第170話 優雅な空の旅、ではありません
生き返った森を見続けていると、すぅっと火精霊の隣に水精霊が降下してきた。
………やばい。
水精霊の方から殺気がきているようだ。
ライトかなぁ。
ルイスかなぁ。
あはは~……
「木精霊、平原へ置いてもらった木は、王宮まで運んで更に薪の大きさに出来たりする?」
『可能です!』
「少々お待ちをソフィア様」
………あっれ~?
ルイスが敬語に戻ってるよ?
「何?」
油断して私はルイスを見た。
………ぁ、黒い笑顔だ。
ルイスの表情を見た瞬間に、私は固まってしまった。
「ここにあったのは立派な木ばかりでした。燃えてしまったとしても上から見ていた限り、使用できそうな箇所は多く残っていたと思います。建物修理などで使用できる大きさかどうか見定めてから一考して頂ければと」
「あ、はい…」
コクコクと私は頷くしかなかった。
「木精霊、そういう事だから、まずは王宮まで運ぶだけにしてくれる?」
『はい!』
木精霊は笑顔で飛んでいく。
あ、私も一緒に連れて行って欲しい。
切実に思った。
「ら、ラファエルの意識は!?」
「まだ眠っておられます。相当消耗したのだと思います」
「そう…」
ホッと息をつくと同時に、ルイスの…ついでにライトの視線からどう逃れようかと考えていた。
「あ!」
その時、唐突に思い出した。
私が出した声で、ビクッと皆が反応するけどそんな事に構っていられなかった。
「火精霊火精霊!」
ペしペしと火精霊の背を叩く。
『痛くはないが止めてくれ。なんだ』
「源泉!! 無事かどうか見させて! 源泉の場所まで乗せてって!!」
私の言葉に皆もハッとして、火精霊を見る。
『分かった』
火精霊が動き出し、水精霊もついてくる。
『人が立ち入れるような温度じゃない。上空でも熱気が凄い。少し離れたところでいいか?』
「ええ」
火精霊が連れて行ってくれ、私はその源泉の姿を初めて見た。
美しい湖のような透き通った水面。
湯気が立って見えにくいが、その透き通っている水に私は視線を奪われた。
底まで何十メートル、何百メートルあるのだろうか。
周りは石で覆われている事から、人工的に作られたのではないかと思う。
それか、ラファエルがユーグに頼んで精霊達とやったのか。
分からないけれど、取りあえず源泉は無事だと分かり、息を吐く。
「火精霊、火山も無事?」
『大丈夫だ。噴火の心配は無い』
「そう。じゃあ、王宮へ戻ってくれる? 水精霊も」
私の言葉に2人はゆっくりと旋回し、王宮へと向かった。
帰りはゆっくりと周りの景色を見る余裕が出来て、優雅な空の旅になる。
………朝日が眩しい…
夜通し対応をしていたようだ。
まだ誰も起きていない時間だろうけど、出来るだけ人がいないところを通ってもらう。
『闇精霊、ロペスの精霊はどうしてる?』
『今は大人しい。契約者には返さなくていいのだろう?』
『ええ。死なないように適度に介抱しておいてもらえる?』
『分かった』
私が視線を前に向けると、綺麗な景色が台無しになっていた。
空中を漂う木木木木木。
………うん、まぁ、私が頼んだことだけれども……
残念だ。
けれど改めてランドルフ国を上空から見れたことで、私のアイデアが採用され気候は変わらずとも過ごしやすくなっていることは、こうして上空から見て雪がある場所が殆ど無いことで証明されている。
やっていることが間違っていないことを改めて分かり、私は静かに旧国派――ロペス侯爵家に対しての怒りを募らせていった。
自国の森になんて事をするのか。
源泉が溢れれば、国が沈むことになっていたかもしれない。
精霊を悪事に使用するなど言語道断。
彼らは便利な人形や機械じゃない。
彼らもここで生き、過ごしているのだ。
感情もある。
ラファエルが目覚めなければ、ルイスに徹底的に叩き潰してもらわないと。
私はこのままロペス侯爵家へ向かうつもりでいる。
早いところ処理しなければ、彼らは更なる罪を犯し、国を滅茶苦茶にしてしまう。
『姫様』
私がジッと考えていると、頭の中にソフィーの声が響いた。
王宮に待機させているはずなんだけど…
『ロペス侯爵家へ向かうのであれば、1度こちらにお戻りを』
あ、思考読んでたのね…
心配かけちゃってたね。
『どうして?』
『………そのお姿で行かれるつもりですか?』
ソフィーの言葉に私は視線を自分に向ける。
………あ、私ドロドロのベタベタで全身濡れ鼠。
更に私ジャージもどきじゃん……
『………お湯、沸いてる?』
『準備しております。きちんと王女仕様のドレスに化粧品も用意しておりますよ』
『あ、うん……ありがとう……』
取りあえず私は一足先に戻る必要があるようだ。
「ルイス、私は1度先に王宮に戻って着替えて来ます。水精霊でマーガレット嬢とスティーヴン殿を送り届けて後で合流を――」
「ソフィア様」
ルイスに声をかけていると、マーガレットが割り込んできた。
「無作法をお許しください。勝手を承知で、わたくしとスティーヴンも最後までご一緒させてくださいませ」
「………何故です? ここまでお付き合い頂いたことは感謝しておりますが、この先は王族の仕事です」
「心得ております。けれど、犯人の元へ行くならば、証人としてお連れください」
「………証人、ですか」
「はい。焼けた森は精霊に直して頂きました。相手が証拠を見せろと言ってこられても、見せられません」
まぁ、森を焼き払ったことは証明できないよね。
「実際に目にしたわたくし達をお連れください」
………そんな事のためについてきてもらった訳じゃないんだけど…
「………罪を犯している精霊を捕まえておりますが」
「それでも言い逃れをされるかもしれませんから」
決定的な証拠にはならないかもしれないから、有り難い申し出かもしれないけど…
「………判断はルイスに任せます。ラファエル様が目覚めない以上、ランドルフ国の事件を糾弾する責任者はルイスですから」
「連れていきます」
ルイスに丸投げすると、即答される。
………ですよね。
「では、わたくしは1度身を整えるために王宮へ先に戻ります」
「はい」
どちらにせよ、私が行かないとロペスの精霊は出せないし。
火精霊にスピードを上げてもらい、王宮へと急いだ。
次はついに対決ロペス侯爵家!
の、前に一息つかせます。




