい…
ヒリヒリする頬を押さえる。
せっかくソフィーが綺麗にしてくれたのに、化粧崩れてないかな…
「ソフィアが無鉄砲行動をしないようにするのにはどうしたらいいのかな」
「ソレは無理だと思います」
「姫様は昔から変わらないから」
「ライト! カゲロウ! 余計なこと言わない!!」
「「はーい」」
ぐっ……ライトまで間延びした返事を…!!
ば、馬鹿にしてる!?
私、主なのにっ!!
「ら、ラファエルの国、修復しただけなのに…」
理不尽…
「それは感謝してるけどねソフィア。俺達は前から言ってるでしょ」
「………え?」
「自分で出来るからと言ってソフィアは誰も頼ることなく1人で解決しようとする」
「………………………ぁ……」
「今回は俺が倒れちゃったから仕方ないとしても、次がないことにこしたことはないけれど、あれば俺と共に解決すること! 分かった?」
「はい、ごめんなさい…」
ションボリして項垂れると、ラファエルが頭を撫でる。
「改めて、ありがとう。森を生き返らせてくれて」
「ラファエル…」
「1人で、と言っても、ソフィアは精霊と協力してやってくれた。精霊だから頼るんじゃなくて人も頼ってよ?」
「うん…ありがと」
「変なソフィア。お礼を言うのはこちらなのに」
クスクスとラファエルが笑い、私も漸く笑うことが出来た。
「でもよかった! ラファエルが無事に意識を取り戻して! あのまま意識失ったままだったら私、ルイスが止めるの無視して精霊に侯爵家を文字通り潰せと命令するところだった」
「目が覚めてよかったよ。そんな事すればソフィアが国に返されるじゃないか。俺からソフィア取り上げられるところだった」
「規約違反になっちゃうからね。でも許せなかったもん」
「ああ、俺はソフィアに愛されてるね。そうだろうルイス」
「惚気はよそでやってください。私を巻き込まないように」
ニコニコ笑って、嬉しそうに同意をルイスに求めるラファエル。
「それぐらい聞いてくれてもいいだろ? 俺倒れたし」
「かすり傷でした。あれぐらいでどうこうなるような身体してないでしょう元不良王子」
「元不良言うな!! ソフィアに嫌われたらどうする!」
「? 私はラファエルが不良でもそうでなくても、ありのままのラファエルならそれでいいよ。だってそれがラファエルだもん。私がす――」
バッと私は口を押さえた。
今何を言おうとした私っ!!
これから侯爵家へ殴り込みに行くところで、甘い空気に流されてどうする!!
「“す”? 何?」
嬉しそうに顔を近づけてこないで!!
自分が言おうとした言葉に羞恥心と状況に混乱してるんだから!!
「さ、さぁ侯爵家に行かないとね」
「ソフィア、俺はまだ君の言葉を聞いてないけど?」
「さ、さっきまで倒れてたんだから、私の言葉よりさっさと解決して休むことが先でしょ!?」
「え~……でも今聞いておかないとソフィア、後で言ってくれないでしょ。そんな事言ったっけ? ってとぼけるんだから」
よ、よく分かっていらっしゃる…!!
「さぁ、ソフィア?」
「ぐっ……」
「早くしないと犯人外出しちゃうよねぇ…?」
「うぅっ…」
「………ソフィア様、早く言って下さい……これ以上先延ばしには出来ません」
ルイスが呆れた表情で言う。
援護するならこっちにして!!
切実に思うけど、ラファエルから逃れられない…
「“だってそれがラファエルだもん”の後は?」
「~~~~~っ!! わ、私が好きになったラファエルに変わりない…から……」
かぁぁぁっと顔が真っ赤になっていくのが分かる。
ラファエルが満面の笑みになり、ルイスがやれやれと肩をすくめる。
………なんだこの状況。
そして…
「………ラファエル様とソフィア様は、こういう御方だったのですね…」
ほのぼのした空気が一瞬で変わった。
ハッとして私はラファエルの陰に思わず隠れてしまった。
そうだった。
ここにはマーガレットとスティーヴンもいたんだった…
やってしまった…
きっと失望される…
「ああ、よかった。俺も本性出せそう」
「ちょっとスティーヴン!!」
「だって、ガッチガチの王太子と王女って逆に信用できねぇし」
「砕けすぎよ!!」
………あれ?
そっと2人を見ると、なんだか彼らもほんわか雰囲気で…
………なんで?
「ではラファエル様、ソフィア様、先に問題を解決しに行きましょう」
ルイスの言葉で私達は促される。
………マーガレットとスティーヴンは私とラファエルのありのままを受け入れてくれた……?
その答えを聞くのは、先になりそうだった。




