第166話 宰相は腹黒?で文武両道?
ラファエルと合流するべく、ライトに先導されながらラファエルが落ちていった方向に向かっていた。
その途中、ルイスが目を覚ました。
「こ、こは…?」
「あ、気がついた?」
ルイスの顔を覗き込むと、ハッとして彼は身体を起こした。
カゲロウは気付かれないように離れている。
………一応引きずってたのは悪いと思っていたのだろうか…
「ソフィア様、お怪我は!?」
「私よりルイスの方が心配よ。気を失ってたのだから何処か痛めたのじゃない?」
「いえ……どちらかというと……空中で腹部に強い負荷がかかって息が一瞬止まり、酸欠で意識が遠のきまして……」
うん、絶対にこちらの過失だ。
カゲロウがルイスを助けようとした行為なのだろうけれど…
ごめんルイス…
「そ、そう。もう大丈夫?」
「はい。意識はハッキリしております」
「じゃあ、歩けるかな」
「はい。問題ありません」
………宰相といっても鍛えてるのかな…?
貴方さっきまでカゲロウに担がれて、足をゴリゴリと地面に擦りつけてたと思うんだけど…
普通に立っているし、表情に苦痛はない。
………うん、この事は忘れよう。
「どちらへ向かっておいでですか?」
「ラファエルの所。ラファエルと私は火の森の方へ入っちゃったから」
「分かりました」
ルイスに説明し終え、私達はまた歩き出す。
「………そういえば、ルイスの精霊の属性を聞いてもいい…?」
「はい。私の精霊は闇属性です」
「闇!?」
「ええ。何か……?」
………闇属性と言われ、一瞬ルイスの性格もそっちかもしれない、と思ってしまった。
ふるふると首を横に振ると、ぷっと笑われる。
………何よ…
「自分が腹黒な自覚はありますので、遠慮なく指摘してくださって大丈夫ですよ」
「………え!? そうなの!?」
「………そういえばソフィア様には見せたことありませんかね…? ラファエル様は仕事中に毎回ソフィア様のお話をされるので、一緒にいるつもりになっておりました」
いや、待て。
今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど!?
「ラファエルはちゃんと仕事してるの!?」
「ええ。ですが許容範囲を超えての疲れを感じた際、ソフィア様に会いたい、抱きしめたい、口づけたいとの単語が出てきます。それを一刀両断するのが私の仕事ですからね」
「………」
「『一生会えなくなっていいなら愚痴れ』『仕事が終わったら会えるだろ』『我が儘言うな不良王太子』などなど執務室でつい本音が出てしまいますので」
「………」
あ~……それは腹黒、と言っていいのかな……
「『私は婚約者に会えずにお前のお守りをしている。我が儘言うなら辞めるぞコラ』『王太子にソフィア様は勿体ない。俺が貰うぞ』とつい言ってしまうことも。まぁ、これが出ると大人しくなるのですから可愛い甥っ子ですよ」
「………」
口が悪いなルイス……
………いや、この叔父にしてあの子あり……?
これはもう聞かない方がいいのかもしれない…
「………って、ルイス婚約者がいるの? 奥様じゃなくて…?」
「意外ですか? まぁ、この年ですからね。ですが彼が心配でしたから。王族として血を多く残すのは義務ですが、多すぎても教育が行き届きませんし、なによりこの国の貴族令嬢はソフィア様も知っての通りですし、王はあれで、元王子もあれでしたから」
「………ぁぁ……」
いっぱいいてもって感じだな…
うちの第二王子もあれだったし…
ラファエルの子とルイスの子は、どちらも王家血筋で争い起こるかもだしね…
欲深い令嬢が好き放題にして、子の教育も自分の思い通りにするだろう。
「ですが、ラファエル様がソフィア様と御結婚なされた後、私の肩の荷は半分下ろせます。ですからその後、お2人を支えられるような環境を整えたいと思いましてね」
「え……ぁぁ、王族の結婚は政略結婚が当たり前ですものね…」
「はい。お2人と相性がいい、害さない令嬢が見つかりましたので、婚約話を受け入れたのですよ」
「………受け“入れた”? ルイスから話を持ちかけたのではないの?」
「話はあちらからでしたね。条件は出しましたが」
「条件?」
首を傾げる私を見てルイスは微笑んだ。
あ、これ言ってくれないやつだ。
「姫、お待ちを」
先導していたライトが手で私の歩みを制す。
「………どうしたの」
「………あの火の動きが可笑しいのです」
燃えている木を指差して私に言ってくれるライト。
私もジッと火を見ると、徐々に輪郭が見えてくる。
「! 精霊よ!」
私が言うと、全員が一斉に武器を構えた。
………って、ルイスも武器持ってたの!?
ルイスの手を見ると、見慣れた暗器だった。
ライトやダークが好んで使うクナイ。
接近戦が得意な者が操る武器。
ルイスの武器に気を取られていると、火が動いた。
一直線に突っ込んでくる。
火の中には精霊が見えた。
人間の大人くらいの大きさって事は力は大って事でいいのかしら?
ここに水精霊はいない。
だったら!
「土精霊! 土の柱!!」
私が叫ぶとドッと私達の周りを土が立ち上り、土のドームが出来た。
ドスドスッという音がする。
体当たりでもされているのだろう。
「土精霊、精霊を土の中に閉じ込めることは出来るの?」
『出来なくはない、だが短時間だな。精霊は暴走すると1段階力が上がる。制御できなくなる為に訳も分からず周囲にいる生物を敵と見なす』
敬語じゃなくなってる…
土精霊も緊張しているのだろうか…
「………じゃああの精霊は元々中の力なのかしら…」
『………いや、特大だな。だから今は我らの力に近い強さと思っていないと、油断したら死ぬ』
ひぃ!?
いきなり大物引いちゃった!?
「水精霊にしてもらっちゃったら殺しちゃう…?」
『間違いなく』
「精霊が暴走したらどう対処していたの?」
『力尽くで身体を押さえつけ、大人しくなるまで待つ』
………物理攻撃で解決するの!?
魔法で抑え込むんじゃないんだ!?
『だが、今は主がいる。危険に巻き込むわけにはいかない』
「………ぁ…」
そっか……今までは精霊しかいない場所での事だったから…
これは私がなんかアイデア出さないと…
………精霊の暴走とは……?
精霊が力を押さえつけていたために、耐えられなくなって力が精霊の意思に反して外部へ放出される…
………放出し終えたら止まるから、皆は大人しくなるまで待つ……って事だよね……
………放出?
「そうだ!」
いきなり大声で叫んでしまい、皆を驚かせてしまったけれど、私はお構いなしでニッコリとルイスを見た。
見られたルイスは何だか嫌な予感がしたのか、顔を歪めていた。
失礼な。
私はルイスの表情を無視して、口を開いた。




