第162話 花は癒しでもありアイデア向きです
学園から帰って、1度ローズと別れた。
そしてその足でソフィーと合流し、今に至る。
「ねぇソフィー。この柄なんかどう?」
「いいですね」
私は庭園でソフィーと甘味の包装アイデアを出し合っていた。
道の途中で腰を下ろし、花に触れながらソフィーと話し合う。
ラファエルから甘味のサンプルをもらって、大きさが分かったから箱の大きさと中敷きは決まった。
後は包装紙だけ。
ソフィーがせっかく庭園を造ってくれたのだ。
花のデザインを採用しないなんて勿体ない。
「期間限定の特典なんか付けたらどうかしら…」
「特典…ですか?」
「そう。例えば、この薔薇の柄の包装紙に包まれた物を買った人の箱の中に、薔薇のしおりが入ってたり」
「まぁ! それは花が好きな令嬢や本が好きな令嬢に人気が出ますわね!」
ソフィーの言葉に私はホッとする。
「しかも期間を限定することによって、2度と手に入らない、みたいな宣伝すれば…」
「それはいいアイデアですわね! 各国の希少な花を手に入れられれば、他国にしかないという花で貴族令嬢が好みそうですわ!」
自分のアイデアにソフィーが賛成してくれて、私は微笑む。
この間ラファエルに花風呂を提案したことで、幸い今ランドルフ国内、主に温泉街に各国自慢の花が集まってきている。
「ラファエルに頼んで少し花を貰えれば、しおりは私達が作れるし」
「はい! 手伝って頂きましょう!」
「………ん?」
「精霊達にですよ。こういう時、ドライフラワーのように最初に凍らせておけば、綺麗に出来ると思いません?」
………ドライフラワーに出来るなら、しおりにする必要ないんじゃ……
「花の形を留めて、凍らせて、しおり用の台紙に押しつけて、解凍するって感じですね」
「………ああ、成る程…」
氷と火…でいいのかな…?
じゃあ氷精霊と火精霊か。
………ん?
四神って4人だったよね。
青龍が水で朱雀が火、白虎が風で玄武が土だから……
………今度何の動物出てくるの!?
ちょっと怖いんですけど…
「し、しおりが終われば、次は……リボンとかいいかもしれないわね」
「リボンですか?」
「そう。平民向けに2個入りとか少ない甘味の量にして、平民でも手が届く値段にする。そして平民のオシャレ向けに花の色に染めたリボン。その次はかんざし……とかいいかも……花の形したマスコットとか付けたりして」
「可愛いかもしれませんね!」
「今の装飾品って、色のレパートリーが少ないと思うのよね……もっと日本みたいにいろんな色があれば良いと思うのよ。だって、ドレスや服なんか色とりどりなのに、どうして装飾品って原色しかないのかなって思ってたのよね…淡い色とか作ればいいのに…」
濃い色の装飾品は、ドレスに合っていなかったりする。
淡い色に合うときもあれば合わないときもある。
だからみんな同じ様な色になってしまう。
「筆記具の色も黒一色っていうのが、不便なんだよね…」
「姫様(の元いたところ)はカラフルな色でノートを飾っていましたね」
「うん。蛍光ペンとか欲しいときがあるよ」
笑って言うと、ソフィーも笑う。
「ケイコウペン、って何?」
「ひょぇえ!?」
突然背後から声が割り込んできて、私は飛び上がった。
危ないっ!
私が倒れそうになった時、腕を支えられて何とかその場に踏み留まれた…
もうちょっとで折角の花畑に、私の魚拓が出来るところだったわ……
「ソフィアの驚き方って毎回別になってない?」
「ラファエルが驚かすような事を毎回するからでしょ!!」
バクバクする心臓を抑えながら、私は振り返った。
そこには苦笑するラファエルと、ナルサスが立っている。
「いつからいたの!?」
「近づいたら“ケイコウペンが欲しいときがある”って聞こえたから。ついさっき」
「あ、そう…」
私が心臓を落ち着かせている間に、ソフィーがしおりやリボンの話をラファエルにしてくれていた。
ありがたや…
「うん、良いんじゃない? 包み紙の柄も特典の事もいいね。すぐに取りかかるよ」
「あ、うん。お願い」
ラファエルはナルサスに技術者に伝えるように言って、ナルサスを王宮へと戻らせた。
「ソフィア、ちょっといい?」
「どうしたの?」
私はラファエルに促されて、椅子に座らされる。
「ローズ嬢が言ってた帰国の件だよ」
「あ……」
「結論から言うと、当初の計画から変えない」
「じゃあ、呼ぶの?」
「うん。温泉街の店はまだ開店できないけど、温泉はもう入れるからね。各国の花も集めて、店も改装済み。ガルシア公爵領から人材を貰う件も了承を得た」
………ああ、クラーク伯爵家はガルシア公爵の領地にあるから一纏めなのか。
「早急に接客の教育をしてもらって、温泉には入れるようにするから」
「分かった」
「もうサンチェス国には伝言を持って行かせてるから、向こうの返事待ち。すぐに来られるわけもないしね」
「そうね。まぁ、お母様とお兄様は一足先に来そうだけど」
クスリと笑うとラファエルも笑う。
「でも早かったね? 花風呂はもっとかかると思ってた」
「幸い俺の元に精霊が増えたからね。風と土が操れるとなったら簡単だよ。土の力で地面掘れたら温泉は作れるし、風の力が操れたら刃物みたいに操って木を切れるし、一定の大きさに出来て壁用の素材はすぐに手に入るし、ね」
「え……」
ちょっと!!
ラファエル抜け駆けですか!?
一緒に訓練しようって言ったのに!!
ぷぅっと頬を膨らませると、あ…という顔をして、ラファエルが手で口を覆った。
もう聞いちゃったもん!
なかったことには出来ないからね!!
「ラファエル嫌い!」
「ごめん!! 嫌わないで!!」
ぷいっと顔を背けると、ラファエルが慌てる。
それを見てソフィーが笑う。
………なんだこの光景は…
何だかおかしくなって、私は吹き出す。
私が笑ったからか、ラファエルはホッとする。
「そ、そうだ! 王宮の近くに精霊の力の発散場所建設始めたから、急がせるよ! 出来たら一緒に訓練しよう!」
「………解決したの………? ……壁の材料……」
「うん。精霊に協力願ったんだ。そしたら特殊な材料を作ってくれるって。精霊の力を吸収する壁の材料。俺の精霊からソフィアの精霊に伝えてもらって、究極精霊達が作ってくれるようになった」
「ラファエルが勝手に私の精霊も使ってるよぉ……」
「ほ、ホントは出来たら言おうと思ってたんだ! 驚かせようと思って!」
「………ぁ、そ……」
その時ふと思った。
………まさかあの食堂の時の会話って……これのことだった……?
思ってもラファエルに聞けないから、憶測でしかないけれど。
ラファエルが驚かせようと思って私だけに黙っていたなら、怒れない。
………マーガレットが距離を取っている、と言ったのは、精霊のことに関して口を噤んでいたって事……?
分からないけど…それで納得することにした。
「………まだ怒ってる?」
かといって直ぐに機嫌直ったように見せるのも、なんか癪だなぁ……
「………一緒にお茶飲んでくれたら機嫌直るかも……」
「ソフィー! お茶の準備!!」
「くすっ。はい、畏まりました」
笑いながらソフィーはお茶の用意をし始めた。
「………お仕事いいの?」
「ナルサスが帰ってくるまでソフィアと一緒に休憩」
ラファエルが笑いながらそう言うので、私は苦笑を返した。




