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第17話 私はサンチェス国王女です




民に食べ物を配り終わり、数日後。

ラファエルは民のことで毎日やることがあるそうで、部屋にはあまり来なくなった。

大変なことは分かっているから、私も寂しがってはいられない。

私も出来ることがあるなら手伝うと言ったのだけれど、他の王子や王に見つかったら面倒になるからと、王宮には連れて行ってはくれなかった。

………いいのだろうか?

ここに来てから約二ヶ月が過ぎようとしているのに、私は彼の家族に挨拶もしていない。

理由は分かっているけれど、何だかモヤモヤする。

そんな心配をしている時だった。


「姫様!」


突然バッと目の前にカゲロウが現れた。

焦っている様子に、私は眉を潜めた。


「………どうしたの」

「婚約者様が他の王子に絡まれててピンチだよ! ライトが助けようかどうしようか姫様に聞いて来てって!」

「なんで揉めてるの?」

「えっと……確か、民に食べ物が行き渡っているのは何でだ。何か金を生む方法を見つけたんだろ。情報を寄越せ。金寄越せ。とかだったと思う」

「………バカなの? で? 武力行使してるって訳ね? ライトが割り込もうか聞くって事は」

「うん! 婚約者様を部下で囲んでる」

「………本当にどうしようもない。カゲロウ、私をラファエル様の元へ連れていって」

「え……でも……」

「早く! 全速力で!」

「わ、わかった!」


カゲロウが私を抱え、窓から飛び出した。

安全性も何もない、全速力だ。

時速50kmはあるだろうスピードに、私は目を閉じた。

この小さい体でどうしてこんなスピード出るのか不思議だ。

これがゲームだからなのだろうか。

有り得ない事が現実。

でも自分で頼んだのだ。

文句は言えない。

それに、ラファエルを失えない。

こんな形で王宮に行くことになることは思わなかったけれど、誰も味方がいないところにラファエルを置いておけない。

それが王女としてなのか、女としてなのかは分からない。

けど、のうのうとあの部屋に居続けることは出来ない。

私はすぐに王女の仮面をかぶれるように、気持ちを落ち着かせた。

わずかな時間で王宮に私を運んでくれたカゲロウに感謝し、私は王宮に足を付けた。

前方から騒ぎが聞こえる。

ゆっくりと、優雅に歩く。

背を伸ばし、顎を引く。

何があっても表情は崩さぬように。

教育係に教わった王女の立ち姿を心の中で唱えながら、私は視界に入ったラファエルの背中を見て、笑みを浮かべた。


「さっさと金を寄越せ!!」


叫んだのは金髪の如何にも遊び人という風貌の男。

あれはおそらく、第二王子だろう。

そして第二王子だろう男の後ろに腕を組んで偉そうにしている赤い髪の男。

金髪の男より年上に見えるので、おそらく第一王子。

二人とも民の税を無駄遣いしていると一目で分かるような、これ以上ないだろうという煌びやかな服を着ている。

………普段着でそれ?

え?

パーティ用じゃないよね…?

………民が貧困しているのに、その格好……

………うん。

潰して良いよね?


「ラファエル様」


思いの外、私の声は通路に響いた。

何処までも続いていると思えるほど広い回廊。

歩く度に金の壁で目がくらみそうになる。

………この金、剥がして売って良いかな。

お金になりそう。

そんな事を思いながら歩いてラファエルに近づく。


「ソフィア!?」


目を見開いて驚くラファエル。

そして、さり気なく天井から殺気送らないでライト。

カゲロウを叱らないでね。

私の我が儘だから。


「誰だお前。関係ない奴がランドルフ王宮に足を踏み入れるな!!」


………うっさいな金髪。


「お初にお目にかかります。わたくしは、ソフィア・サンチェスと申します」

「………サンチェス、だと…?」

「はい。サンチェス国の第一王女です。この度、ラファエル様の婚約者として、お邪魔しております」

「そ、そう、か……」

「ここ最近滞在させて頂いておりますが、わたくしは、関係ないのでしょうか……」

「い、いや、申し訳ない。把握しておりませんで……」


仮にも王子が弟の婚約者を把握してない、と。

………う~ん。

うちの第二王子と似た臭いを感じる。


「そうでしたか。ご挨拶が遅れて申し訳ございません………それにしても……ラファエル様が何か問題でも起こしたのでしょうか?」

「は?」

「いえ、周りの兵士さんが武器を構えておいでなので……ラファエル様が処罰されるなら、わたくしも婚約者として同罪ですわ。ですから、一緒に処罰して下さいませ」


私はラファエルの腕に抱きつき、キッパリと言った。


「ソフィア!」


ラファエルが慌てて庇おうとするが、私はその体勢から動かなかった。


「さ、サンチェス国の姫君を我々が処罰など、め、滅相もない!」


金髪が数歩下がる。

………でしょうね。

まだ私はランドルフ国の人間ではない。

サンチェス国民だ。

同盟国の民を勝手に処罰すれば、同盟を終わりにするということにもなる。

更に私はサンチェス国の王家の者だ。

処分したらどうなるか。

今のこの国の状態でそんな事になれば、ランドルフ国が終わる。

そして自分たちが贅沢できない。

そういう事は瞬時に考えられるらしい。


「ですが、先程のお話が少し聞こえてしまいまして……ラファエル様の財を押収すると。ラファエル様の財はわたくしの財でもありますので、申し訳ないのですが押収されるのでしたら、同盟の条件を少し考え直さねばならなくなりますね」

「な!? ど、どうしてだ!」


第二王子だけではなく、第一王子も戸惑う表情を見せた。

………よく考えなさいよ……

ラファエルを虐めたのだから、私が虐め返しても問題ないわよね~?

ニッコリと私は微笑んだ。


「わたくし、こっそりとランドルフ国を回らせて頂いておりました」


私の言葉に王子達の顔色が変わる。


「………サンチェス国へ毎月出して頂いている報告書には、数年前から状況が変わっていないと書かれていました。………記入していたのはジャック・ランドルフ様」


赤髪の男の頬が引きつった。

やはり彼が第一王子で間違いないらしい。

同盟国として、お互いの近況を報告するのは信頼関係を築くためにも、大切なこと。

その報告書に怪しいところはなかった。

だから、現状のランドルフ国の事を、私も、サンチェス国王も知らなかったのだ。

信頼を裏切ったのはランドルフ国王家。

………だから、同盟を考え直さざるを得ないと言える。

裏でラファエルに動いてもらって、テイラー国との交渉が上手くいったからサンチェス国王は同盟をまだ継続させる気はあるようだ。

あれから王との文通は続いている。

散々帰ってこいと言われているのは、また別の話……


「そして、国境の様子も変わっていないと書かれていましたね。チャールズ・ランドルフ様」

「――っ!」


息を飲む王子二人と戸惑う兵士達。

ラファエルは何かあった時の為に身構えているのか、体に力が入っている。

私は笑顔を消し、すぅっと目を細める。

ランドルフ国の王家に、サンチェス国の王家が、舐められたらダメだ。

大丈夫。

私は王女。

同盟国だからって、上とか下とかない。

対等な立場。

でも、民を守るべき王族が民を見下し、困窮させている。

人として許せない。

自分がされたらどう思うか、少しは考えろ。

思いっきり見下せ私!

威厳ある立ち姿を見せろ!

私は、彼らを裁く権利がある!

国民に生かされている立場を忘れた者達を、決して許すな。


「これは、同盟違反です。更に、わたくしとラファエル様の個人財産を押収するというのなら、相応の理由を提示して下さいませ。現在はランドルフ国の問題を、わたくしの財産で肩代わりしております。その財を押収するということは、サンチェス国の財に手を出すことも等しく、更に肩代わりした分もそっくりそのままお返しくださってから書面にし、押収して下さいませ」


本当はサンチェス国王が肩代わりしている状態だ。

ラファエルがテイラー国の被服店から受け取ったお金は、民に配った量の半分にも満たなかった。

そりゃそうだ。

だって、父が送ってくれた食べ物は、ランドルフ国民が全員およそ一ヶ月食べていける量。

毎月サンチェス国から送っている、同盟を結んだ量と同じ量を送ってくれたのだ。

民を助けたいという父の思いと共に。

それを借金という形で、父に待っていてもらっている状態だ。

これも何ヶ月か続けないといけない。

借金は膨れ上がる一方になる。

ラファエルと私が持っている財は実は0だ。

へそくりすらない。

だから、ラファエルは今も走り回ってお金を作る方法を探ってくれているのだ。

そんなラファエルに財を寄越せとは、ふざけている。

王子という肩書きを持ちながら、何故そんな事が出来る!


「出して頂く押収の書類は――一度、サンチェス国を通さなくてはいけません。わたくしの財ですから。今すぐ記入頂けますか」

「な、何か勘違いをされているようですね姫。わ、私達はラファエル個人の仕事の不始末の賠償金を要求したのですよ。姫の財に手を付けようとは――」

「ですから、わたくしはラファエル様個人のお仕事も手伝っているのです。二人で稼いだお金です。ラファエル様の仕事の不始末とは何ですか。それも書面にして頂けますか」

「――くっ」


言葉に詰まる王子。

でも、私を睨みつける元気はあるようだ。


「………ラファエル様、お兄様達を守りたいですか?」


小声でラファエルに聞くと、ラファエルは首を横に振った。

よし、言質は取ったぞ。

潰しても良いって事だよね?

うん、もうちょっと追い詰めてみよう。


「現在、ランドルフ国の問題は、わたくしが父に直接ご報告しております最中です」

「「なっ!?」」


第一王子も第二王子も、顔が真っ青になった。

当然だろう。

必死で隠してきただろう事を、女の私が調べ上げ、自国に報告しているのだから。


「………同盟はどうなるのでしょうね?」

「そ、そんな事をしたら! 俺達はどうなるんだ!」

「………“俺達は”ですか。守るべき民を見捨てておきながら、自分たちの心配は出来るんですね」

「どういう意味だ!!」


言葉遣い乱れてますよ~


「民を守らない王族など要らないということですよ。民を見捨てておきながら、自分たちの尻拭いを民にさせるような、そんな王族が収めている国と、同盟を続ける必要はないっていうことです! わたくしは、貴方達を王族などと認めません! 恥を知りなさい!!」

「このアマ! 言わせておけば!」

「ソフィア!!」


逆上した王子達は、私に襲いかかってきた。


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